第十九話 竜種との戦い
なんでそこまで飛びたがるか不思議? 前にも言ったけど、死んでも手放さなかった想いだよ?
誰にだって邪魔されたくないじゃないか。
例えば、空腹の状態で目の前に大好物のご馳走を出されたら我慢できる? 待ちに待ったクリスマスプレゼントが枕元に置いてあったら開かずに我慢できる? 僕にとって空を飛ぶことがそれらと同じことなんだよ。
納得できない?
んー、ジェットコースターやお化け屋敷みたいなスリルが好きな人がいるじゃない? 飛び交う雷の中を飛んで命を懸けるのも一種の刺激みたいな……。
ん? 人が死んでいる戦場をはしゃぐのは少しサイコな気がする?
あー、確かにちょっと不謹慎……かもしれない。
自分が死を体験してしまったから、その辺りの感覚がおかしくなっているのかもしれないーー。
◇
ーーエルマー国:領空ーー
テラリスを排除すべき敵とみなしたバラウールは攻勢を強めていた。
捻れた雷を撚り合わせて作った雷の槍、近づくと雷を撒き散らす浮遊する機雷といった技と呼べるような強力な魔法が矢継ぎ早に撃ち出される。
「埒があかないわね!」
テラリスは大剣のサーフィン移動による疾走と同時に炎の剣の生成・射出も絶えず行なっているが、戦況は膠着状態。
強引に突破することはできなくはないが、どうしてもレーヴァテインの起動時に隙ができてしまう。
バラウールはレーヴァテインを警戒してか、徹底して遠距離魔法を撃ち続けてテラリスを休ませないのだ。
しかも制限時間付きなことはテラリス自身が理解している。
その内、後ろのエルマー国の飛空船たちがテラリスごと砲撃してくるだろうことは予想している。
……というか散発的ではあるが既に砲弾が後ろから飛んできている。
大部分のワイバーンが片付き、余裕が出てきたのだろう。
テラリスと戦っている間は砲撃が通ると思っているようだが、当たりそうな砲弾は雷撃が全て弾いてる。
残念ながらバラウールの纏う雷は、竜種の意識とは関係なく自動で防御行動を行う。
砲撃していけば分かることなのに、エルマー国側の学習しない頭の悪さにテラリスはイラつく。
そんな奴らのことを結果的に守っていることにも腹が立つ。
……あたしは全く関係ないのに、種族が分かった途端に白い目を向けてくる。
バカにしてくる奴らは滅ぼしてやりたい……けどノア船長から止められている。
心の中にモヤモヤが溜まっていく。
戦いとは関係ないことを頭の片隅で考えていたら、砲弾が近くの機雷を撃ち抜き、爆発的な放電が衝撃波となってテラリスを襲う。
「きゃああっ!?」
直撃はしなかったものの体勢を大きく崩し、足を止めてしまった。
そこへ群がるように大量の雷が殺到してきてテラリスは身体を緊張させる。
「テラリス!」
名前が呼ばれたと同時にテラリスの右肩に衝撃が叩いた。
テラリスは1mほど押し出された後、急いで体勢を整える。
そこでようやく視線を向けた。
誰かが代わりに雷撃を受けたのだ。
それは誰か……そう、僕です!
僕が代わりに雷の前に立ったのです。
雷はどうしたのか? 僕の魔法で逸らしてやりましたよ。ピンチのテラリスの前に颯爽と現れ……え? 自分で言ったら台無し?
い、いいじゃないか! このぐらいカッコつけさせてよ!
目の前でテラリスがバランスを崩したから急いで駆けつけたんだよ。
「何で来たのよ」
えぇぇ……それが助けられた人の言うセリフぅ?
それとも押し出したこと怒ってるの?
