1話 回想
「ご主人様、トドメをお願いします」
「えっ、あ、うん、良いの?」
「はい、お願いします」
ブンッ───。
どうしてこうなったのか。
思い描いていた未来予想図とはかなり違ってしまったが・・・。
俺がこの世界に来たのはもう20年も前になる。
気が付くと草原に寝そべっていた。学校の帰り道に子猫を助けた代わりにトラックに轢かれただとか、道路に飛び出した女の子を突き飛ばし車に轢かれただとかそんな事は一切無かった。
ただただ普通に帰っていたはずだったが、その途中で記憶が途切れている。
もしかしたら何かしらの転機はあったのかもしれないが、その事を俺は知覚出来ていない。
ただ気付くと草原に寝そべっていた。制服姿のまま。
パニックになりながらも草原の側を通る街道を見つけ道なりに歩いていると商人の馬車に拾われた。
その商人が善人で助かった。この世界の平均的な人間であればケツの毛まで毟られていた事だろうし。もう少し運が悪ければその時に死んでいたはずだ。
その商人に馬車に乗せて貰い、この世界のルールを色々と学ばせて貰った。
国の名前に街の名前、金の数え方に稼ぎ方、この世界がいかに危険かという事。
そして、この世界には魔法があり「ステータスウィンドウ」や「ステータスオープン」等と唱えると眼の前にステータスウィンドウが現れる。まさにゲームの世界だ。
俗に言う異世界転生。いや、この場合は異世界転移だとテンションが上がった。
ただ、商人の言うこの世界におけるごくごく一般的な子供と同程度のステータス。小説や漫画の様なチートを感じさせる要素は俺のステータスには無かった。
ただ、スキルの項目にこうあった。
パーフェクトヒール3/3 と。
勇者だったり剣聖だったり賢者だったり、そんな表記があればこんな異世界でも無双出来るんじゃないかと思ったかもしれない。
ただ、回復で無双は出来ない。便利かもしれないが後衛では活躍は難しいかもしれない。
そう思っていたが商人が言うには回復持ちは重宝されるとの事で落ち込みかけたが一瞬でテンションが上がった。
街に着き商人に感謝しつつ別れを告げ、向かった先は冒険者ギルド。ここで登録をすればそれが身分証にもなるらしい。
冒険者となり一定の功績・・・ノルマとも言える。を、果たせば税金も免除になる。
神様に会って謝罪を受けたり使命を授かったりといった事も無かった為、無一文でこの世界に放り出されている。
なので人の良い商人に中学の制服やカバン靴等、身に付けていた物を全て買い取って貰い懐具合はかなり潤っていた。
と、言っても・・・冒険者ギルドに登録をして武器に防具を揃えれば残るのは一月程の生活費のみ。
比較的希少で引く手数多とされる回復スキルを持った前途有望なる若者。
ギルドでパーティーの募集をすると直ぐ様反応があった。
今となってはどんなパーティーだったのか覚えていないが・・・中堅でバランスの良いパーティーだった気がする。
冒険者ギルドとしても回復持ちは大事にしたいとの事で経験を積ませる意味合いもあってそのパーティーを推薦し、俺はいざという時の回復要員であり荷物持ち、ポーターを務める事になった。
ダンジョン探索は順調に進んでいた。
冒険者ギルドからも俺の事は大事にするよう言われていたのか冒険者とは思えない程丁寧な対応をされていた気がする。
そして、転機が訪れる。
あれは恐らく斥候が罠を見逃したのだと思う。
しかも、最悪な事に連動型の罠を。
罠を発動させてしまい斥候が矢に撃ち抜かれ、倒れた拍子に別の罠が発動する。
今度は地面が崩れ、下の階層にパーティーメンバー全員が落下した。
落下の衝撃で首を折った者、落下した際に自分の武器が急所に刺さり致命傷を負った者・・・目を覚ました時には俺以外全員が亡くなっていた。
ポーターという事で背中に大きなカバンを背負っていた事が俺の助かった要因だとは思う。
ただただ運が良かった。
それでも、手も足も折れ。腹にはカバンから飛び出したドロップ品の小汚い剣が刺さっていた。
呼びかけても誰からも返事は無く。
失血の所為か痛みの所為かは分からないが意識が遠のき始めた時にギリギリで回復がある事を思い出した。
「パーフェクトヒール」
そう唱えると折れた手足はみるみる治っていき、腹に刺さっている剣も自然と排出され穴も綺麗に塞がり痛み一つ無い万全の状態に戻った。
そして、崩落の音を聞きつけた別のパーティーが駆け付け保護されて地上に戻る事が出来た。
そう。
ここまでは本当に運が良かった話だ。
そして、俺の不運の始まりは翌日になっても翌週になっても年を跨ごうともパーフェクトヒールの後にある数字、2/3がそのまま変化しなかった事だ。