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「舞」

「どうして?」

 舞のその言葉には、恐怖のようなものがあった。けれど朋久は、それに気付かないふりをした。

「風邪ひいたって聴いたけど、元気そうだね。サボり?」

「帰って」

 舞は小さく、怯えた声で云う。朋久は微笑みで頭を振る。

 おい、と、だみ声がする。舞はびくついて振り返る。「はい、おとうさん」

 だみ声がなにか云った。舞は青くなっている。

「舞?」

 声をかけると、彼女は朋久を見た。目に涙がういている。

「あのタオルハンカチ、返してくれるかな」

「え?」

「とりに来た」

 外階段へ向かった。舞は短く鋭く、ダメッ、と云う。

 その背後に、目付きの悪い男が立った。不摂生が顔にあらわれているタイプだ。肌がくすみ、目に力はない。ないが、凶悪なものを感じる。

「こんにちは」朋久はにこにこして云う。「舞さんのお父さんですか? 僕、佐橋朋久と云います」

「舞、なんだ、あののっぽは」

「おとうさん、煙草ならすぐに買ってくるから」

「あいつは誰だと訊いてる。高校生か? 男に俺のことを話したのか」

「クラスメイトの佐橋朋久です」

 朋久はそう云いながら、外階段をのぼっていって、舞の手を掴んだ。ひっぱると、彼女はあっさり朋久の腕のなかへおさまる。

 舞の父は、それに怒ったらしかった。「舞!」

 舞は悲鳴をあげる。朋久は彼女を抱え、外階段を降りる。舞は震えている。「朋くん、だめ」

「怪我、酷そうだね。病院へ行こう」

「おろして……」

 舞が大きく叫び、朋久は横へひょいと跳んだ。なにかが空を切る。

 振り返ると、彼女の父親が包丁を持って立っていた。肩で息をしている。

 朋久はそれを睨む。

「娘に触るな」

「娘さんが大切なんですか」

「あたりまえだ」

「だったら、病院につれていったらどうです? こんな怪我をして、視力にも影響があるかもしれない」

「親が子どもをどうしようと、勝手だろうが。ガキが口をはさむな」

「舞、朋久……」

 翔哉がやってきて、包丁を持って立つ舞の父を見、硬直した。左手首からぶら下がったラジオが、耳障りな音をたてている。

 舞の父が包丁を突き出してきて、朋久はその腕を思い切り蹴った。包丁が宙を舞う。「朋くん!」朋久のふくらはぎからは血が流れていた。制服のずぼんが裂けてしまったことを少しだけ惜しく思った。

 体勢を崩した舞の父に、足を踵から振り下ろす。彼は朋久に踏まれ、その場に這いつくばった。

「大人が、子どもに包丁を振りまわすなよ」

 ぽつりと云う。舞の父は呻くのみだった。





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