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第九話 山あり谷あり

まさか、こんなにも早くブックマークしてくださるとは……感激でございます(-人-)

もっと面白くでいるよう精進いたします!m(._.)m

 ケイリイさんとの稽古から3日後の話。

 3日間も何をやっていたかって? もちろんギルドの依頼=雑用をしていたさ。


 聞いてくれよ。

 前日の依頼なんて、写真のモデルなんかやらされてさ。

 僕がやることじゃないって思ったんだけどーーえ? 雑用の話はいいから続きを話せ? アッ、ハイ。

 この日を境に雑用生活が変わっていくのは確かだけど、僕の苦労話に少しは興味を持ってよ……言い出した僕が恥ずかしいじゃないか。

 

 まぁ、そんなに続きが気になるなら仕方ないかーー。



 ◇ 



 ーーエルマー国:総合ギルド内ーー


「頑張ってるようだねソータ君」

「トリトンさん?」


 今日も依頼を受けるため気合入れて総合ギルドに入館すると、魔法の先生であるトリトン先生から声をかけられた。


 変わらずゾンビみたいな痩せこけた身体に青白い顔色で、見ているこっちが不安になりそうな様相だった。

 連日、魔力を使った仕事をして、抜けちゃいけない何かまで取られてんじゃないかな?

 トリトンさんには悪いけど、こうはなりたくないなぁ。


「総合ギルドに何か用でもあったんですか?」

「それは私から答えるわ」


 先生に対して失敬なことを考えているのは自覚しつつ疑問を投げてみると、トリトンさんの後ろからケイリイさんがひょっこり出てきた。


「ソータくん、今から時間大丈夫かしら?」


 特に急ぎの内容とかないので、素直に頷く。

 ケイリイさんに促されるまま、3人で酒場の一角に座り、それぞれが飲み物を頼んだタイミングで僕から口を開く。


「ケイリイさんとトリトンさんの組み合わせは珍しいですよね」


 ケイリイさんは総合ギルドと警備ギルド、トリトンさんは魔法ギルド。関わり合いはほとんどない。

 共通しているといえば、僕の体術と魔法の先生という点だろうか。


「ソータくんに知らせたいことがあってーー」

「君のギルド登録の取り消しの話だけどーー」

「ええぇっ!?」


 2人から続けて発せられた言葉に衝撃を受ける。


 まさか、前日のギルド員をボコったことがバレたのか!?

 仮にも本物のギルド員を攻撃したし、アイリスちゃんを誘拐しようとした証拠もなかったから、治安を守る警備ギルドへ通報する際は慎重に行動したはず。

 信頼できるケイリイさんに通報が届くよう見計らったし、怪しまれないよう匿名で伝えた。


 もしかして、現場を見ていた他の人がいたのか?

 もしかして、倒した暴漢たちに身元を特定されたのか?

 もしかして、使った魔法の残滓とかを魔法導具(マジック・アイテム)で調べたりできるのか?

 憶測が次々と現れてパニックになりそうになる。


 あれ? 僕の空飛ぶ願いはここで潰えるのか……!?


「「というのは冗談で」」

「冗談なのかよっ!」


 アタフタする僕をニヤニヤしながら見ていた2人に、揃って揶揄(からか)われた。

 思わず、丁寧語も忘れてツッコんでしまった。

 心臓に悪すぎる……!

 こちとら負い目があるんだからやめてほしいよ……。


「アハハ! おちょくってごめんなさいね。本当は頑張っているソータ君に朗報よ。修了試験を受けてもらうことになったわ」

「……それは本当ですか?」

「疑り深いわね……。さっき総合ギルドからきた正式な通達よ」


 ケイリイさんから1枚の用紙を渡された。

 そこには僕が研修から卒業するための修了試験を資格の獲得、と明記されていた。


「よぉしっ!」


 本物であることを確認できた僕は、喜びからガッツポーズした。

 修了試験に合格することで、自分の入りたいギルドに所属することができる。

 航空ギルドのような人気のギルドなどは、さらに登録試験があったりする訳だが、見習いから解放されることが大事なのだ。


 6ヶ月苦労して頑張って良かった!