「バラウールを倒すために決まっているからだよ」
「アンタは呼んでない」
「そっけなくない? アルファンド号に乗せてくれた恩はまだ返せてないよ」
「……アイリが悲しむから、怪我されたら困るんだけど」
そりゃあ、自分を助けてくれた人が目の前で怪我したら目覚めが悪いよね。
でも空に放り込んでおいて、その心配は今更でしょ。
何かテラリスらしくない。こう……意気が弱い。
”死んでも付いてきなさい!”ぐらいは言われると思っていたのに。
もしかしてターボの言葉を気にしているのかな? ”いつものこと”って言ったのに、心に引っかかっているとは……意外とテラリスにも繊細な部分があるんだな。
今に解決できることではないけれど、これから竜種と戦うのだから、少しでも払拭できないだろうか。
…………。
「テラリスは心配してくれないのか?」
「はぁ? あんたの心配なんかする訳ないじゃない。アイリに気に入られているからって調子乗らないで」
「後輩へ気遣いもしないで1人で行くのはどうかと思うよ? テラリス先輩?」
「そ、それは、あんたが勝手に行動するからでしょ!」
「勝手にって……テラリスが独りで突っ走って、何の指示もしていないじゃないか!」
「後輩は先輩の背中を見て学ぶもんよ! 丁寧に教えてもらえると思ったら大間違いよ!」
ちょっと揶揄ったら、理不尽な返し……この口の減らなさこそテラリスだ。
「ははっ」
「い、いきなり、どうしたのよ」
「いや、やっぱりテラリスはそのぐらい元気がある方が似合っているなって」
「っ!? ちょっ、ばっ、なっ、変なこと言わないでくれる!? バラウールと戦っているのよ! 集中しなさい!」
バラウールといえば、突然現れて魔法を防いだ僕を値踏みするように窺っていた。
「それについてだけど……僕に先行させてくれ。バラウールの魔法は僕が凌いでみせる」
「……大丈夫なの?」
話題を切り替えるように真面目な顔で、テラリスの盾になることを打診してみた。
テラリスからはバカにするように……ではなく心配するように返された。
「ああ、任せてほしい」
「分かった、信じるわ」
自信をもって言ったけれど、まさかテラリスからそんなこと言われるなんて。思わず二度見してしまった。
「何見てんのよ! さっさと行きなさい!」
「いたっ!? わ、分かったよ」
僕の視線に気づいたテラリスになぜか尻を蹴り上げられてしまった。
何なんだよ、もう……。
よく分かんないけど、気持ちをリセットしてバラウールと向き合う。
「行くぞ。重力魔法ーー方向変化、重力増加、展開!」
魔法を重ねがけして、自分が制御できる最高速を出して飛ぶ。
機雷を避けつつ、最短ルートで突っ込む。
テラリスは……ちゃんと後ろに付いて来ている。
暗闇の中で僕が纏う透明のオーラが稲妻の光に反射して銀色に光る。
重力のイメージは黒? 誰が決めたそんなこと。
「重力魔法ーー空気集中、展開!」
猛スピードで近づいてきた僕たちにバラウールが攻め立てる。
前方に見えるあらゆる所から雷撃が襲いかかる。
その前に新たな魔法を発動。
目前にまでやってきた雷は突然ガクンと曲がって、脇へ逸れていった。
通常の雷撃も強化された雷槍も関係なく、僕には届かない。
まるで雷が僕を見ていないように外れていく。
実は空気って絶縁体らしいんだよ。
じゃあ何で雷が放電するのかというと、チリや水分もしくはイオン化(中性化)した電気の通りやすい部分を探していて、だからジグザクに進むんだってさ。
この”空気集中”は空気中にある電気の通しやすいものを集めて、電気の通りやすい道を作ってるだけなんだよ。
”反重力”でも雷は防げると思うけど、ぶつけて弾く”反重力”と違って空気を集めるだけだから、消費魔力が少なくて長期戦にも耐えられる。
ただこの魔法を火や水を相手に使っても、空気の厚い層なんて簡単に突き抜けてくるだろうから、対雷魔法専用になるけどね。
テラリスが戦っている時に中学の化学で習ったことを思い出したんだ。
不安半分だったけど、実践できてよかった。
……もしかしたら今の説明は厳密には違うかもしれない。バラウールの雷だって本物の雷とはちょっと違うかもしれない。
でもいいんだよ。それが魔法だから。
”こうしたい”ってイメージが現象を引き起こすのだから。
雷の猛攻を抜けてレーヴァテインの間合いまで飛び込む。
「よくやったわ!」
「どっ!?」
バラウールの攻撃を一通り捌いた後テラリスから褒められたと思った次の瞬間、右肩に衝撃。
どうやらテラリスが僕の肩を足場にしてジャンプしたようだ。
「いくわよ! レーヴァテイン!」
テラリスが再度、大剣の攻撃形態を展開。
刀身が巨大化したかのように炎が刀身を形成。
腰を捻り、コマの回転のように剣を水平に振った。
1度目の縦の振り下ろしと違って、今回は横へ薙いだ。
上から下へ身体を伸ばすバラウールに対して、横斬りは当てられる面積が大きくなるはずだ。
だがバラウールは剣の軌道を見切り、身体を後ろにズラして避けようとする。
「逃がさない!」
テラリスはさらに魔力を注入して、炎を精密操作ーー刀身をさらに伸ばした。
