思惑
「え?なんでお前も笑ってんの?しかも俺より大笑い」
白衣の男は変なものを見るかのような目をビードに向ける。
「あー、まあ、退屈しのぎになるから、とか?」
「死が退屈しのぎ?お前だいぶぶっ飛んでるな」
白衣の男は笑って答える。
「俺に死はないよ。今まで俺に切り抜けられなかったピンチはなかったからね」
「へ~、なかなか面白いね。でもそれを言うならここに連れてこられた時点でピンチの切り抜けに失敗してるんじゃないの?」
白衣の男は意地悪そうににやにやしながらビードに対して言う。
「まあ、そうかもな。ははは~」
ビードはそれを軽く受けて笑う。
白衣の男はビードに対して相も変わらず怪訝そうな目を向け、さらに言葉を発する。
「で、お前は何やらかしのさ?」
「ああ、カイルだっけ?そいつを拉致しようとして返り討ちよ」
「くくく、いるよな~、たまにそういうやつ。なんでそんなことしたのさ」
白衣の男は楽しそうに聞く。
「ん~、なんで、暇つぶしとか?」
白衣の男は一瞬きょとんとするもすぐに調子を取り戻して大笑いする。
「はははは。こんなバカは初めてだな。しかしお前、回復が早いな。もう傷がほとんどふさがってるじゃないか。まあ、俺の腕がいいってのが大きいだろうが」
白衣の男は多少驚きながら言う。
「へ~、これあんたが治療してくれたのか。ありがとうな」
「ふん、まあ、これから殺されるってやつを何人も治療していくんだから笑えるがな」
白衣の男は乾いた笑いを含みながら言う。
「ふーん、あんた、名前は?」
ビードは白衣の男に向って言う。
「俺?イエール・イール。世界一の医療技術を持つ男だ。覚えておくといい。お前の言うとおり、生きていれば、だがな」
イエールは半笑いでビードに向って言う。
「世界一の腕を持つお前がこんなところで使われてんのな」
ビードは不思議半分、面白半分といった声音で言う。
「そいつも犯罪者だからな。牢屋に行かないだけ結構なことだろうよ」
ドアが開いて警察の人間らしい男が入ってきた。
「おい、余計なこと言ってんじゃねえよ」
イエールは心底不快そうにその警察の人間らしい男に吐き捨てる。
「なんだ、一生牢屋に入れてやろうか!ええ!」
警察の男はイエールに向って大声を張り上げ、こぶしを振り上げる
「うええ、すいませんすいません。光栄な仕事させてもらってます」
イエールは頭を手で覆って早口で答える。
「ふん、屑が」
警察の男は振り上げたこぶしを収め、ビードの方に向かう。
「おい、明日お前は拷問部屋に入ってもらうぞ」
そういって警察の男はドアから出ていく。
「あー、ったくくそったれが。どうしてここの奴らは横暴な奴しかおらんのかね~」
イエールは唾を吐き捨てつついう。
「ははは、まあ、言ってもお前も犯罪を犯してるんだろう?」
ビードは笑いをこらえたような表情でイエールに言う。
「うるさいぞ。手錠かけてるお前に言われる筋合いはない。さっさと拷問されてこい」
イエールはいらいらしているようで、貧乏ゆすりをしている。
「明日か~。仕方がないね。今から出るか」
ビードは立ち上がる。
「へ~」
イエールはいらいらした様子から一転、不敵な笑みを浮かべてビードの方を薄目で眺める。
隣の町にて
「それで、これからどうするつもりなんだい?」
ナイ―ドはルージュに尋ねる。
「やはり、顔を見られている以上、カイルを早いところ何とかするしかないわね。やはり事件の指揮をしていた彼から事情を聴いておきたいところですしね」
「確かにそうだね」
「じゃあ、カイルが建物から出てきたところを拉致しましょう」
「おいおい正気かい?同じ手がまた通用するとは思えないけど。警備も増やしてくるだろうし」
「そこはあなたの実力を見込んで、頼むわ。その時にさっきの彼も合流して加勢してくれる予定だから」
ルージュは笑顔で言う。
「そうかい……、まあ、分かったよ」
ナイ―ドは困惑していたが、ルージュが全く心配を感じさせないトーンですらすら言うのでなんとか納得した様子で答える。
それに対して笑顔で返したルージュは間を置かずすぐに尋ねる。
「ところで、あなた、被害者の近親者といっていたけど、事件について何か知っていることはないの?」
「有益な情報は何も。ただ……」
「ただ?」
ナイ―ドは思いつめたような表情で続ける。
「僕の家系グリッツ家は代々伝わる剣術道場の家系だ。みんな相当の腕を持っていた。それが全滅……。犯人の強さは尋常なものじゃない……!」
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