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第十四話 アルファンド号、発進

 ここの所、僕が活躍していないって? そりゃあ、あんなに個性の強い人たちに囲まれたら受け身になっちゃうでしょ。

 そこまで僕のカッコイイ場面が聞きたいのか。そんなに僕が好きーーえ? 空気すぎて存在が薄くなっているから注意しろって?


 分かってるよ、そんなことは! でも仕方なくない!? サイボーグ船長とオカマコックだよ!? インパクト強すぎだって、勝てないよ!

 でも、僕の活躍だってちゃんとあるんだからな! その耳かっぽじってよーく聞いとけよ!


 ……この回じゃないけどーー。



 ◇



 ーーエルマー国:名無しのドック内ーー


 ドックの様子はやってきた当初よりも騒がしかった。


 直した装甲に異常がないか、または装甲の一部を開いて内部パーツに不具合がないか航行に必要な最低限のチェックを行う人。

 接続していたパイプを外し、周囲の展開していた足場を解体、クレーンなどの大型作業機械の収納といった船の周りの機材を撤収する人。

 ドックから発進させるための手続きを確認する人。


 変わらず忙しそうに作業をしているのだが、修理していた時は芸術的な一体感があったのに、今はただドタバタと慌てていた。

 それは仕方ないか、もう少し余裕があったがはずなのに急に出発することになったのだから。


 こんな状況でサンドイッチをどう配ろうか。1人1人に届けるのは仕事の邪魔になるし非効率的だ。

 この怒号も飛び交っている現場に割り込むのは、ちょっと勇気がいりそう。


 躊躇う僕に対して、カトリーヌさんはズンズンと進んで遠慮なく大声を出した。


「お弁当を届けにきたわよ~!」


 聞こえた造船ギルドの作業員たちが一斉に振り返り、その顔は急な命令にイライラしている険しいものだった。

 ああ、やっぱり怒ってるじゃないかーーと思った束の間、彼らはカトリーヌさんだと分かるや否や表情が緩んだ。


「おお、いつもすまないな。だが俺たちは見ての通り忙しいからなーーおい、お前ら! この弁当を休憩所に持っていってくれ」

「へい、親方!」


 反応した責任者らしい人が、言う通り本当に忙しそうだったのにわざわざ近くにいた作業員たちを呼び止めてくれたので、彼らに渡すことになった。

 僕たちとしては発進に間に合わなくなるため早く船の中に戻らないといけないが、その休憩所とやらに運ばなくても良いのだろうか。


「いやー、カトリーヌさんの飯がこれで終わりだと思うと寂しいな。まじで美味かったから」


 1人が弁当を受け取りながらそう言った。

 どうやら修理をしてくれている間の作業員の食事ーーーー昼食だけだがーーーーはカトリーヌさんが1人で作っていたらしい。

 そして皆がすごい嬉しそうなのは、カトリーヌさんの食事に胃袋を掴まれしまったからなのか。


「いやねぇ~、アナタその言葉は奥さんに言いなさいよ~」

「ぶっちゃっけ、かみさんより美味いからなぁ」

「あらダメよ。女は褒めて伸びる生き物なんだから、感想と感謝の気持ちをちゃんと伝えなきゃ夫婦円満に行かないわよ~」

「そんなもんですかね?」


 弁当の受け渡しをしながら、諭すカトリーヌさんと納得しない男性。


「えぇ、そんなもんなのよ。そうしないと……奥さん逃げちゃうわよ~」

「そうだぞー、ちゃんと言えよー」

「俺が寝取っちまうぞー」

「わ、わかった! ちゃんと言うから!」


 カトリーヌさんが脅すと話を聞いていた作業員がノってくる、そんな茶番に現場が笑いに包まれる。

 すごい馴染んでいるな。なんかこう、距離感というか構図がスナックのママと客みたいだ。

 何日も職場を共にすれば親しくなるのか、それともカトリーヌさんのコミュニケーション能力が高いのか……たぶん両方なんだろうな。


 僕はそんなこと思いながら、せっせと弁当を渡していく。

 そうしていると声をかけられた。


「あれ? お前って確かギルド見習いのソータか。何でここにいるんだ?」


 話しているのは確か……以前、造船ギルドの依頼で雑用した時に知り合った人だ。

 1日だけの付き合いだったけど、飛空船に乗りたい僕を応援してくれた記憶がある。


「お前はまだ修了試験クリアしていないんだろ? いくらお前が魔力持ちだからって、ワイバーン討伐はただのトカゲ狩りなんかじゃない危険な依頼だぞ」


 その言葉にカチンときた。

 僕のことを思って言ってくれるのは分かるが、子供扱いされるのは決して良い気分ではない。

 

