16話 肉食
アリシア指定の9階までやってきた。
8階層で現れたヌララグスという謎の名前のバカデカい兎。一応、兎らしいがバカデカいネズミにしか見えないので可愛くはない。
そして、9階層から現れ始めるモスビーという名のデカい蛾。蛾なのか蜂なのかどっちなのか分からない名前だと思っていたらドロップ品は繭と蜂蜜でどっちもだった。
この2種が9階層に現れるモンスターでドロップ品で言えばヌララグスの肉と毛皮。モスビーの繭と蜂蜜。
この4種だが毛皮と繭は廃棄で肉と蜂蜜のみをアイテムボックスに収納していく。
ちなみに、ユーダリルダンジョンは謎が多く・・・ドロップする肉は何故か綺麗に切り分けられた状態で葉っぱに包まれている。蜂蜜に至っては瓶に入っている。なので床に落ちても汚れないので便利ではあるが何故にそこまで至れり尽くせり?
「そういえば、放置したドロップ品ってどうなるの?」
「ダンジョンに吸収されます」
「あ、それはどこも一緒なんだ」
「はい」
ニヴルヘルもビフロストもモンスターを倒しても死骸が残る。そして、それを解体して必要な素材を回収する。
不必要な部位はそのままにしておけばダンジョンが吸収してくれる。それこそ、ニヴルヘルは街の中にダンジョンがあるので各家庭から出るゴミ。家庭ゴミもダンジョンに捨てられる。
大きい物程、重い物程ダンジョンに吸収されるまで時間が掛かる。
吸収された物はダンジョンを構成するエネルギーに変換されるとされている。これは検証のしようが無いので実際はどうか分からないが昔からそう言われている。
「でも、やっぱり、解体の手間が掛からないのは良いね」
「そうですね」
「汚れないし臭いも付かないから」
「最初にご主人様と会った時、汚かったし臭かったもんね~」
「!?」
振り返るとアリシアが振りかぶりアリスの後頭部を思いっきり叩こうとするがアリスが屈んで躱す。躱されるのを最初から知ってましたと言わんばかりに流れるようにくるっと回ってそのままアリスの脳天にチョップを叩きつけた。
「ふぐっ・・・」
アリスの足が地面に少しめり込んでいる。石畳の床なのに・・・。
その光景に汚くて臭かったと言われた衝撃が吹っ飛んだ。
いや、冷静に考えると・・・あの時の2人は全身の肉が腐り爛れ落ちていた。そして、喉や鼻の粘膜も恐らくは機能していなかったと思う。200年振りに匂いを感じたはずだ・・・200年振りに嗅いだ匂いが、モンスターの血や体液の臭いがこびり着き、その上で全く風呂に入っていない垢の溜まりに溜まった俺の臭い。
うん、とてつもなく臭かっただろうと思う。
しかも、そんな臭いのヤツと200年振りの食事を共にしたんだから・・・冷静に考えたら離れてやれよ。とも思ってしまう。
そんな悲しみを、哀しみをヌララグスとモスビーにぶつけた。
その結果、俺のアイテムボックスの大半はヌララグスの肉で埋め尽くされる事となった。
「一旦、休憩にしない?」
「畏まりました」
階段のあるセーフエリアで腰を下ろし一息付く。
「ご主人様」
「うん?」
「テーブルと椅子をお願いします」
「あ、そうか・・・」
今日、受け取ったばかりのテーブルと椅子を出し腰掛ける。
「ふぅ~~~」
「それから、薪とレンガもお願いします」
レンガをコの字に積み上げ薪をセットするとアリシアが呪文を唱え火を着ける。
そこにフライパン等をセットしていき料理の準備が完了した。
「ラッシュブルの肉とボアファングの肉をお願いします」
「はーい」
溜まりまくっているヌララグスの肉は要らないのか尋ねたところ・・・美味しいけどラッシュブルにもボアファングにも及ばないので今は要らないとの事だった。
「このアイテムボックスってのも便利だよね」
「そうですね」
「無かったらここにある物全部背負って持ち込まないといけないんだし」
「ドロップを拾う事考えたら持ち込める量も限られますからね~」
「1パーティーに1人欲しくなるよね。アイテムボックス持ち」
「アイテムボックスのスキルを持っている方自体本当に稀ですので難しいかと」
「あ、そんなレアなんだ」
「はい。しかも、容量も少なくて使い物にはならない場合がほとんどですね」
「なるほど」
ただし、そういった使い道では使い物にならないというだけで、国に召し抱えられるレベルでレア且つ有能なスキルらしい。
密書などの運搬には最適だそうだ。
「家具工房で親方が何かそれっぽい事言ってなかったっけ?」
「他にもアイテムボックス持ちが居られる様な事を仰ってましたね」
「アスガードだと意外と居るとか?」
「そうかもしれませんね」
そんな会話をしながらもアリシアの手は止まらずテーブルの上に所狭しと肉料理が大量に並んでいった。