「日程についてなんだけどーー」

「ケ、ケイリイさん!」


 終了試験の打ち合わせを続けていると、総合ギルドにいる受付嬢の1人が慌てふためいてケイリイさんを呼んでいた。


「2人共ごめんなさい。少し席を外すわね」


 ケイリイさんは受付カウンターの方へ向かったが、一体何があったのだろうか。

 依頼の発注、受注業務に加えてクレーム対応みたいなことまで平然とやってのける受付嬢がかなり取り乱していた。

 オロオロしてケイリイさんに指示を仰いでいる受付嬢さんの様子を見ていた時ーー。


 ポォー! ポォー! ポォー! ポォー!


 蒸気機関車の汽笛音みたいな高い音が4回聞こえた。

 鳴った場所は外だろうか。

 騒がしい総合ギルド内でもハッキリと聞こえたのだから、相当大きな音だろう。


「何ですか今のーー」

「さぁ! 狩りの時間だお前ら!」

「おい、他の奴らを叩き起こせ! 置いていかれるぞ!」


 僕が音の正体を聞くと同時に、ギルド内にいる戦闘職の人たちが異様に盛り上がった。

 普段呑んだくれている人たちも酒を片手にノリに乗っていた。


「住民に出す避難勧告の準備は!」

「どこのシェルターに向かえばいいですか!」

「ああっ、娘と合流しなきゃ……」


 一方で非戦闘職種のギルド員や依頼を出そうとしていた一般人は、恐れや不安と言った表情を浮かべて慌てていた。


 興奮と戦慄によるごっちゃになった感情が総合ギルドをパニックになりかけていた。


 そんな中、総合ギルドの職員たちは受付カウンター前で何やら作業をしていた。

 僕の腰ぐらいの高さ、受付カウンターと同じ幅のある台の設置だろうか。

 設置を終えると数人が登壇しており、中にはケイリイさんもいる。


「皆さん! 聞いてください!」


 登壇した職員の1人が大きな声で呼びかけるとギルド内にいる全員が喧騒を止め、そちらへ目を向けた。

 そして、ケイリイさんが手にした書類を読み上げる。


「これより緊急依頼を発令! 依頼内容は魔物の討伐。討伐対象はワイバーン。南西方向から約4時間後に群れがやってくるわーーその数およそ1000頭」

「去年より多いな」

「やりごたえがあるぜ」


 戦闘職の人たちが戦意を滾らせる。


「報酬は買取額の増加よ。素材は皮、牙、翼幕、肉、そして魔石。相場の4割増し、状態が良ければ5割増しで総合ギルドが買い取るわ」

「ギルドも太っ腹ですな」


 商人らしき人たちがニヤリとする。


「領空圏内で迎撃する予定だけど、島内に侵入することも考えられるわ。1番と5番のシェルターを開放するのでいざという時は避難をするように。心配な方は総合ギルドの者が案内するから遠慮なく聞いてね」

「良かった……」


 戦いとは無縁の人たちがホッとする。


「この依頼はギルドに登録してない人でも受注可能にするわ。どうかーーこの国をお願いします」

「「「おっしゃぁぁっ!!」」」


 依頼を受ける人は受注のためにカウンター前に群がり、カウンターの奥では総合ギルド員が飛空船の燃料・弾薬などの補給の段取りのために動き回り、依頼を受けない他の人たちは情報を知らない人たちのために奔走している。

 

 ギルドのいつも以上に活動的な様子に面食らうばかりだ。


「い、一体何が起きるんですか?」


 事態が全く把握できない僕は、ギルドがいつも以上の騒ぎにあるのに落ち着いてコーヒーを飲んでいるトリトンさんに説明を求めた。


「ソータ君は初めてだったか。この国は毎年この時期になると、魔物の大群に襲われるんだよ」


 トリトンさん曰く、魔物の群れが生息地を求めて移動を行う”渡り”という現象らしい。

 地球にも同じ行動をする動物はたくさんいる。

 だが野生動物なら問題ないのだが、相手が魔物なのがいけない。

 

