14話 剣盾
3日間、金の稲穂亭で宿泊しながら色々と準備を進めた。
準備といってもアリシアに言われた事をそのまま遂行するだけである。
「出来てるぞ」
依頼していた物が完成したと報告を受けたので家具工房に物を受け取りに来ていた。
「テーブルに椅子が3脚。ベッドが3台。枕やら布団はサービスしといてやる」
「ありがとうございます」
「で、どこに運ぶんだ?」
「このまま受け取らせて頂きます」
「は?」
「ご主人様お願いします」
「はーい」
1つずつアイテムボックスに収納していく。
レベルも上がり、容量もかなり大きくなった。
「アイテムボックスか。意外と居るもんなんだな」
レアスキルらしいが世界に俺1人という事も無いだろうから他にもアイテムボックスのスキルを持っている人が居るようだ。
「持ってく手間も省けたからサービスで何か持ってくか?」
親方は名のある名工らしく親方作の木工品は軽く金貨が飛ぶ様な値段になるらしいが弟子たちが作った物はまだまだだそうで弟子の作った物なら2-3個好きに持っていけ。との事だった。
細かい細工の彫られた小箱。
「お、これ良いかも」
「そりゃ俺のだ」
「あ、はい」
目に付く物は全て親方作の物で。師匠と弟子では明らかな腕の差がある事が分かった。
「見かけによらず見る目はあるんだな」
うん?どういう意味だろうか?
「エラく綺麗なお付き連れてるから貴族様かと思ったがそうでもなさそうだな」
「ごくごく一般人ですよ」
「だろうな。貴族の嫌な雰囲気が無ぇもんな」
褒められてた可能性が微妙に上がったか?
「成金のバカボンかと思ったが違ったようだ」
「そんな風に見えます・・・?」
「着慣れてなくて服に着られてる感じ。身の丈に合ってなさそうなお付きの2人」
そう言われると反論の余地が無いな。
「まぁ・・・全くその通りです」
1年前はボロしか着れなかったし。その日の食べ物にすら困っていた。
そして、この2人が居てくれるのはたまたまだし。そう見えるのは納得だった。
「詫びだ。好きなの持ってけ」
「良いんですか?」
「おう」
「でも、親方のはかなり高いんじゃ?」
「気が変わらねぇウチに持ってかなくて良いのか?」
「ご主人様。でしたらこれを」
「あ、じゃあ、これで」
「おまっ、マジか・・・そりゃズルくねぇか?」
「あれ?もう気が変わっちゃいました?」
「わーった、わーった。男に二言は無ぇ」
「ありがとうございます」
アリシアに勧められたのは本当に細かい細工が全体に施されたパーテーション。
男に二言は無ぇと言いながらも帰るまでずっとブツブツ文句を言っていたが遠慮無く貰って帰った。
逆に潔く渡されてたら、申し訳なくて代金を支払いたくなっていたかもしれないが・・・。
続いて、武器防具工房にもいくつか依頼をしていたので受け取りに向かう。
「うーん・・・こんなチグハグで良いのか?」
「はい」
作り置きされていた盾とロングソードを買う事になり。俺の身体に合うように微調整された物を受け取りに来た。そして、また装備して最終確認をしたが親方には何かが引っかかっているようだった。
「まぁ、ユーダリルなら問題無いか」
「はい。ありがとうございました」
武器と防具を受け取り宿に戻り。流石に武器防具工房の親方との会話が気になったのでアリシアに尋ねた。
「ニヴルヘルでは安全を最優先してレベリングを行いました」
「うん」
「ビフロストは移動だけでしたので」
「うん」
「ユーダリルではご主人様ご自身で狩りをして頂こうかと思っております」
「え、俺が狩るの?パワーレベリングじゃなくて?」
「はい」
順序として逆になってしまったがレベルやスキルといったものではなく戦闘スキルや戦闘経験を積む事がここユーダリルでの目的らしい。
本来であればユーダリルから始まりビフロストと続きニヴルヘルに向かうのが理想らしいがスタート地点がニヴルヘルだったので仕方なくこの行程にしたそうだ。
そして、親方が言っていたチグハグの正体は俺のレベルがどう見ても高い。そのクセして盾も剣も使う姿がどう見ても初心者。高レベルだから金を持っているはずなのに初心者用の安物の盾に剣。
確かに、売る側から見てそんな客だと混乱もするだろう。
「まずはご主人様の思うがままに戦ってみて下さい」
「え?うん」
その後、宿を引き払ってからユーダリルダンジョンに向かい。ダンジョンに足を踏み入れると共にアリシアにそんな事を言われてしまった。
これまでは拘束され弱りきったモンスターにトドメを刺すだけだったり、アリシアにふっ飛ばされて気を失っていたり大ダメージを受けているモンスターにトドメを刺す。そんな感じでしか戦ってきていない。
ここに来て自分の判断で戦わなければいけない。そんな窮地に追いやられてしまった。




