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第十三話 アルファンド号の搭乗員2

まだ飛空船の発進はしませんm(_ _)m

 時折、地球での知識をひけらかすことがあるかもしれないけど、それらはインターネットで得たものだから間違ってることもあるから鵜呑みにはしないでほしいかな。

 そりゃあ病弱だったんだから、実物と触れる機会なんてほとんどなかったんだから。


 え? いんたーねっとって何だって? えーと、うー、複数の機器を電気信号を使って……お互いに情報をやりとりする仕組みのことで……。

 でんきって何って? あー、電荷の移動や相互作用に発生する現象で……。

 雷魔法のことなのかって? 魔法がないのに、どうやって発生させているのかって? 雷魔法でどうやって情報を表示するのかって?


 …………。


 あーっ、その話は長くなるからまた今度にしよう。そろそろ話をしないと、ご飯の時間が遅れちゃうよ。

 ほら、せっかくできた料理を無駄してしまうと、あの怖い人が怒るぞぅーー。



 ◇



 ーーエルマー国:名無しのドック内 アルファンド号:ブリッジーー


「失礼しますぞ」


 そう言って入ってきたのはモルドーさん、いや、モルドー副船長だった。

 扉が開いているにも関わらず、ゴンゴンッ、と丁寧にノックしてから入室した。


「外部修理についての報告です。装甲の修理はおおよそ終わり、あとは最終チェックを残し、あと2時間ほどで出航可能とのこと」

「仕事が早い。さすがだなーーやはり彼らに頼んで正解だろう? (おれ)らだけでは決して間に合わなかったはずだ」

「……船長の言うとおりでございました」


 修理状況についての報告を受けたノア船長がドヤ顔ーーーー表情はわからないから声色から何となくーーーーをして、モルドー副船長が賭けに負けたようなため息を吐く。

 会話を聞いていると、修理をしている作業員はまるで雇った人のように聞こえる。


「外にいる作業員は船員たちじゃないんですか?」

「彼らは造船ギルドの者だ」


 どうやら”渡り”の現象の話を他所で聞いたことがあり、先立つもののために緊急依頼を受けようとエルマー国に来た訳だけど、不運なことに向かう途中で、この船ーーアルファンド号は嵐に巻き込まれ、さらに落雷を受けて船体がひどく損傷してしまった。

 そこで補給を兼ねて、造船ギルドに修理を依頼をしたということらしい。


 エルマー国に金稼ぎに来ようとしたら、その道中で傷を負って、金のかかる修理を頼んだって、それじゃあ元も子もないのでは……? と思っていたけど、どうやら元々メンテナンスは予定していたしく、収支的には緊急依頼でプラスになるから問題ないらしい。


