第6話 気づかないふり
「自力でミルクを飲めるようになったね」
「クロエちゃんのおかげだよ!」
「私は世話していないよ。梅が頑張ったんだよ」
「イネのお世話を許してくれたし、この家に置いてくれたでしょう?」
「イネ?」
「この子の名前!稲穂みたいな色だから!」
古風な名付けだった。さすが566歳の幼女。
「早く普通のエサも食べられるようになるといいね」
「…うん」
イネが自力でエサを食べられるようになったら保護猫団体へ連れて行くことになる。別れは淋しいが貰われていった先でも可愛いがってもらえるだろう。梅は別れを予感しながらイネとの毎日を大切に過ごした。
「今日は打ち合わせで都内へ行くから帰りは遅くなるよ」
「ご飯は食べてくるの?」
「うん、今日は夕飯は要らないよ」
「いってらっしゃーい」
梅と付喪神たちでクロエを見送った。
『儂、見てしまった』
クロエは深夜まで戻らないと分かっているがヒソヒソと囁き声で内緒話をする付喪神たちと梅。
『何をじゃ?』
『クロエがペット保険に加入したのじゃ』
『………』
『………』
『………』
『ならばペットシートを定期購入に切り替えておったのは儂の見間違いでは無かったか』
『………』
『………』
『………』
『分かっておるな?』
『沈黙じゃ』
『下手にクロエを刺激したらイネは本当に保護猫団体に連れていかれるぞ』
『梅も良いな、素知らぬ顔をするのじゃ』
『うん』
イネを抱いた梅が肯いた。
『儂等はイネのサポートと躾じゃ』
『場所を弁えずに爪を研いだら保護猫団体行きじゃ』
『トイレの訓練もじゃ』
付喪神たちの尽力でイネは聞き分けとお行儀の良い大人の猫に成長し、クロエ家の飼い猫のような居候のようなポジションにおさまった。