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第1話 プロローグ

これが初めての作品です。

拙いものではございますが、楽しんでいただけたら幸いでございますm(_ _)m

 ーー場所:???ーー


 灰色一色。

 そうとしか表現できないほど周囲を雲で覆われた中を飛空船4隻が飛び回っていた。


 前を行く船はまるで鋼のクジラだ。

 それは心臓である機関部が唸り声を上げ、後方にあるノズルから青白い炎を吐き出しながら突き進む。

 クジラに見える船体は楕円の形をしており、全体に被せた装甲は所々戦闘を思わせる傷跡があった。特に前方の装甲は過剰とも言えるほど集中しており、なおかつ一番損傷が激しかった。まさに歴戦の将を思わせる威圧感のある船だ。


 後を追うのは、鋼のクジラよりも半分ほどの大きさの船が3隻。

 素直に追従するのではなく、搭載された機関砲が高圧蒸気と共に砲弾を吐き、逃げ場を塞ぐように攻めている。

 真上から見れば剣を思わせるスラリとしたシルエットが、今にもクジラへ突き刺すかのように追いかける。


 それぞれスピードを緩めることなく、上下左右入れ替わるように位置を常に変えながら追走劇をしている。


 加速力と耐久力に長けた大型の船が逃げ、小回りと連携で追い詰める小型の船。

 さながらクジラを追い詰めるシャチの狩り現場、という海中の光景に似ていた。


「各員、状況を報告せよ!」

『機関室だ。主機関の出力さらに低下、第2の蒸気バルブを補助機関に繋いでなんとか保たせる……おい! 3番シリンダーの交換急げ!』

『ダメージ報告! 15番、あと29番ブロックの通路に火災発生! 消火活動を開始するわ!』

『こちら右舷側砲手! 残り弾薬あと3割よ~!』

『左舷側もおおよそ同じくー』


 大型船の上部にある艦橋の中では神経質そうな男の命令の元に、各部から報告が上げられる。

 この世界に無線なんて物はない。船内の連絡は各部屋を金属製の管で繋いで、声の反響を利用してやり取りする伝声管を使用する。

 その性質上、大声で怒鳴らないと届かないし、切迫していると早口で聞き取れない場合もある。

 何とか状況を整理して、男は舵を取る。


 「副船長、進路10時、上昇3度の方向ーーあの辺りの気流に乗れ。機関士長は補助機関の点火を準備しろ。砲手、当たらなくていいから牽制射撃を続けろ」


 ガラスでできた船外を見渡すための外郭は常に水滴が張り付いるせいで視認性が悪く、複数の上昇気流と下降気流が複雑に絡み合う積乱雲の中で舵取りの操縦性も悪い。

 さらに、水蒸気が凝固してできた氷晶が気流に乗り、衝突を繰り返して帯びた荷電が船体にダメージを与える危険性もある。

 つまりコンディション最悪の状態で敵を撒かなければならない。


 好きでこんな場所に突っ込んだ訳ではない。

 後ろで船全体の指示を出している船長の考えだ。


 この船は今日1日ずっと戦ってきた。

 最初の4隻は正面から撃ち落とし、続いてやってきた6隻も全て戦闘不能にした。半分程度大きさの敵船とはいえ、1隻で援護もなしに10隻を撃墜した功績は場所によっては勲章モノだ。そんな物を貰える立場ではないが。

