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4回ー最終回ー

ああ、肩の荷が。。。。。。

 時間が経てば、縮んだ玉も元に戻る。

僕と赤子だけの未来語りは終わりを迎え、日常、イヤ、今に戻ってきた。

赤子は奥様。。。母親に。

僕は仕事に。。。。。

 ただ、僕はどうしても、にこやかに子守の礼を述べる母親の顔を見ることが出来なかった。黙ってボロボロと泣き続けたのでひと騒動になった。



「悪かったわよ。大人気なかったわ」

同僚によってバックヤードに引っ込められた僕にババァが謝ってきた。

すごく罰の悪そうな顔をしている。一応やつ当たっている自覚はあったんだ。。。。

 僕としては、すでにババァなどどうでもよくなっていて、手の出し用のない告知に対しての無力感でいっぱいだった。声を出す気力もなかったので黙って俯いていると、ババァは詫びのつもりなのか高級そうなシアルバーを数本僕に押し付けて去って行った。

その日、僕は早退をした。どうやって自宅に戻ったのか覚えていない。。。。。



 光陰矢の如しというが、本当にそうだった。

時間は僕らに対して、イヤ、何物も顧みずに平等だ。そう偉そうに語っては見るものの、過ぎ去りし群像を振り返れば。。。という条件のもとの感想だ。

渦中にある間は、どうあがいても眺めることも感じることもできない。その時その場の事を体感して行くしかないのだ。これも、駆け抜けて青息吐息の中息切れしながら思いつくような状態だ。

 何度か赤子を助けられないものかと無い知恵を絞ろうとしたのだが、その度に抜き差しならない人生双六のイベントが勃発した。偶然なのか運命の轍の為せる技なのかは知る由もないが、僕は自分の人生双六に集中せざるを得なかった。


 そうこうする内に、赤子との未来語りから40年が過ぎ、僕はジジィといわれる年齢になっていた。

仕事は定年退職して、再雇用のパートとしてスーパーでほそぼそと働いている。

40年の人生双六は、僕に家庭を与えささやかに山あり谷ありな人生を営ませていた。

人生双六道中の間に、何度も赤子の睨めつける視線。。。。。を、思い出しいたたまれなくなることがあった。たいていは、イベントの勃発や日常に忙殺されて記憶の片隅に追いやられていった。

 そして、今になって、というより僕が年を取ってしまったのだろう。少しづつ社会の輪の中心から外れて行って時間に余裕ができ、考える時間、イヤ、物思いにふける時間が増え思い出す回数が多くなってきたように思う。

おこがましいのは承知している。無力なのもだ。。。。

さっくりと聞いただけの話ですら、何をどうすれば手助けできるのか見当すらつかない。たとえ事件の現場に立つことができたとしても、緊急車両を呼ぶしかできないだろう。落ち着いて考えれば、それすらも危うい。。。。

