虎の穴
「いやー、ここの料理ほんとにうまいぞ。食いたかったら遠慮せず食っていいぜ」
ビードは店で出された大量の食事を貪りながら、目の前の少女ルージュに言う。
「まあ、それ、わたしが代金出してるんだけどね」
ルージュはほおづえをつきながら調子を変えずに淡々としている。
「で、付き合うって何するの?」
ビードは相も変わらず食べながらルージュに聞く。
「まあ後で話すわ。食べ終わったらついてきて」
「ふーん」
それからしばらくビードは無言で食べ続け、ルージュも何も話さずただ頬杖をついたまま店内に備え付けられたテレビをぼーっと眺めていた。
そして、ビードが食べ終わったので二人は店から出て人気のない場所までルージュはビードを連れてきた。
「ここでいいわ」
「おいおいなんだってこんなところに」
ビードは不思議そうにしている。
「しー、ここからは小声でお願いね」
ルージュは人差し指を自分の手に当てる。
「あなた、十年前の剣術道場で大量に変死者が出た事件を知ってる?」
「知らん」
ビードは即答する。
「そう。実はね、偶然にも今日がその事件の時効の日なの」
ルージュは淡々と話す。
「ふーん、大量死人が出た事件で犯人が特定されず、しかも時効が10年と短いとは変わってるな」
ビードは不思議そうに話す。
「そうなの、この事件には明らかに何かある」
「権力者の犯行とか?」
「そう、その犯人やかかわった権力者を特定してゆすってみたりしたら、面白いと思わない?莫大なお金だって手に入るだろうし」
ルージュは淡々と、しかし微笑を浮かべながらビードに問いかける。
「あんた、何が目的だ?そんな危険そうなことに本気で首突っ込む気か?」
「だからあなたを誘ったのよ」
「なるほど、用心棒というわけね。見る目あるじゃないか。いや、考えてみれば俺の強さは誰の目にも明らかだな。とはいっても、だいぶあんた、ぶっ飛んでるね。」
「興味ないの?」
「ないね」
ビードは即答する。
「まあ、さっき承諾してもらったことだし、ついてきてもらうわよ。当然、同行している間の報酬は出すわ。」
「ふーん、まあ、俺が死ぬことはないけど、あんたは死ぬかもよ」
「ふふ、仕事はちゃんと頼むわ」
ルージュは少し笑ってそう答える。
「で、具体的にどーすんのよ」
「そうね……、まずは、事件の捜査の指揮をしていた人間をあたってみるのが手っ取り早いでしょうね。じゃあ、今から行きましょう」
ルージュはさっそく歩き出した。それにビードもついていく。
しばらく歩いてルージュが立ちどまったところ、それは警察の建物だった。
「ここか、じゃあ、入ろうか」
「まって」
ルージュは建物に入ろうとするビードを引き留める。
「私たちの目的を他に知られるのはあまり得策ではないわ。ここには事件の捜査の指揮をしていた人間、カイル・ボージュがいるの。彼が帰宅するところを、さらってしまいましょう」
「ふーん、それを俺にやってほしいと」
「頼んだわよ」
二人は警察の建物から目的の男が出てくるのを待った。しばらく待ったところ、目的の男カイル・ボージュが出てきた。
「よし、出てきたわね。ほかの人に気づかれないように少し人目のない場所に行ったときに決行しましょう」
「はいよ」
カイルに気づかれないように尾行していると、カイルが角を曲がった。その先には人目が内容だったので、ビードがカイルを背後から近づいてさらおうとする。
「おっと」
ビードはカイルから距離をとる。それは、カイルに近づいた瞬間、ビードの首めがけて小刀が振り切られたからである。
「気づいていたようだな」
ビードはにやにやと笑いながら言う。
「ほう、たいていのものは今ので大体始末できるんだがね。かすり傷とは君は優秀だね」
「まあな」
ビードは当然といった感じで誇るようにするわけでもない口ぶりで答える。
「もう一人いるようだね、隠れてないで出てきなさい」
ルージュがビードの後ろから出てくる。
「気づかれたなら仕方ないわね。一応聞いてみるけど、私たちについてきてくれない?」
ルージュは相も変わらず微笑を浮かべて言う。
「うん?君は……。いや、気のせいだな。そんなはずはないしな」
カイルはルージュを見たとき一瞬怪訝そうな顔をしていたがすぐに調子を取り戻す。
「おいおい、何ぶつぶつ言ってんだ?返事ははきはき頼むぜ」
ビードはカイルにそういう。
「ふふふ、すまない。それはできない相談だ。なぜなら君たちはここで死ぬからだ」
カイルは帯刀していた刀を抜く。
「ははは、老人が無理するもんじゃないぜ」
ビードは笑いながら同じように帯刀している刀を抜く。
そして背後には相も変わらず感情が読み取れないような微笑を浮かべているルージュ。