 しかしそれらは囮で、本命と思われる6隻から奇襲を受けてしまった。


 手痛いダメージを喰らってしまい、すぐさま逃走を図る。

 しつこく追いかけてくる敵を振り切りるために考え出された案が、活性化した雷雲に突っ込むことだった。


 船長の狙い通り、暴風の中でコントロールを失った1隻が、他の船にぶつかって共に虚空の彼方に消え去った。

 だが、残りの3隻がしぶとい。手練れなのか、確実にこちらに損害を出してくる。

 かれこれ1時間はこの嵐の中にいる。敵船も少なくない損傷をしているが、一向に攻勢は衰えない。


『出撃の許可をお願い! あたしならあの程度すぐに追い返せるわ!』

「馬鹿者! こんな乱気流の中ではぐれたら、5m先も見えない今の状況では合流は困難だ! お主の今の仕事は負傷者の回収と船体チェックだ!」


 吹き荒れる風に煽られガタガタと船体が振動する中、船長の指示と指先の感覚で少しでもマシな風に乗れるよう船を操る副船長が、ワガママを言う船員の要請を切り捨てる。

 大質量の船でさえ気を抜けば、暴風に引き千切られる状況の中を、人が出るのは無謀としか言えない。たとえ単騎で船3隻を簡単に堕とせる腕前でも、今は安全を重視だ。


『でも、アイツらまだ追ってくるし、このままじゃーーきゃあ!』

「ぬぉっ!?」


 敵の銃弾がマズい所に当たったのか。船が大きく揺れる。

 すぐさま、船体側面の噴射口から高蒸気圧噴射(カウンター)を当てて揺れを抑える。


 言われる通りこのままではジリ貧だ。良くて相打ちだろう。

 しかし、我々は相手を倒すことが目的ではない。相打ちなんてもっての外だ。


『こちら機関室! 補助機関の点火準備完了したが、これ以上の負担は主機関が保つか分からないぞ!』

『右舷側の弾薬0よ! 急いで倉庫に予備弾倉を取りに行くわ!』

『待って! 29番ブロックの火災はまだ鎮火できていないわ! 倉庫には迂回して!』


 芳しくない報告がどんどん上がってくる。

 ただでさえ船の大きさの割に乗員が少なくて、常に手が足りない状態なのだ。これ以上の問題は、船員たちの処理能力を大きく超えてしまう。


「船長……!」

「まだだ」


 船長は何かを狙っているらしく、現状維持を命令される。

 船長の命令は絶対だし、信頼もしている。だから、悪魔の巣みたいな雷雲の中へ躊躇なく飛び込めるのだ。

 だが、いつ何が起きてもおかしくない状況では焦りがどんどん湧き上がってくる。


 暗い灰色で閉ざされた空間を緊張感が包む。


「あと、もう少しだ」


 船長の呟きが聞こえる。

 暴れる操縦桿を抑えるのに必死な副船長は、一体何を待っているのか聞こうと思った、その時ーーそれは訪れた。


『ガアァァァァァァ!!!』


 船内にいても分かるほど凄絶な声が大気に響いた。

 叫び声か? と疑うほどだった。時折聞こえる雷鳴をはるかに超える声量を出せる生物がいるのだろうか。


 音の発生源の方を向いてギョッとした。

 前方左の渦巻く乱雲の中から、巨大な何かが飛び出してきた。


 全体的に細長く、全長はこの船の2倍以上。

 細い身体に比べて巨大な翼を何対もはためかせ、首から下は青黒い堅殻に覆われていた。

 細いと言っても全体像からそう感じるだけで、実際の胴回りは成人男性10人が両手で囲っても足りないぐらいの太さはあるだろう。

 そして何よりも特徴的な頭部に生えた1本の雄々しい角が光を明滅する度に全身に雷光を纏わせていた。

 

 その場に居合わせただけで、周囲の風がより一層激しくなる。

 まるで天候を支配しているような佇まいは、生物として圧倒的に格上として知らしめるのに十分だった。


 この世界における災厄の権化である魔物たちの中で上位に位置する”竜種(ドラゴン)”。

 国を滅ぼしかねない存在が目の前にいた。

 

