表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11




 朋久の怪我は小さなものだった。でも舞は泣いた。

 翔哉が警察を呼び、三人は病院へ移送された。病院へつき、舞はふらふらしていてまっすぐ歩けず、車椅子で運ばれていった。朋久はふた針縫ってもらって、待合室で所在なげな翔哉のもとへ戻った。

「お前、強すぎ」

 苦笑いを返す。小学生の頃から背だけは高いので、中学生や高校生に間違われ、不良に喧嘩を売られることが多々、あったのだ。それで、喧嘩の仕方は覚えた。逃げ足も速いので、補導されたこともない。

 それに、ああいう手合いは嫌いだ。朋久は三年前を思い出す。朋久の父親は、自分に似ずに背の高い朋久を毛嫌いしていた。母方の男は皆、背が高いから、その遺伝だろうに、自分の子どもかどうかを疑っていたのだ。だからなのか、些細なことで朋久を殴ったり、蹴ったり、激しく叱責したりした。三年前、とうとう包丁を振りまわした父親を、朋久は返り討ちにし、それ以降父親は朋久の人生から消えた。

「ありがとう、翔哉」

「俺、なにもしてねえよ」

「警察呼んでくれたし、舞の家も教えてくれた」

「だから、なにもしてねえじゃん」

 翔哉は子どもっぽく相好を崩した。ラジオはもう鳴っていない。時間どおりだ。


「あれ、朋久?」

「和佐」

 弟と妹の手をひいた和佐がやってきた。「また喧嘩か?」

「そんなものかな」

「山城と一緒かあ。俺もまぜろよ」

「ちげーよ」

 翔哉は頭を振る。

「和佐は?」

「惠美の定期検診。明後日まで入院だって」

 惠美というのは、和佐の二番目の妹だ。生まれつきの糖尿病で、たまに入院する。

 診察室から、舞をのせた車椅子が、看護師におされて出てきた。医師がそれに続く。和佐の弟と妹が、ぱっと走っていった。「おとーさん」

「パパー!」

 和佐がすぐに追いついて、ふたりを抱え上げた。医師が少しはなれたところに立っている。和佐はにこっとした。「父さん、久し振り」

「和佐。なにかあ……ああ、惠美の検診か」

「うん。明後日まで入院だって」

「そうか。早苗、貢、和佐の云うことをちゃんときくんだぞ」


「細山って……院長先生の?」

「翔哉、しってるの?」

「……こよみの主治医」

「ああ……」

 翔哉は眉をひそめている。

 かちっと、ラジオが音をたてた。しかし、なにも聴こえはしない。

 翔哉は長く、息を吐いた。




 事情聴取があって、朋久は解放された。翔哉のケータイにメッセージを送ってみたが、返事はない。

 和佐と並んでチーズハンバーグをつくる。「藤咲さん、酷いみたいだな」

「うん」

「父親、捕まったって。母親も」

「うん……」

 朋久はハンバーグのなかへチーズの塊をおしこみ、俵形にまるめる。和佐のおとうと達は、TVアニメを見ている。

「僕、余計なことしたのかな」

「なにが?」

 和佐は怒ったみたいな声を出した。「お前は、大人から殴られた女の子を助けた。それだけだ。違うか?」

「それは……」

「俺でもお前と同じことをしたよ。お前が傷付けられても俺はそうする。お前だって、俺が傷付いたら、やってくれるだろ」

 ハンバーグをフライパンへ滑り込ませる。

 和佐は優しい口調になって、云った。

「お前のハンバーグうまいから、藤咲さんにも食べさせてやれ」

「……うん」

「肉じゃがもうまいよな。お前、いい嫁さんになるよ」

「やめてよ」

「藤咲さんがだめだったら俺が居るからな」

 軽く蹴ってやると、蹴り返された。ふたりは笑う。「花火、残ってるからやろうぜ」

「もう十月だよ」

「いいんだよ、何月でも」

「……うん。そうだね」

「でかいやつ、残ってたかな」

「ひとつあるとおもう」

「そっか。そうだ、今度、庭の草むしりしねえと」

「手伝うよ……」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