直前に伸ばされた刃にバラウールは対応できずーー細長い……しかし僕たちにとってはデカい身体に食い込み、そして切り裂いた。
この戦いにおいて初めてバラウールに傷をつけることが出来たのだ。
しかし両断とはいかず、遅れて鮮血が噴水のように吹き出す。
バラウールは力尽きることなく、首と尻尾を激しく振って身悶える。
隙だらけの今がラッシュをかける時だ。
僕はそう思い、バラウールとの距離をさらに詰める。
テラリスは大剣を思いっきり振った反動で硬直しており、待って一緒にいくべきかと考えたが、僕が先に戦ってバラウールの注意を引いていればテラリスも攻撃しやすくなると判断。
では、身体を揺らすバラウールにどこを攻めるか。
……傷口を抉っていこう。
攻め方がエグい? そんなこと言われても、僕の拳がワイバーンよりも厚い鱗やトゲがついた甲殻を砕ける自信があまりない。
なら、明確な弱点となった傷を刺激してやるだけでもテラリスのレーヴァテインを振るう時間を作れるはず。
主人公がそれでいいのかって? いいんだよ。倒すことの方が重要だから。
近づけばさらに激しい雷が待っているだろうけど、”空気集中”を怠らなければ大丈夫なはずだ。
「ゴアァァァァッ!」
傷付けられた痛みによる悲鳴と怒りが混ざったような咆哮がこだまする。
耳を塞ぎたくなるほどの音量を我慢して、血を流している深い切り傷に向かってさらに近づく。
しかし僕が手刀を突き込む前に、バラウールを起点に青白い波紋のようなものが放射された。
この時の僕はバラウールの雷魔法は”空気集中”で逸らせると甘く見ていたが……そうではなかった。
これは”空気集中”で誘導できるものじゃない……!
球状に広がっていく結界に隙間なんてなく、空気を伝わり放たれた逃げ場のない電撃が僕の身体を通過すると、激しいショックに襲われる。
「がっ!?」
身体が震えて思うように動かせない。
痺れる痛みは思考する力にも邪魔をしにきて、魔法の発動ためのイマジネーションが乱れてしまう。
身体を覆うオーラが明滅を繰り返しガクッと落下しそうになり、慌てて気力で魔法を維持する。
「ガアァッ!」
足を止めて隙だらけの僕にバラウールは鋭い視線を向け、遠心力を使って尻尾を振り回してきた。
壁が恐ろしい速度で迫ってくるような錯覚を感じて戦慄する。
「ぐっ……!」
痺れがほんの少し和らいだ瞬間を逃さず、すぐさま反重力を自分に向けて展開して弾かれるように離脱する。
凄まじい轟音が擦過。
間一髪で避けることができたが、発生した衝撃破に身体が木端のように吹き飛ばされ、上下が分からなくなるほど視界がグルグルと回る。
重力変化で回転を止める……が、平衡器官が過剰に刺激されて吐き気を催す。
胃から迫り上がってくるものは気合で抑えた。
電磁爆弾に似た攻撃は僕とテラリスだけでなく、後ろにいた飛空船やワイバーンまでもあっという間に飲み込んだらしく、痺れたまま墜落するワイバーンもいた。
威力は弱いとはいえ、この空域にいるバラウールを除いた全員を痺れさせる攻撃方法も持っていたとは……あれは重力云々より、単純に多量の魔力をぶつけて相殺するしか対処法が思い浮かばない。
あの電磁波の攻撃も恐ろしいが、バラウールの大きな身体を活かした体当たりも脅威的だ。
掠っただけでも大怪我をしてしまいそうで、格闘戦のために至近距離まで近づくのは危険のようだ。
近づきすぎず、かつダメージを与えられるのは、テラリスのレーヴァテインしかなさそうだ。
だが一撃で仕留められなかったせいで、さらにバラウールに警戒されてしまったに違いない。
モンスターを狩るゲームと違って、向こうも生きた生物。同じ手は何度も通用しないだろう。
尻尾の風圧に吹き飛ばされてしまい、せっかく詰めた距離も離れてしまった。
テラリスは尻尾の攻撃は免れたものの僕と離れたことで、無数の雷の猛攻に晒され、耐えきれず僕の所まで後退してきた。
「横斬りじゃ威力が足りないわね」
テラリスが歯噛みする。
レーヴァテインの起動中は魔力供給に力を費やしているため、その他の魔法行動ができないらしい。
例えば足裏から炎を出して身体を安定させるとか、刀身から炎を噴射させて勢いを乗せるとかが困難になるそうだ。
いくら全てを焼き切る刃でもテラリスの細腕だけで振われては威力が十分に発揮されないようだ。
「やっぱり隙を見て上段から叩き斬るか、それとも……」
テラリスが呟いた、その時……バラウールが不可解な行動を始めた。
「何をしているんだ?」
バラウールは長い身体を巻いてバネのような形にして回転を始めたのだ。
何かの攻撃の前兆か? と身構えていると、なぜか何もしていないのに自分の身体がバラウールの方へ移動を始めた。
重力の方向変化をしていないのにジリジリと進んでいるのだ。
「えっ、何よこれ?」
テラリスが困惑した声を上げる。
彼女も引っ張られるようにバラウールの方へ進んでいた。
炎による急加速とは違う異様な動き方だ。
突然の現象に驚きを隠せないでいるが……バラウールの動きを見て何か記憶に引っかかる。
「もしかして……電磁コイル?」
銅線に電流を流し、丸く輪っか状にすると内側に磁界が発生するーーという小学校の理科の授業で習ったやつ。なんとなくあれに似ているような……?