 ーー魔物。

 正式には”魔法生物”と呼ぶ。その名の通り魔法を使う人以外の生物の呼称だ。

 ただでさえ人よりも高い身体能力を持つ生物が、魔法を使うことで野生動物よりも脅威度が桁違いに高くなる。

 火を吹き、風を起こし、雷を落とすーーそんなやつらが大挙して襲ってくれば、畑は燃え、家屋は倒壊し、人は傷つく。

 下手したら国の存亡に関わるほどだ。

 

 だから国やギルドが依頼を出し、戦える者を1人でも多く雇って、総力を挙げて対処に当たる必要がある。


 もちろんデメリットばかりではない。

 倒した魔物の身体が素材として活用できるのだ。

 丈夫な皮は服やバックに、強靭な爪や牙は武器に、内臓は滋養に効く薬に……他にも様々な物の材料として使い道がある。

 しかも野生動物のそれより格段に性能が良くなることから魔物素材の製品は不動の人気があり、需要が途切れることはない。


 故に今回のような魔物の大群は宝の山と見ることもできる。

 報酬は獲ったら獲っただけギルドが買い取ってくれるので、商人や戦闘職の人にとっては大きな危険であれど、一攫千金を狙うチャンスでもあるのだ。

 

「けど、いつもより来るのが早いね」

「そうなんですか?」

「そうなんだよーーソータくんもツイてないね。せっかくの修了試験が中止になっちゃうね」

「はぁっ!?」


 説明をしてくれたトリトンさんがとんでもない情報をぶっ込んでくれた。


「ちゅ、中止になるんですか!?」

「戦える人は駆り出されるし、他にも避難誘導や怪我人の手当てなど、やる事はたくさんあるから人手はいくらあっても足りないよ」

「確かに……」

「しかも討伐終了後も、獲物の精算、消費した物資の補償、畑や家が壊された場合はその修復など、事後処理で総合ギルドはしばらく忙しくなるから、試験は数週間後になるかな」

「そ、そんな……」


 国の一大事に呑気に試験をやっている暇がないのは僕でも分かっている。

 でもさぁ……よりによって何で修了試験の日に被ってくるかなぁ!


「さて、そろそろ動きますか」

「え、どちらに行かれるんです?」


 頭を抱えている僕を横目に、コーヒーを飲み干したトリトンさんが腰を上げた。


「魔法ギルドでも攻撃の魔法ができる者は依頼に参加して知り合いの船に乗せてもらうんだよ」


 驚きと共に、その手があったか、と閃く。

 僕も魔法使いの端くれ、戦力としてカウントされてもいいはずだ。


「ぼ、僕もその船に乗せてもらってもいいですか!?」

「うーん、本当は乗せてあげたいけど……ソータ君はまだ総合ギルドの見習いだし、魔法ギルドの一存では決められないかな」

「今すぐ聞いてきます!」


 どこまでもマイペースなトリトンさんの言葉に半ば被せるように答えた僕はすぐさま受付カウンターに向かう。


「ケイリイさんはどこだ……?」


 カウンター前はいまだに人が殺到していて、受付カウンターの前は渋滞で混んでいて、奥にいる総合ギルドの職員の姿が見えない。


「ソータくん、ソータくん」


 キョロキョロと探していると、人だかりの少し離れた所からケイリイさんに呼ばれた。

 彼女に近寄るといきなり頭を下げられてしまった。

 突然の行動にビックリしているとケイリイさんが口を開く。


「本当にごめんなさい。せっかくの修了試験なんだけれど、今回は中止となったわ」

「それは仕方ないですよ。こんな事態になってしまったので」


 それなりにショックではあるけれど、今はそれよりも聞きたいことがある。


「僕も魔法使いとして飛空船に乗り込んでいいですよね?」

「それについてだけど、今回の緊急依頼は総合ギルドで待機していてほしいのよ」

「それじゃあ船の紹介をーーえ?」


 緊急だから仕方ない、といった感じの言葉を言われるかと思いきや、まさかの”待機”に思わずケイリイさんを二度見した。


「嘘ですよね……?」


 聞き間違いじゃないかと確認したが、申し訳なさそうに顔を横に振っているのが事実を物語っていた。

上司から”お前は引っ込んでろ!”と言われた! さぁ、どうする?

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