10話 潮汐
日に数度の休憩を挟み、陽が傾き始める前から野営の準備を始め、日の出と共に出発する。
途中、何度か小さな村に着いた時は宿に泊まる事が出来。壁と天井がありちゃんとした寝具で寝れるありがたみを感じた。
「もう直に着きますね」
「おー、やっとかぁ」
慣れない旅は心身共に擦り減る。馬車にも慣れてもう酔わなくはなったが日本の電車や車での旅と比べると雲泥の差で・・・この振動を味合わずに済むと思うと新天地への不安なんて吹っ飛ぶというものだ。
休憩中、地面に座っていてもずっと揺れてる気がしてしまう程にずっと揺れていたのだ・・・。
「この街はミズガルズと言います」
「へー」
「ここにあるダンジョンはビフロストダンジョンと言いまして」
「へー」
美味しそう。
「主に海洋モンスターが生息しております」
「へー」
思ってたんと違う。
「海洋って魚とか?」
「はい」
「どうやって狩るの?釣り?」
「ビフロストは少し特殊なダンジョンでして」
「うん」
「ダンジョン内が一面海になっております」
「うん」
「そして、その中央に橋が架かっております」
「へー」
確かに特殊だ。
上層は小型の魚が多く、釣りをしたりも出来るらしい。
中層を越えるとマーマンの様な半魚人やケルピーの様な動物型のモンスターも生息しているらしい。
「ケルピーって川とか湖に居るヤツじゃなかったっけ?」
「基本的にはそうですね」
「だよね。引きずり込むヤツ」
「ですが。海に生息するケルピーも少数ながら存在します」
「へー、そうなんだ」
そして、どういう構造になっているのか分からないが階層によって淡水だったり海水だったり流れがあったり無かったりするらしい。
それこそ、周りを木々に覆われているマングローブの様なエリアもあったりするらしく。そこには潮の満ち引きもあり、満潮時と干潮時で出現するモンスターが違うそうだ。
アリシアの言っていた通りミズガルズの街が見えて来ると否が応でもテンションが上がってくる。
「ミズガルズって名前違和感無い~?」
「そうね。昔はエンドールって呼んでたものね」
「そうなんだ?」
「200年も昔の話ですので、変わってもおかしくは無いですね」
確かに。
200年も街の名前が一緒って事の方が普通はおかしいのか。
統治者や所属が変われば名前も変わるだろう。それこそ戦争等で国の名前が変わったり国が増えたり減ったりするのも当然の話なのかもしれない。
みるみるウチに街が近づいてくる。
ヘルヘイムとは比べ物にならない程に大きな外壁が街を囲んでおり門に着いた時には誇張無く真上を見上げる程だった。
「身分証を」
「3人です」
「!?」
ヘルヘイムは田舎だったのか色んなものの規模も違えばセキュリティもレベルが違う。
守衛?衛兵?門番?なんと言うのが正しいか分からないがヘルヘイムの門にはそんなものは居なかったがミズガルズには守衛が居て身分証の提示まで求められている。
ヘルヘイムがガバガバなのかミズガルズがキッチリしているのかは不明だ。
「通ってよし」
「はい」
ギルドライセンスのおかげであっさり通して貰えた。
「冒険者ギルドはどちらに?」
「真っ直ぐ行って右手にある」
「分かりました。ありがとうございます」
「うむ」
門をくぐりそのまま馬車で真っ直ぐ進む。
街中もしっかりと整備されていて中央が車道、両端が歩道になっている。
「このまま冒険者ギルドに向かいます」
「うん」
冒険者ギルドに向かい、受付でライセンスを提示すると個室に通された。
「掛けてお待ち下さい」
「はい」
しばらくするとノックの音が響き、偉そうな人が入ってきた。
あ、偉そうって言っても態度じゃなく役職とかの意味でね・・・。
「あぁ、そのままで結構です。初めまして。スリュムと申します」
振り返ったのを立ち上がろうとしたと勘違いしたのか制されたが・・・そうか、こういう場合が立ち上がって迎えるべきなのか。
個室に呼び出してまで話したかった内容としては・・・自分を専属の担当にして欲しい。定住して欲しい。希少素材を持っていたら売って欲しい。欲しい素材があるから取って来て欲しい。欲しい、欲しい、欲しい。と、要望ばかりを押し付けられた。
「申し訳ございませんが定住するつもりはございません。しばらく滞在する予定ですが目的地は別にありますので」
と、業を煮やしたアリシアが欲しいを断ち切った。
「そうですか・・・」
交渉にすらなっていない。そんな風にそちらの都合ばかりを押し付けられて首を縦に振るヤツが居る訳が無い。
「それでは失礼致します」
旅の疲れを落とす為にしばらく高級宿に宿泊する事にした。