「しかしアイリスの件があり、この国のギルドに不信感を抱いてしまってな……」


 モルドーさんは修理をこのまま造船ギルドに頼むのを反対していたそうだ。

 自分たちの力で直すこともできたのだが、時間がかかってしまう。それはつまり、緊急依頼も受けないことを指していた。


「だが、働いてくれている者は(おれ)の知己でな」


 今、働いてくれている造船ギルドの人たちは何やら昔、ノア船長に助けられた恩があるらしい。

 知人関係については、あまり関係ないだろうし「ふーん、そうなんですね」と程々に相槌を打つ。

 ただ、会話の中で気になったことがあったので僕は聞いてみることにした。


「そもそも、この船は何人で動かしているんですか?」

「ここにいる4人に、機械種(マキアス)が3人、人間種(ヒューム)2人、獣人種(ワービースト)1人が加わった計10人だ」

「10人? 少なくないですか?」


 飛空船の分類は大雑把に小型、中型、大型があり、空気抵抗の関係上どの船も細長い船体になることから、だいたい全長で分けられる。

 小型は15m~30m、中型は30m~80m、大型は80m以上のことを指し、その数値の半分が航行に必要なだいたいの人数だとギルドでは教えられた。


 自動化や電子化が進んだ地球でさえ、コンテナ船などの貨物船を動かすのに14人前後の乗組員が必要なことから違いが分かるだろうか。

 ここには魔法という技術があるとはいえ、基本は地球の19世紀の蒸気機関に似た技術を使って飛空船を動かしている。

 船が大きくなればなればなるほど出力の高い大きなエンジンを積むことになり、そうすると管理をする機関士の数が必要になる。

 何日も続けて飛んでいる船のために24時間体制で点検を行わなければならず、そのためには各部署でローテーションを組める人数が必要になる。


 素人の僕でも大きな船には、船員の負担を大きくしないよう多人数を揃えないといけないことぐらい分かる。

 アルファンド号は少なくとも中型船だ。10人という人数はかなり無理をしているのではないかと思う。

 外装の修理を含めた人数を含めればちょうど良い人数だったから、てっきり全員がアルファンド号の船員かと思っていた。


「もちろん10人で動かせるよう改造を施しておるし、乗組員は専門業務だけでなく他の場所も兼業できるようにすることで、休憩を挟めるようシフトを組んでおる」


 無論それでもギリギリではあるがの、と嘆くモルドー副船長。


 簡単に言っているけど、そんなことが出来るなら誰でもそうしてるはず。

 人数が多くなれば食料などの必要物資も多くなるから、必然と経費も(かさ)む。少ない人数で運用できるなら、それに越したことはない。

 貧乏船長なら頭を抱える問題を解消しているこの船は、他にはない技術力を持っているということだ。


 少人数で大きな飛空船を動かす……この船の異様さが気になってくる。


「だが大仕事の際は、お主のように助っ人を頼んだりすることもあるのだ」


 僕1人でいいのか? と思うけど、どうやら助っ人は少数の方がいいらしい。

 元々10人で運用していた訳だから、いきなり倍に人が増えても指示が出しづらいってことかな?


「他の者たちについては会った時にでも話すとよい」

「了解しました。ただ、僕はこれから何をすればいいですかね?」


 このドックに来て、船長との挨拶を無事に終え、正式に飛空船に乗ることを認めてもらった訳だけど、実際の業務内容をそういえば聞いていなかった。

 装甲修理なんて専門技術がなきゃできないことは無理だけど、重力魔法を使った荷物運びとかなら活躍できると思う。


 指示を待つ僕にノア船長が答えた。


「そうだな……まずは飯を食べてこい」



 ーーアルファンド号 食堂ーー



 僕の仕事はワイバーン討伐からであって、船の修理は契約に入っていないらしい。

 僕としては周りが忙しく働いている中、ゆっくりしているのは何だか落ち着かないんだけど、これからさらに忙しくなるから今は英気を養っておけ、と船長に言われてしまえば従うしかない。

 テラリスとアイリスちゃんは僕の案内が今の仕事となっているため、一緒に昼食をとることになった。


 そして連れてもらった食堂は、中央にあるスチールテーブルを囲むように10脚ほどの椅子が備え付けてあるだけのこぢんまりとしている部屋だった。

 なるほど、これぐらいの広さだったら総船員数が10人だというのも納得できる。


 併設されているキッチンスペースからはトントン、と食材を切っている音が聞こえる。

 料理道具と棚で隠れて見えないけど、料理担当が仕事をしているのだろうか。


「カトリーヌさん、お疲れ様なのです」

「あら? アイリスちゃんおかえり~。昼食はもうできているわよ~」


 アイリスちゃんがキッチンにいる人物に声をかけると、女性らしい口調とは裏腹に野太い返事と共にその姿を表した。


「その子が例の?」

「はい。今日一緒に働くソータさんなのです」

「あら~? あらあら? 結構カワイイ子じゃないの~」

「うっ……!?」


 アイリスちゃんが紹介してくれたが、僕はその姿を見て、思わず後退りしそうになってしまった。

 初対面の人に対して良くない対応なのは分かっているけど、その外見に耐性のない僕にはちょっと厳しかった。


 整えられた紫色の長い髪、濃いめのアイシャドウとチークに厚く塗られた口紅。

 そして、ムキムキの肉体を魅せるよう胸元が大きく開いたピッチピッチの服。

 男性的な肉体を女性的に彩った、日本の有名繁華街の2丁目で普通に通じそうなぐらいのガチムチなオカマさんだった。


「かr……彼女はこの料理長を務めているカトリーヌよ」


 テラリスよ……今、”彼”って言おうとしたよね?