「……僕はちゃんとノア船長から許可をもらっていますし、見習いだからといって飛空船に乗ってはいけない規則はないはずですが?」


少しとはいえ、お世話になったことがある人に対して、思わずトゲのある言い方をしてしまった。

もしかして、この人も僕の夢を邪魔するのか? と疑ったら抑えられなかった。

……感情を制御しないでムキになってしまう辺りがまだ子供だよなぁ、と内心で後悔はしていないものの反省をしておく。


「い、いや、ちゃんと双方の同意の上なら問題ないんだ。ただ、魔力持ちのお前がこの船に乗り込むのが心配でーー」

「心配していただきありがとうございます。ただ、魔法道具の魔力補充は慣れてますので」


 魔法道具を装備している飛空船は多い。そのため、僕はその魔力補充要員だと予想している。

 魔力補充はあまり好きではないけど、飛空船に乗せてくれるならそれぐらいやってやろうじゃないか。

 魔力補充の他にやるとしたら、人数を少なさから考えて、周囲の監視や物資の運搬といった今までやってきた雑用の延長線上だろうか。


「は? いやそっちの話じゃなくて」

「へ? 違うんですか?」

「待て待て……この船が何なのか知っていて乗るんじゃないのかーーもしかしてノアさんはまだ話していないのか?」


 何か間違えたのだろうか? 話が噛み合わない。

 ”この船”とは、たぶんアルファンド号ではなくて船員を含めた一団の話だろうけど……アイリスちゃんがギルドに追われていたから訳アリなのは察しているが、話の流れから関係あるのか?


「確認なんだが、ノアさんがどんな人か知っているのか?」


 どんな人って言われても……僕みたいな新人を乗せてくれる懐の大きい人で、挨拶代わりに文字通り腕を取らせて驚かせてくる、ちょっと不思議な人? ぐらいの認識しかない。

 そのことを伝えると、何故か難しい顔をされた。


「いや、そうじゃなくて、ノアさんはーー」

「ソータちゃ~ん! もう行くわよ~」


 言いづらそうにしている造船ギルドの人の言葉に被せるように、カトリーヌさんから呼ばれた。


「今、行きます! すみません、時間が推していますので僕はこれで失礼しますね」

「あっ、ちょっと、おい!」


 なんか認識にズレがあるみたいだし、下手なこと言ってまた乗船を否定されたら困る。

 返事をした後に残りの弁当を全部押し付けて僕はさっさと行く。


「すみません。知人がいたので話し込んでしまいました」

「別にいいわよ~。ワタシもお別れの挨拶をしたのだから~」


 カトリーヌさんと合流した僕は揃ってアルファンド号へ入る。


「ワタシは別の作業があるのだけど、ブリッジの場所は分かるかしら~?」

「大丈夫です。さっき案内してもらいましたから」

「あらっ、もう覚えたの? 偉いわね~」

「ちょっ、やめてくださいっ」


 お弁当配達の手伝いがそんなに嬉しかったのか。向こうから距離感が一気に縮められた気がする。

 ワシャワシャと男らしい乱雑でありながら女性らしい優しく褒めるように髪を撫でられる。

 くっ、同じ子供扱いなのに、こっちは安心するのは何故だ……これがオカマの力なのか……!