 何故コイツがここにいるのかーー疑問が浮上してきたが、すぐに追い払う。

 集中を乱す雑念をしては命がいくつあっても足りない。

 船長の命令を迅速かつ確実に行うのが船員の仕事だ。


 支配領域(テリトリー)に侵入した虫ケラが煩わしかったのか、竜は風を巻きつつ距離をあっという間に詰めてきた。

 目一杯開かれた顎には鋭い歯が並び、言い知れぬ恐怖が呼び起こされる。

 あんなのに噛みつかれたら、たとえ重装甲が自慢の本船でも食い破られる。


 だが、この瞬間を船長は待っていた。


「今だ、補助機関点火ーー途中で停止しても構わない。とにかく距離を離せ」

『了解! 補助機関、点火!』

「副船長。進路そのまま、出力全開だ」

「了解でございます! 出力全開、いきますぞ!」


 続けざまに発せられた命令をすぐに実行する。

 後ろから何かに突き上げられたかのような衝撃と加速が、身体を後ろに引っ張る。

 突然スピードを上げた我らに敵船から驚く気配が伝わる。

 すぐさま加速を開始して追いかけてくるが、時すで遅く距離をどんどん離す。主機関の地力が違うのだ。


 その一瞬の判断が命運を分けた。


 鋼のクジラが目の前に迫ってきた顎を急加速によって脇のギリギリを走り抜けた。

 ゴウッと風が吹き付け船体がミシミシと軋み舵が暴れそうになるが、副船長は全身を使って操縦桿を押さえ込む。

 結果、”死”の運命を力づくの回避行動で突破した。


 だが加速が遅れた敵船3隻とも竜の口内から逃れられなかった。

 上下の歯に挟まれた船はあっけなく噛み砕かれる。バキバキと音をたてながら金属フレームがひしゃげ、木板はへし折れ、中身がぶち撒けられる。

 たまに見える赤い飛沫がは乗員の血だろうか。

 主機関が引火したのか小規模の爆発が起こるが、竜は気にもしていなかった。


 文字通り木っ端微塵となった敵船の報告を聞きながら、副船長は操縦桿を強く握りしめるのをやめない。

 いやらしい追跡はなくなったが、危険なのは変わりない。むしろ危険度なら今まで以上だ。


『1番シリンダー破損! 第1蒸気バルブ破裂! 機関室内気温50度オーバー!』


 過剰投入された燃料を主機関に送り込み無理やり力を引き出していたせいで、暴発しそうな主機関から悲鳴が聞こえる。

 これ以上嵐の中で無茶な機動はできず、ただ真っ直ぐ進むしかできなかった。


 しかし現在、竜の傍を走っているのだ。

 左を向けば稲妻を纏った胴体が窓越しに見える。

 いつ体当たりされて、敵船と同じ運命になるか分からない。

 

 せめて安全圏まで逃れられるまで保ってほしい。


 吹き出る冷や汗を拭えないほどの集中によって、絶えず船を叩く音が遠くに感じ、自分の鼓動がやけに大きく聞こえる。

 まだか……まだか……たった数瞬の交差なのに時間がやけに遅く感じる。


 どれくらい過ぎたか分からない濃密な時間の後ーー祈りが通じたのか、竜は逃した飛空船の事を意に介さず、暴れる事はなく通り過ぎた。


 いや、Uターンして襲ってくるかもしれない。

 後方の雲の中へ入って姿が完全になくなった事を確認してからも、念を入れて見張りに注力するよう指示する。



 ーー数十分後



 やがて”戻ってくる気配がない”との報告が上がると船内に安堵の空気感が満たす。


「各員、最大の脅威はなくなったが未だに嵐の中だ。安全圏に出るまで油断はするな」


 船長がすかさず気を引き締めるよう言いつける。

 とはいえ、いつ止まってもおかしくない主機関の不安はあるものの、最大の脅威が取り除かれたことに肩の荷が下りるのは仕方ない。


 その後は慎重に飛空船を進めていったが順調だった。

 予断を許さない嵐ではあるが、邪魔が入らないだけで随分違った。

 主機関にこれ以上の負担をかけないよう細心の注意を払いながら進むと、やがて雷雲を抜けることに成功。


 先程と打って変わって晴れ渡る青空が広がり、穏やかな風が流れる光景はまさに別世界だった。


「各部の状態はどうなっておる?」

 

