第十二話 アルファンド号の搭乗員
船長が○○だった! あなたはどう反応する?
ガチャガチャとパーツが連動して動ている光景ってかっこいいよね。
メカ好きの人たちに楽しんでもらえてるかな?
全然足りない? そ、そっか、じゃあもっと楽しんでもらえるよう頑張るね。
出発はしないのかって? まずは、これから苦難を共にする仲間かもしれない人たちに挨拶しなきゃ。
あ、魔法ファンタジー好きはもうちょっと待っててね。
ちゃんと魔法合戦の話も用意してあるからさーー。
◇
ーーエルマー国:名無しのドック内ーー
僕はアイリスちゃんとテラリスの2人に先導されて、ドックの中を進む。
何だか探索のようでワクワクしている僕は、これからどこに行くのか、と聞いてみると、まずは飛空船内にいる船長への挨拶に行くとのこと。
てっきりモルドーさんが船長かと思っていたが、モルドーさんは副船長らしい。
「な、なぁ? 本当に入っていいのか?」
「いいって言ってんでしょ。早く行きなさいよ」
しきりに乗船の確認する僕にテラリスが呆れるように言葉を返す。
いよいよ飛空船に乗れるということで先に行かしてくれと頼み、飛空船に乗り込もうとするが、僕は船に架設されている階段ーータラップを上がったものの、あと数歩の所で船内で入れるかという所で逡巡していた。
楽しみが過ぎて緊張してしまった。
「だって、憧れの飛空船に乗れるんだよ!? この記念すべき第一歩は大事にーー」
「い、い、か、ら、進みなさい!」
「おわっ!?」
痺れを切らしたテラリスに尻を蹴り上げられて、もつれこむようにして船内に入った。
「いてて……ったく、乱暴だなぁ。せっかくの初搭乗が台無しだよ」
蹴られた尻をさすってブツブツ文句を言いつつ、今いる場所を見渡す。
「ここが、飛空船の中か……」
そこには豪華客船のような絢爛な装飾はなく、壁や床は防護パネルが張り付いてあるだけの無骨なものだった。
スチームパンクのメカニズムにはそれなりに慣れたつもりだけど、無茶をするのが前提の頑丈な飛空船の中にいるのだと改めて理解した。
船の中へ入るための扉だってハッチ式のゴツいロックを装備した分厚いものだし。
「何を期待していたのか知らないけど、見てもそんなに面白いものじゃないでしょ?」
追いついたテラリスがぶっきらぼうに話す。
何だか自分の部屋を見られて、決まりが悪そうにモジモジしている人みたい。
「そんなことはないよ」
彼女たちにとって当たり前の光景でも、僕にとって未知の空間には変わりない。
1.5人分ぐらいのあまり広くない幅の通路だけれども、たくさんの情報量が頭の中に入ってくる。
外を見るための窓も耐久の観点からか人の顔ぐらいの大きさだけど、できるだけ外の光を取り込めるよう配置されているのが分かったり、中の空気は思っていたよりも鉄や油臭さがなくて清潔さを感じられたりなど、インターネットとかで見る画像では分からなかったことだらけだ。
「ふーん、変なやつね」
そんな話をしていたら、通路の向こう側から円筒型の機械が勢いよく走ってきた。
何あれ? と思っていると通路の溝に引っかかって、いきなりゴロンと倒れた。
アームを展開するも起きられず地面でジタバタしているユーモアな姿を見せつけられるけど、どうしたら……?
「大丈夫なのです? あれほど通路を勢いよく走ってはダメと言ったはずなのです」
気の毒に思ったのか、アイリスちゃんが起こした。
「ピピピッ!」
「はい、何事もなく帰って来たのです。ただいまなのです」
アイリスちゃんの言葉に反応して、頭部らしき部分が動く。
機械音による返事の内容を理解しているのか分からないけど、美少女と腰ぐらいまでの高さしかないロボットの2ショットは……何か和む。
「へぇ、この船にも機械人形がいるんだね」
機械人形とは、内部にある蒸気機関を動力に機械の身体と簡単な命令を聞き分ける魔力回路を搭載したロボットのことをいう。
前世でいう所の人工知能の分野が、コンピュータの代わりに魔力で確立されているのだ。
では魔法で生み出された存在かというと少し違う。彼らの誕生には専門の職人が関わっているーー少し長くなるので説明は今度にするか。
エルマー国では主に労働力として存在していて、お婆さんの後ろで荷物を持って付いて行く姿や店番をする姿を見かける。
ただ、労働力という点では奴隷制度は競合している。
違いがあるとすれば、値段だろうか。
人によって個性が出る奴隷とは違い、力も強くて従順な機械人形は数自体も少ないので高価になる。
故に金持ちとしての一種のステータスとされていて、僕も1体ほしいなぁ、なんて思っている。
素っ気ない態度に冷たい口調、合理的主義だけれども魂はとても熱く燃えているーーそんな機械の相棒もロマンだよなぁ!