「ウフフ、お互いに頑張りましょうね~チュッ♡」


 ……だから、そこでクネクネしながら投げキッスをしなければもっと親しみを持てるのに。

 僕は苦笑しながらブリッジに向かった。

 そんなやりとりをしていたから、造船ギルドの人との会話なんかすっかり忘れてしまった。



 ◇



 ーーアルファンド号:ブリッジーー


「時間だな」


 懐中時計を手に、ノア船長が時間を確認する。

 ブリッジにはノア船長、モルドー副船長、テラリス、アイリスちゃんがいた。


「周囲のドックスタンドは全て撤去されたようですぞ」

「では、発進シークエンスを行う。機関士長、主機関の調子はどうだ」

『完全復活とまではいかないが、戦闘行動に支障はない。存分に暴れてオーケーだ』

「よし。では主機関の火を灯せ」

『了解ーー主機関、点火』


 ノア船長のオーダーに、まだ会ったことのない機関士長が返答すると、命が吹き込まれたかのように飛空船が鳴動した。

 足元から伝わる振動に、改めて飛空船に乗るのだという実感が湧いてくる。


 興奮と緊張で浮足立つ僕をよそに、着々と準備が進められる。


『竜鉱石の燃焼開始。全シリンダー、稼働確認。蒸気制御弁を開放するぞ』

「うむ、こちらでも主機関の起動を確認した。全パイプラインの蒸気圧力、正常値である」

『タービン回転数上昇。適正範囲内で維持』

「推進機関テスト開始。燃焼エネルギー噴出……噴出圧力、良好」


 僕の知らない単語が次々と飛び出し、艦橋の至る所にある計器の針が次々に動き出す。その度にモルドー副船長が確認していく。

 テレビや映画で見る、飛行機の機長が操縦席のボタンを操作していく光景と重なる……カッコイイなぁ。


「各制御翼、側面噴射口の動作も問題なし。飛空船側の準備は完了しましたぞ」

「アイリス、合図を送れ」

「はいなのです」


 アイリスちゃんが答えると、ランタンを手に持ち、飛空船の外ーードックにいる作業員に向けて掲げた。そして付いてるツマミを回すことで光量を調節していた。

 モールス信号みたいに発光で連絡を取り合っているのか、向こう側からもチカチカと光が瞬いていた。


 しばらくすると、飛空船の目の前にある壁が重低音を響かせながら真っ二つに割れた。

 開かれた壁の先は真っ暗なトンネルになっており、ほのかに灯る誘導灯と助走レールが伸びる。

 数百m奥には光が見える……おお、あそこから外へ出るのか。

 そのことに気づいたら余計にソワソワして落ちつかない……何か手伝えることないかな。


「あんたに手伝うことはないわ。我慢しなさい」


 テラリスに注意された……そんなに分かりやすかったか。

 艦橋にいるメンバーで、ノア船長は命令、モルドー副船長は操縦、アイリスちゃんは連絡をしているけど、テラリスがまだ何もやっていないな。

 一体何の役割を持っているんだ? 僕もだけど。


「発進ゲートの開放、よし。船長、いつでも発進できますぞ」


 最終確認を終えたモルドー副船長が発進の号令をノア船長にお願いする。


「これより己らは南西方面へと向かいワイバーンの群れの討伐依頼に参加する。アルファンド号、発進せよ」


 ノア船長が厳かなに命じると、飛空船アルファンド号が固定アームに吊られたままドック内を進む。ゆっくりと、けれども徐々に速度を上げながら確実に前に進んでいく。

 

 ドック内では整備をしてくれた航空ギルドの人たちが手を振って見送ってくれている。

 まるで僕の初飛行を祝福してくれているようだ……もちろん違うってのは分かってる。

 でも、これぐらい浮かれてもバチは当たらないだろう。


 そして割れた壁ーーいや、発進ゲートをくぐる。

 この先の向こうに、目指した空の世界がある。


 モルドー副船長がレバーを倒しアルファンド号の推進機関が大きく火を噴く。

 十分なスピードに乗り固定アームが外されると、一気に加速してトンネル内を疾走する。

 速度が上がったことで、体が後ろに倒れそうになる……慣性力がすごいなっ! テンション上がるなぁ!


「ソータ、準備はいいか?」


 真っ暗な中、誘導灯を頼りに進んでいく状況でノア船長が問いかけてくる。


「お腹が痛い、とでも言ったら降してくれるんですか?」

「飯が合わなかったのか? この船にはトイレも完備してある。遠慮なく行ってこい」


 興奮していて思わず似合わない冗談を言ってみたら、真面目に返されてしまった。

 ………。

 いや、違うんですよ。こう、洒落た感じに決めたかったんですよ。

 すでに発進しているから、今それ聞くのは野暮ですよ的なことを言いたかったんだ。


 だからテラリス。僕も言ってて恥ずかしい思ってんだから笑うな。


「冗談だーーもう一度聞くぞ。これから先は命の保証ができない戦場だが、それでも空へ行くのか?」


 また船長ジョークってやつか。今度は舞い上がってる僕を冷やそうとしたのか?

 ……まぁ、その通りになったけどさ。

 そして改めて聞いてきた言葉はさっきよりも重みがある気がする。


 外へ飛び出すまであと数秒もないだろう。それが答えるまでのタイムリミットのように感じる。

 だが考える必要もないな。

 僕の決意はもう固まっている。やっとここまで来れたんだ。何でもドンと来い。


「もちろん!」


 僕が力強く頷くと、アルファンド号はトンネルを抜けて大空へ飛び立つ。


 ーーそう言えば、ノア船長だけでなく造船ギルドの人からも飛空船に乗ることを心配されたな。

 この時の僕は、これから行くのは魔物と戦う場所のため新人が行くから配もされるのではないかとテキトーに納得することにした。

 ケガ人や死者が出るのは当然の大規模な戦場に対して、もしかしたらアルファンド号が撃墜されて、もしくは魔物に無残に殺されて死んでしまうかもしれない不安や緊張はある。

 だが、僕自身が魔物と直接戦う訳じゃないだろう。

 だからそこまで大袈裟には感じてはなかった。


 ーーだけど僕はまだ知らなかった。僕に課された仕事はそんなに生易しいものではなかったと。

 ……知らされてなかったんだから当たり前ではあるが。

書きたかった飛空船の発進シーンをやっと出せた……!

雑談の方がスペースを取っているのはご愛嬌で( ' ▽ ’ )


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