 絶対その名前も偽名だよね?

 でも料理長か……だからクマのアップリケを付けた可愛らしいエプロンをしているのか。


「カテリーナよ~。ヨロシクね♡」

「よ、よろしくお願いしますーーおわっ!?」


 料理人に相応しい爪が綺麗に整えられた手と握手した瞬間、力強く引かれーー。

 

 抱きつかれた。

 そして撫で回された。


「ふ~ん、どれどれ?」

「ふぉぉぉぉっ!?」


 なんか撫で回されてる!

 絶妙な力加減で全身を撫で回されてる!

 優しいながら艶かしい指使いなのに、がっしりホールドされて逃げられない!


「ここはどうかしら~」

「あっ、はぁんっ!」


 やべっ、変な声が出ちゃう……!

 くっ、遠慮の無さから手慣れているな……ちょっ、そこはダメ!

 言いようのない感覚がゾクゾクとくるぅぅ!


「こらこら、動かないの。もうちょっと我慢してなさい。めっ」


 ”めっ”ってお姉さんキャラが使うやつだよね! 確かに()()()()()だけどさ! ぜ、全然可愛くない!

 テラリス! 見てないで助けてよ! アイリスちゃんでも良いから助けて!

 これ見てて誰得よ!?


「う~ん、思ったよりも細いわね~。ちゃんと食べているのかしら? 飛空船の業務は体力勝負なのよ~」

「な、ななな、何するんですかっ」


 撫で回しが終わった瞬間にその場を離れる。

 すぐに解放してくれたが、危なかった……あれ以上やられたら変な扉を開く所だった。いや、むしろ、短時間であれほど効果を出す技術力に感心するべきだろうか。いや、違う、そうじゃないだろう。


 何もしてくれなかったテラリスとアイリスちゃんを恨めがましく見ると、2人ともサッと目をそらした。


「その……カトリーヌの癖みたいなものだから……」

「わたしも受けたのです……通過儀礼みたいなものなのです……」

「イヤね~ヒドイ言い草っ。ワタシの仕事は、美味しくて栄養満点な料理でみんなの健康を守ることなのよ~。そのために今の状態を確認するのは当然じゃない~」


 どうやら料理長として僕の肉付きを確認していたらしい。

 でも他に方法があったんじゃないだろうか。納得できん。

 見た目が個性的なオカマとの絡みなんて誰も得しない。どうせ抱きつかれるなら、アイリスちゃんのような美少女がよかったのに……何でこうなった?


「さぁさぁ、昼食を食べにきたのよね~? 出来立てだから早く食べてちょうだい」


 パンパンッと手を鳴らして促してくるカトリーヌさんだが、僕によく分からない精神ダメージを与えることなんてしなければ、もっと早く食べれたんじゃないだろうか?


「あ、まだアソコを調べていなかったかしら~?」

「ひぃっ!? ごめんなさい、すぐに食べます!」


 失礼なことを考えてごめんなさい。仕事として当然のことをされたのですよね。

 いや、だから、尻を撫でないで。

 ゾッとするから。


 これ以上、変なことをされないよう素早く席に着く。


 出されたのはアメリカンクラブサンドのようなサンドイッチだ。

 皿にドーンと乗せてあるだけだが、挟まれた具材の彩り豊かな見た目と焼けたパンの香ばしい匂いに現金にもお腹がグ~、と鳴った。


「いただきます」


 手に持って、思いっきりかぶりつく。

 焼き上げられたパンは外はカリッと中はフワッとしていて、挟んである照り焼き肉が甘辛な絶妙な味付けで、ジューシーな肉汁がさらに食欲をそそる。

 さらにシャキシャキな野菜と半熟卵のとろみが食感に加わり、食べる手が止まらない。


「美味しい……」


 思わず感想が溢れるほどだった。

 しかも、こんなボリューミーな中身だからなのか、パンに水気が染み込まないようマスタードがうっすら塗り、半熟の茹で卵には葉物野菜で巻いて黄身がこぼれないようして、食べやすいよう工夫してあった。