「その名前で呼ばないで」
そんなことを考えていたら、テラリスから厳しい指摘を受けた。
「あの子たちは”機械種”よ」
「機械種?」
「……ああ、そっか、エルマー国では機械種の人権が認められていないのねーーあらかじめ言っておくけど、あの子たちは乗員の1人として扱いなさい。この船のルールよ」
テラリスの話によると、歴史的に新しい存在である機械種は場所によって種族としての扱いが分かれる。
ーー自我を持ち、会話ができる機械種を人と認める所。
ーー人に生み出された機械種は、人に従属する存在として人権を認めない所。
ーーどのような姿であれ自我を持つ以上、人として扱う所。
などなど。
機械人形という名は”物”として見ている人たちによる蔑称らしい。
…………。
……知らなかったとはいえ、前世の常識から機械=物というイメージをそのまま通してしまった。
あれほど物扱いされることを嫌悪しているはずなのに、いざ別の生命体が物扱いされていても無関心だとは。
何と浅ましいことか。
人型という見かけだけで判断していた自分の考えがとても恥ずかしい。
幸いにして大きな問題を起こす前に知れたが、前世での先入観はこれから大きな障害なるだろう。
……地球と異世界の感覚のズレには気を付けよう。
「ちなみに、今アイリと話しているのは”ラル”って名前よ。この船にはそれぞれの人格を持った3人の機械種がいるから覚えといて」
「ああ、分かったよ」
テラリスから説明を受けていると、噂のラルがやってきた。
見上げてくるモノアイレンズが結構お茶目に感じる。
「今日一緒に働く、ソータって言います。よろしく」
「ピピピッ!」
「え、えーと?」
「こちらこそよろしく、と言っているのです」
「アイリスちゃんは言っていること分かるの?」
僕にはさっきと同じ電子音にしか聞こえないんだけど。
「いいえ、分からないのです。でも、ずっと一緒にいますから雰囲気や手振りで何となく理解できるのです」
「な、なるほど」
ラルは肯定するように頭部を上下させているから、たぶん合っているんだろうな。
感情を持っているのが分かると、その仕草も何だか嬉しそうに見えるから面白い。
時間が空いていたのでわざわざ出迎えにきてくれたらしいラルと別れ、通路を進んでいくと、1つの大きなハッチの前に着いた。
「この中なのです」
テラリスがハッチを開け、アイリスちゃんに勧められた僕はハッチをくぐる。
そこはいわゆる船橋やブリッジと呼ばれる所だろうか。それなりに広い部屋だが、用途不明のボタンやレバー、計器があちこちに配置されているせいで見た目より狭く感じる。また、ガラス窓が目一杯に広がっており、作業しているドックが一望できた。
正面中央にあるゴツいシートがこちらにゆっくりと回転した。座っていた者が、アームレストに肘をかけて指を組む。
「飛空船アルファンド号へようこそ。己が船長のノアだ」
落ち着いた男性の声だが、くぐもっていて聞きづらかった。
「お前がソータだな」
「はい」
目立つのは、頭をすっぽり覆うフルフェイスのようなマスクだろう。
くぐもっている声はこのせいか。
身体は歯車で構成された鎧のようなもので覆われていた。
隙間が見当たらないほど、全身が機械。
歯車がいくつも重なっており、話している今も不規則に動いたり止まったりしている。
いきなり逆回転の動きをしてもおかしくないと思うぐらい複雑な仕組みをしているのが分かった。
そして年季の入ったそれらは、元は金色だったのだろうか。だが所々がくすんでいたりして、それがこの人の年齢を表しているようだ。
「えっと、テラリスの言っていた、この船にいる機械種の1人が船長なのか?」
「ちょっ、バカ! 違うわよ!」
「この姿を見て、そう思うのは仕方ないことーーだが己はお前と同じ人間種だ」
「えぇっ、そうなんですか!?」
人の形はしているものの、人の肉体的な部分が全く見えないからてっきりそうなのかと……。
「本当なら礼儀として、素顔を見せるべきなのだろうがーー昔の事故で大怪我を負ってしまい、機械の力を借りないと生きていけない身だ。申し訳ないがこのままでいさせてもらおう」
「こ、こちらも失礼なこと言ってすみません」
腕を動かすとガシャガシャと音がしているから義手なのだろうか。
大怪我して機械の力で延命していることや見た目から、スチームパンク色に染まったダー○・ベ○ダーという印象が強い。
よく聞けば、話すたびにシュコーシュコー言っているし。
「モルドーからも話があったと思うが、この船の代表として、アイリスを助けてくれたことの礼を改めて言いたい」
見た目が完全に無機質だけど、言葉から申し訳なさと感謝といった人間らしい温かみが感じられた。
……アイリスちゃんはこの船でちゃんと大切にされている。それが分かって安心だ。
「僕の方こそ飛空船に乗せていただき、ありがとうございます」
空を飛ぶ機会を失っていた僕に人でが足りないからってド新人の乗船を許可してくれるのは、まさに救いの手だった。
「話は聞いてる。お前の乗船を歓迎しようーー活躍を期待しているぞ?」
「未熟者ですが、精一杯がんばります」
ノア船長は船長席から立ち上がり握手を求めてきた。僕は差し出された手と握手する。
触れ合う手からは義手の金属製らしい硬質さと同時に、握りこむ指の繊細な動きと力強さが伝わる。
期待されていることに緊張するが、それ以上に胸が踊っているのも事実。
僕も応えるように強く握りかえすとーー。
スポンッ。
「スポン?」
腕が取れた。
ノア船長の肘から先が、思いっきり取れていた。
一瞬で凍りつく場の空気。
犯人? 僕が腕を持っているから一目瞭然。
サァっと血の気が引く僕。
「え、えぇぇ! あ、ちょっ、大丈夫ですか!? や、ち、違うかっ、ご、ごめんなさい!? ってか、ええぇぇ!?」
ちょっと軽く引っ張っただけなのに何でぇぇ!?
