犯罪者
ナイ―ドに吹っ飛ばされて倒れていたイエールはゆっくりと何とか上体を起こす。
「な、何しやがるんだ!」
イエールはやり返そうと立ち上がるもよろめいて再び倒れる。
「お前のような犯罪者が人々を不幸にしているんだ!」
今まで穏やかにしていたナイ―ドが急に態度を変えてイエールを罵倒する。
「だったら警察にたてつくようなことしてないで警察はいれよ」
イエールはナイ―ドから目を少しそらしつつぼそぼそとつぶやく。
「……、黙れ!」
「まあまあ落ち着けよ」
今にもイエールにもう一度とびかかりそうなナイ―ドをいさめたのはビードだった。
「警察署の真ん前にいつまでもいるのはちょっとあれだろう。続きはここから十分離れてからやろーぜ」
「そうね、それに、カイルに早くいろいろ聞いておきたいことがあるしね」
ルージュもビードに賛成して意見してくる。
「……、それもそうだね。冷静さを欠いていた。悪かったよ」
ナイ―ドはビードとルージュに対して謝罪する。そして、床に横たわっていたカイルをナイ―ドは持ち上げる。
「ったく、謝る相手が違うだろーが、くそったれが」
イエールは座ったままぼそぼそとつぶやく。
「じゃあ、行こうぜ」
ビードはイエールに対して手を差し伸べる。それをぶっきらぼうにつかんで立ち上がる。それでもふらついてまともに動けなかったので、ビードに肩を貸してもらう。
「おいおい、なんだよあいつ。あれが世界一の医者に対する待遇か?しぶしぶついてってやるってのにありえねーだろ。あいつ外せよ」
イエールは大きな声で言う。
「……、ふー……」
ナイ―ドは深呼吸をし、目を閉じて静かに歩く。ルージュはイエールの方を一瞬向く。
「まーまーそんな気にすんなって。やられても自分で直せばいーじゃん」
ビードは笑いながらイエールの背中をたたいて言う。
「いやそーゆー問題じゃないだろう!」
イエールは怒りをあらわにしながらぶつくさと文句を言う。
しばらく歩くと隣の町に到着した。
「じゃあ、とりあえずこの辺までくれば大丈夫でしょう。あとは人目につかない場所を探しましょう」
ルージュはそういって一同はまた歩き出す。
「じゃあこの辺にしましょう」
ルージュは人気のない森に入っていき、一同もそれに続く。
「まあ、とりあえず彼は拘束しておきましょうか」
ルージュはロープでカイルの手足を縛る。
「で、こいつからは何を聞くんだ?」
ビードはルージュに尋ねる。
「そうね、まずは……」
「その前に」
ナイ―ドが割って入る。
「イエール君についてさっきの続きをさせてもらうよ」
「あー、そんなこと言ってたな」
ビードは座り込んで言う。
「イエール君、君は犯罪者といっていたが、場合によっては僕が警察署に送りかえす」
「ちっ、まーた警察署に送り返す脅しかよ」
イエールは相変わらずぶつくさといっている。
「まー、こいつの医者の腕は確かだし、警察の人間じゃないってだけでいいだろう」
ビードは軽く言う。
「いや、犯罪者は人々に不幸をもたらしたからこそ犯罪者なんだ。信用できるかは怪しいだろう」
「だからそんなんだったら警察はいれよ。それとも入れてもらえなかったのか?というかお前こそ何者なんだよ。人の素性にうるさいくせに、警察に敵対しようっておまえも十分怪しいじゃないかよ。いや、そもそも警察に敵対って意味ではここにいる奴ら全員犯罪者みてーなもんだろう。現にこいつ拉致してるんだから」
イエールは縄で拘束されたカイルを指さしながらナイ―ドに吐き捨てるように言う。
「……」
ナイ―ドは一瞬黙る。
「そうそう、これから警察に対立するってんなら、結局俺らも犯罪者街道を歩むことになるんだからさ。そんなこと気にすんなって。それにこいつの医療技術はガチだからさ。居て損はないって」
ビードが笑顔で割って入る。
「……、そうだね、確かに、僕らはすでに犯罪者だ。清廉潔白でいようと思っていた僕が間違っていた。すまない」
ナイ―ドはイエールに対して頭を下げる。
「そうそう、分かればいいんだよ。じゃあ、さっき殴られた分やり返させてもらうよ」
「分かった。遠慮なくやってくれ」
イエールは助走をつけて全力でナイ―ドの頬を殴る。ナイ―ドはびくともしなかった。
「遠慮はいらない。やってくれ」
ナイ―ドはまじめな顔でイエールに対して言う。
「いえ、彼は全力のように見えたけど」
ルージュがまじめな顔で横から口をはさむ。
「……」
イエールはこぶしをナイ―ドの頬から離す。そして、うずくまる。
「どうしたんだい?大丈夫かい?」
ナイ―ドはうずくまったイエールを気遣う。
「お前のせいで……、骨が折れただろうがー!」
イエールはナイ―ドに向って大声を上げる。
「彼……」
いつも表情をあまり変えないルージュだが、少し困惑したような表情を見せながらビードに小声で言う。
「……まあ、死んだらまた医者を仲間にすればいいでしょ」
ビードも少し間があったが、いつものように軽く返答する。
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