さっきから身体が妙にチクチクしているから思い至った。
広範囲電磁波攻撃で身体にバラウールの雷を帯びてしまい、干渉対象に入ってしまったのだろう。
普段の生活から衣類が帯電することだってあるのだから、おかしなことじゃない。
本来は鉄芯とか磁化するやつとか必要になるはずだけど、多分バラウール自身が魔法で磁化していると思われる。
バラウールのこれからの行動として……このまま引き寄せて、長い尻尾による薙ぎ払いで一網打尽すると考えるのが妥当かな?
でも、そうだとしたら思ったよりも引き寄せる力は強くない。
驚きはしたものの僕は引き寄せられる反対の方向へ重力を変化させ、テラリスは大剣の炎を強めることで、その場に留まることができた。
質量の大きい飛空船とかの方が大変ではないかと思うけど、アルファンド号やエルマー国の飛空船たちは、船首についてるスラスターの噴射や方向転換で抗っている。
バラウールが眩しいと思うぐらい発光しているから、かなりの電力(魔力)を注ぎ込んでいるとは思うが……バラウールの見当ハズレか?
「何をしようとしているか分からないけど、このまま突撃を仕掛けるわよ」
テラリスの言う通りだ。
向こうから引き寄せてくれるのは、むしろ好都合。この勢いに乗れば攻撃力も増すだろう。
今のところ、バラウールが何かしてくる様子はない。
仮に高威力魔法の準備だとしても、次は油断しない。
さっきの電磁波のような”空気集中”で防げないものだとしても、僕の魔力をありったけを出して相殺してやる。
体勢を整えてグッと力を込めようとした時、鉄の塊が僕の側を通り抜けた。
ーー砲弾?
機関砲に使用する砲弾が次々と僕の後ろから飛来して、どんどんバラウールの周囲に集まっていった。
どこから飛んできたのか……そんなの決まっている。
この空域にいる飛空船から寄せ集められたのだ。
一斉砲撃のために準備していたものが飛び出してきたのだ。
基本は飛空船の内部に保管されている砲弾だが、外付けの機関砲に装填するために甲板に出していることがあり、それが裏目となってしまったのだろう。
バラウールの周囲を漂っている物は砲弾だけでなくバリスタの矢や剣なんかも混ざっており、それらにはバチバチと雷がコーティングされていた。
それを見て、集められた砲弾たちの使い道に気づいてしまった。
電磁投射砲ーーつまり、レールガン。
目的はこれだったのか。
電磁力で弾丸を加速させる狙撃方法だが、砲身がなくたって雷魔法を使えば大容量の電力を発生させて磁場を砲身代りにすることぐらい可能かもしれない。
とあるJCがコインを指で弾くだけでレールガンにする有名な話だってあるじゃないか。
だからと言って、魔物はこんなことまでできるのか。
引き起こされた目の前の現実に驚きと疑問を感じてしまう。
……10……20……とにかく数えるのが億劫になるほどの弾丸だけでなく、魔法の雷槍も同じぐらいの数が用意され、その全てが僕とテラリスを捉える。
魔法だけでなく質量兵器をも混ぜたバラウールの本気の攻撃。
ただの雷は”空気集中”で十分だが、砲弾のような質量のあるものには”反重力”で対応しなければならない……膨大なエネルギーを発生させるであろう弾丸を1発2発ならともかく、目の前に展開された物量相手を捌き切れるか? 魔力は足りるか?