「ごめんなさいね~。今は手軽に食べられる簡単なものしか用意していなくて~」

「いやいや。とても美味しいですよ、これ」


 確かにシンプルな料理ではあるものの、食材1つ1つに丁寧に手間をかけた美味しい一品である。

 テラリスとアイリスちゃんもそれぞれ”美味しい”と言いながら味を堪能していた。


 カトリーヌさんは申し訳なさそうにしているが、きっと外で作業している造船ギルドの人たちが食べやすいよう配慮した結果だからじゃないかな。

 キッチンに積まれた大量のサンドイッチを見ればそれぐらい察しがつく。

 見た目がアレだけど、最初の突飛な行動がアレだけど……! 料理上手で細やかな気配りができる男ーーいや、女性なのかも知れない。


「ありがと~。そう言ってもらえると、これからの料理の作りがいがあるわね~ウフンッ♡」


 ……そこでクネクネしながらウィンクを送らなければ、もっと好感度高くなるのになぁ。

 悪い人ではなさそうだけど、なんか距離感が掴みづらい。


「アイリ、口にタレ付いてるわよ」


 熱心に食べてるアイリスちゃんの口元にタレがちょこんと付いていた。……美味しさに夢中で気づいていないのが可愛い。

 同じ感想持ったであろうテラリスが蕩けた笑顔を見せながら、ナプキンで拭おうとするとーーアイリスちゃんはプイッと顔を背けた。


「ア、アイリ!?」

「もう子供じゃないのですから、それぐらい自分で拭けるのです」

「そんなっ、昨日まであたしに任せてくれていたじゃない!」

「言わないでほしいのですっ……恥ずかしいのです……」

「あ、あああ、アンタのせいで至福のひと時がなくなったじゃない!」

「え、僕のせいなの?」


 そんな何気ない会話と食事を進めていると、食堂に備え付けてある伝声管が震えて連絡が入ってきた。


「各員、傾聴。ワイバーンの群れが速度を上げ、予想よりも到達時間が早まるとの連絡が入った。作業員はこれより作業工程を切り上げて、発進の準備に取り掛かれ。1時間後に発進シークエンスを行う。繰り返すーー」


 モルドーさんが話ている内容に、食事の穏やかな空間がピリッと緊張が走った。


「なんでワイバーンが急に……」

「今は理由なんて考えている場合じゃないわ。指示に従って動くわよ」


 困惑する僕にテラリスが叱咤を入れる。

 仕事モードへの切り替えが早い。手慣れている感じが普通に感心する。


 なら、今の僕にできることをしなければ……と言っても僕に何ができるだろうか?

 残ったサンドイッチを急いで口に放り込みながら考える。


「あら~、じゃあ早めに届けないといけないじゃないっ」


 カトリーヌさんはといえば、緊張感があるのかないのか、よく分からない声を出しながらも、手際良くサンドイッチをバスケットに詰め込んでいった。

 料理長として、作ったものを無駄にしない気持ちと修理をしてくれた人たちへの感謝としてサンドイッチを届けるのが今のカトリーヌさんの仕事なのだろう。


「アナタたち、モタモタしてないで早く支度なさいよ~」


 そう言ったカトリーヌさんは用意したバスケットを抱えていく。

 だが、外にいる人たち用のだから数がそれなりに多い。


「僕も手伝います」

「あら? それは助かるわ~」


 どうせ僕の仕事なんてまだないのだから、せめて目の前でできることをやりたかった。

 僕も少数ではあるが、バスケットを抱える。


「ソータちゃんを借りてもいいかしらん?」

「ええ、いいわよーー終わったら、アンタはブリッジに来なさいよ」

「分かった」


 テラリスとアイリスちゃんもそれぞれやることがあるのだろうか。僕に付いて来ない代わりに同行の許可と次の指示をもらった。

 ってかソータちゃんって……まぁ、いっか。


「それじゃあレッツゴ~」


 そして僕はカトリーヌさんと共に船の外に向かった。

人の技能は見た目では判断しづらい。

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