しかし、助けてやれなかった。

酷い目にあうと分かっているのに、手も足も出せなかった。

あの赤子の視線と縮み上がる玉の音を思い出すと、そこらへんを転げ回りたくなる衝動に駆られる。

僕は無力だ。。。。

こうやって落ち込むことでしか、自己嫌悪からの脱出もできない。

全力で自分からも逃げ出している状態で、他の誰を救おうというのか。。。

無力にもほどがある。。。。。


赤子の事を思い出し、ここ数年ほぼ儀式化した自己嫌悪のルーティンワークをこなしているとスマホが鳴り響く。

孫からだ。。。

40年の間の人生双六は、僕に妻と子供と孫を授けてくれた。普段は考えることはないが、このささやかな人生すらも心苦しい時がある。

僕は、少々の引っ掛かりを感じたままスマホをスワイプする。

「ジーチャーン!!今修学旅行の自由行動中ー!お土産何がいい?小遣いくれたから買って帰るよ!!」

無駄に元気のいい声とともに、旅行先の風景がスマホの中に流れてきた。

少し暮れかかった大都会の街並みが見えてくる。

ここら辺ではお目にかかることがないネオンの洪水だ。いまはネオンとは言わないのかな。。。

昔の平面型のネオンサインと比べれば、すごくリアルな立体感のある映像だ。

なんかニュースでやってたな立体に見えるホログラムの映像の技術革新とかなんとか。。。

デジタルサイネージとやらの進化系だろうか。

こないだニュースになったところなのに商業化早いなー。。。などと思っていると、数人のバカっぽい、イヤ元気そうな声がスマホから聞こえてきた。

「うぉ!スゲ天使!!」

スマホからの声で画面に目をやる。

美しい天使が光を纏って手を差し伸べていた。現地で見れば、さぞ迫力のある優美な姿に映るだろう。

ふ~ん、綺麗なもんだ。どこから見ても立体的に見えるんだ。。。。。。

映画か?ゲームの宣伝。。。

ん。。。。。。


『ふん、泣くんじゃねーよ。最期の最期にゃ、こんなワシにも天使様がお迎えに来るのよ。キラキラしたキレーなネーチャンだったわ』


「探してくれ。。。。。。」

助けられるのか?イヤ、助けてどうする?助かった後は?


シタイハニネンクライハッケンサレナカッタ


「え?」

孫は素っ頓狂な声を出す。

当然だろう、楽しい修学旅行の真っ只中、気まぐれでスポンサーにご機嫌伺いをしたら意味不明のミッションを発令されたのだから。

「探してくれ!頼む!天使が手を差し伸べる先に!いるんだ!探してくれ!警察と救急車を!」

何を頼んでるんだ僕は!どうしようっていうんだ!何ができるんだ!僕に!


シンジネーヨ


「へ、ジーちゃん。どーしたの?」

確かに誰も信じない!

無力な僕の言い草なぞ!

孫も困惑している。大人として一旦引き下がって当該機関に通報。。。。。

してどうなる。。。。。

自己嫌悪のルーティンワークに罪悪感も付け足すのか?

睨めつける視線、玉の縮み上がる音。。。。。

身体の中から沸き上がるオノマトペが再現されようとしていた。

「いいから!探してくれ!天使の手が伸びてる先に、いるんだ!ジーちゃんの玉の沽券が!」

「たま。。。。」


オメーモダイジニシテモラウンダゾ


今まで、手を抜いて生きてきたとは思わない。

だが、今!全力の先に行かなければ、人生双六スピンオフに立ち向かうことはできない!

そしてその機会は、今を逃しては二度とない!

「そうだ!玉だ!お前にもいずれ分かるように話す!でも、いまは天使の手の伸びてる先を探してくれ!」


孫は訝りながらも寝耳に水のような僕の言葉に従い修学旅行グループ全員を巻き込んで、天使の手の指し示す先を捜索してくれた。

僕のミジンコが奮い起つような勇気と訳のわからないミッションに巻き込まれた孫達が、約1時間後ゴミと廃材の間に同じく廃棄物のように倒れ込んでいた彼。。。。赤子の成れの果てを発見した。

学生達の野太い悲鳴が発見の合図であった。



 大都会での死体の発見は新聞記事にもならず、孫達は2時間ほど警察に留め置かれただけで修学旅行を続けることができたようだった。

発見した元赤子の彼は死後およそ1日、事件性をまったく疑うことのない行き倒れだった。

 結局、彼を生きている内に助けることはできなかった。もし、助けていたとしてもこれまでの彼の人生を思えば、到底面倒見きれなかっただろう。多分、この結果でよかったと思う。

 彼の遺体は2年発見されない予定だった。しかし、早く発見することによって彼を身元不明の行き倒れとしてでなく、壮絶な人生を生き抜いた人として見送ることができたはずだ。

それだけでもよかったのではないかと思う。。。

彼もそう思ってくれることを願いたい。


 その後、いろいろな当該機関の手続きを経て、訝る家族や行政担当者を尻目に彼を見送った。

後は田舎の情報網を駆使して、おっかさんに雰囲気の似ている彼女の墓を探し近くに埋葬すれば、僕の自己嫌悪の救済が終わる。

情けないが、何一つ彼の為にしてあげられることはなかった。。。

本当は彼女と一緒に埋葬してあげたかったが、彼女の親が絶対に許さないだろう。

彼もそれは望むまい。。。

「僕は運命に挑めたのかな。。。。。轍はほんの少しでも形を変えられたかなぁ。。。。」

ぼんやりと何も考えずに佇んでいると、夕方の時報が耳に入ってきた。


 ぼちぼち、孫が来る。あの件で彼には面倒をかけてしまった。

約束通り、話をしてやらねばならない。

さて、どこから話すか。。人は見かけで判断するな?

女は怖い?

浮気はするな?

ん~、全部重要だ。。。。。

最も重要な事。。。。。玉が縮み上がる時には音がする。。。。だな。。。




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