僕の逡巡した一瞬の隙を突くように、バラウールが魔法のトリガーを引いた。
規格外の電力が漲り、閃光の嵐と形容できるほど雷光が弾けて空を白く染め上げる。
流星群にも似た光の弾が集中的に降り注いできた。
ーーいや、弱気になってはダメだ! せめてテラリスだけでも守ってバラウールの元へ送り届けなければ。
テラリスを庇い、構える。
時間が粘ついたみたい遅く感じる中、スパークを散らした弾丸たちが猛然と空を穿つ様を見て、僕の身体を粉々に砕かれる負のイメージがチラついたその時ーー巨大な影が僕とテラリスの前に躍り出てきた。
「アルファンド号!」
僕を乗せてくれた飛空船が、その身を挺して攻撃を受けてくれた。
甲高い金属音が立て続けに聞こえてくる。ワイバーンの火球でも無傷だった重装甲が荒れる雷によって切り裂かれ、砲弾によって大きくへこみ、穴を空けられる。
多数の衝撃で小刻みに揺れるアルファンド号だが、それでも墜ちることなく僕たちの傘となってくれた。
やがて暴力的な射撃の雨は止み、静寂が訪れる。
「今の内に行くわよ!」
「ああ!」
アルファンド号の陰から飛び出して、空を疾走する。
見えた先に、弱々しい雷を灯すバラウールの姿があった。
全方位攻撃に、磁力の発生、連続射撃と、かなりの魔力を消費したはず。
このチャンスは無駄にしない!
だがバラウールの目には諦めないと言わんばかりに、剥き出しの敵意が満ちていた。
「雷は僕が防ぐーー空気集中、展開!」
テラリスの前に出て空気の道を作る。
雷槍が僕たちに発射されるが、その道をなぞるように逸れていく。
このまま行ける、そう思った直後バラウールがブレスも放ってきた。
僕たちが辿る場所へ寸分違わず合わせられたビームが迫る。
全力で前進している時に急な回避をしたら、体勢を崩して大きな隙が出来てしまうう……けれど、このまま竜種最大の攻撃も防げるのかーー?
「あたしに任せないさい!」
僕の迷いを切り捨てるかのように、今度はテラリスが前に出る。
飛行の勢いのまま剣を構えて、3度目となる愛剣を起動。
炎の巨剣がブレスと激突。炸裂した衝撃波が空を震わした。
レーヴァテインの煌々と輝く炎の刀身は途轍もないエネルギー流を左右に斬り裂く。
しかしブレスの圧力に剣が押し出されようとしていた。
テラリスは歯を食いしばって堪えているが、彼女は腕力だけでブレスの圧力と対抗しているのだ。
このままやらせてたまるか。
僕も一緒にレーヴァテインの柄を握り、テラリスの後押しをする。
「重力増加!」
重力魔法で剣を押し込み、テラリスと共にブレスの中を突き進む。
高重力の重さが加わった巨剣で斬り進めていても、緩むことのない強烈な重圧が剣を叩き、神の怒槌と思わせるほどの激光が視界を埋める。
「「はああぁぁぁぁぁ!!」」
意識の隅々まで力を掻き集めて柄を砕かんばかりに握りしめーーブレスの奔流を最後まで切り抜けた。
バラウールは目と鼻の先。
ただ、今は剣を振り切ってしまって隙を晒してしまっている状態。
バラウールはそれが分かっているのか、僕たちを丸呑みしてもまだ足りないぐらいの大きな口を開けて近づく。
「「まだまだぁぁぁ!!」」
なけなしの気合いを総動員させて、重力変化と重力増加の魔法をレーヴァテインに付与。テラリスと一緒に返す刀で剣を振り上げる。
バラウールは喉元まで迫った剣に対して電磁波を発動。再び僕たちを行動不能にさせるつもりか。
だが、重力魔法で加速された灼熱の刃は電磁波を斬り払い、身体に纏う雷を打ち消し、厚い鱗を砕き、強靭な筋肉を裂き、血を蒸発させ、太い骨を断ちーーそのまま反対方向へ滑るように振り抜かれた。
確かな手応えと共に、その首を両断したのだった。
竜種との戦いは終わりましたが、防衛戦はまだ終わっていません。