義手とはいえ人の腕を外してしまう、突然のスプラッターな光景に軽くパニックしてしまう。
腕が取れた事を気遣うのか謝るのかアタフタしながら、ノア船長の方を窺ってみるものの、歯車でできたマスクのせいでどんな表情をしているか全く分からない。
しかも無言を貫いていて、痛がっているのか怒っているのかさえ分からないんですけどぉ?
あれ? 僕やっちゃった? 乗り込み先の船で傷害事件なんて、飛空船に乗れないどころかギルドの登録の抹消だってありえる。
「あわわ……どうすれば……」
「プププ……何その顔……! ウケる……!」
混乱しているせいでノア船長の腕をブラブラとさせているだけの僕を、テラリスが腹を抱えて笑っていた。
なぜ笑う? 自分の所の船長の腕が取れたんだよ?
対してアイリスちゃんは怒っていた。
プンプンと擬音が出そうな可愛らしい怒り方をしていたが、同時に彼女の信用を失ってしまった事を意味している。
「船長! ビックリするのでやめてくださいと言ったはずなのです!」
「緊張していたようだから、ほぐしてやろうと思っていたのだが?」
「へ?」
やってしまった事に後悔し、叱責を待っていたが、アイリスちゃんは僕ではなくノア船長に詰め寄っていた。
そして、ノア船長は何事もなかったように話している。
腕が取れているのに痛がっている様子もない。
どゆこと?
「ソータさんも困っているのです!」
「ああ、いつまでの人の腕なんか持っていたくはないか」
ノア船長は僕から取れた腕を取り返すと、カシュンッと小気味の良い音を立ててくっついた。自分で腕を元に戻してしまったのだ。
直った腕を動かして、無事であることをアピールしてきた。
「この通り、何の問題もない」
「う、腕は大丈夫なんですか?」
「さっきのために、痛覚を遮断し簡単に着脱できるよう調整しただけだ」
「そ、そうですか……はぁ、焦った……」
「いい感じに肩の力が抜けただろう」
この人、天然なの? 心臓に悪いジョークをかまされてもリラックスはできないよ? むしろ何するか分からない不信感が募っただけだよ?
「その気持ちは分かるのです。わたしたちも初めてこの船に乗った時に質の悪いイタズラをされたのです」
「質の悪いイタズラとは心外だ。ただの船長ジョークではないか」
「いきなり目の前で腕が取れるのは、質の悪いイタズラとしか言いようがないのです!」
なんだよ船長ジョークって。普通の船長は腕なんか取れないよ……。
アイリスちゃんには同情され、テラリスもウンウンと頷いている。2人の時も腕が取れたのか。
見た目がすごい厳ついから、もっと怖い人物かと思っていたけど……マイペースな船長だなぁ。おかげで何とも不思議な顔合わせになった。
「腕も飽きてきたな。他に取れて面白い場所がないか案はないか?」
「話聞いてましたのです!? やめてほしいのです!」
「次は頭なんてどうかしら?」
「お姉ちゃんも乗らないでほしいのです!」
……モルドーさんの時も思ったけど、乗組員同士の距離感が近い気がする。もちろんいい意味で。
アイリスちゃんもテラリスもノア船長たちを目上の人として扱いつつ、遠慮なく接している。
僕に見せることのない表情が、僕には見えない繋がりがあることを実感させられる。
もちろん当然のことだけどね。僕以外のメンバーで旅をしてきた仲なんだから。
ただ、想像していた格式張った上下関係ではなくて、なんて言うか……自然体なんだよな。
お互いありのままを受け入れている……はちょっと大袈裟な表現だけど、楽しげな様子な間に入りづらくて、ほんの少しだけ居づらいとは思った。
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