 操縦桿から強張っていた指をようやく離せた副船長が状況把握の役割をこなす。


『こちら機関室。主機関を停止して動力源を完全に補助機関へ切り替えた。しばらく戦闘機動は無理だからな? 絶対にやめろよ』

『医療班でーす。死者と重傷者は0よー』

『損傷報告よ。左舷側の装甲が特に酷くて、第三層まで剥げているわ。早急な修理が必要ね』


 やはり船の損害が酷いことになっているが、それでも今すぐ墜落するような心配はなさそうだ。

 それに人的被害がなかったのが救い。

 この世界で最も価値があるのは経験と知識を持つ人材だ。

 船のパーツは金を出せばなんとかなる。だが能力のある人は簡単には集まらない。


「うむ、了解した。これより戦闘態勢を解除し通常シフトへ移行するが、警戒は怠らぬように」


 その他、各船員にそれぞれ指示を出した副船長は次に船長と向き合う。


「船長。今回はなんとかなりましたが……竜種(ドラゴン)を使った囮作戦はいかがなものかと……」

「実情、なんとかなっただろう? 船と船員の能力を鑑みて問題ないと判断した」

「そう言うわけではないですぞ……」


 さりげなく小言を言った副船長だが、さらりと流す船長。

 自分たちの能力を高く評価してくれるのは嬉しいが、そうではない。

 ベテランである副船長といえども命を賭けたギリギリの綱渡りが平気ではないのだ。


 感情をあまり見せない船長の無茶はいつものことではあるが、その命令を聞く船員たちとしてはたまったものではない……。

 せめて作戦の内容ぐらい教えて欲しかった、とため息をつく副船長であった。


「それに、やっと目標を見つけられたのだ。十分な収穫だ」


 船長の言葉に頷く副船長。

 先ほど襲ってきた竜種(ドラゴン)は、この船の”討伐対象”だった。

 とある所から討伐依頼を受け、何日も探し回ったのだ。


 あちこち飛び回ったせいで、今回のように関係のない所から攻撃を受けてしまうこともあったが。

 では、無傷の状態であれば竜を倒せたかというと……おそらく無理。

 あの竜は常に雷雲の中に居座っているため、こちらの実力が十分に出せない。

 相手をするには万全の準備と雷雲から引き摺り出す策が必要なことが分かった。 


 ともあれ、船長の見極めによっておおよその生息域を掴むことができた。


「しばらくは彼奴もこの近辺にいるだろう」

「となると、まずは船の修理ですな」


 副船長に肯定するように船長が地図を広げる。


「船体の損傷具合から、一度大規模な修理と補充が必要だーーならば、エルマー国だ」

「エルマー国? ですが、あの辺境の国は……」

「当てはあるーー進路をエルマー国に」


 懸念する声が副船長から出るが、船長の指示は変わることはなかった。

 きっとエルマー国に”何か”があるのだろう。そう思った副船長はそれ以上追求せず、舵を取った。


 進路を決めた船長は、誰にも聞こえない声量で呟いた。


「果たして、エルマー国で探し物が見つかるだろうか」


 前から悩ませている乗員不足について。

 船の大きさに対して船員が少なすぎるのだ。


 新しい船員を求めてはいるものの、中途半端な夢見気分で乗船を希望する者や覚悟がない者ではただの足手まといだ。

 たとえ覚悟があっても、運と実力がなければすぐに空の藻屑と化してしまう。

 

 しかも我々には成し遂げなければならない使命がある。


 多くの者が理解に苦しむ内容だ。故に敵も多く、人材確保が余計に難しい。

 共に想いを共有し、空を駆けてくれる者がいることを願う船長であった。



 ◇



 ーーエルマー国:総合ギルドーー


 僕はとある建物の前にいた。

 石と木でできた二階建ての大きな建物で、絶え間なく人が出入りしている。


『総合ギルド エルマー国支部』


 看板にはそう書かれていた。

 “ギルド”という言葉はファンタジー小説を読んでいる者なら馴染み深い言葉だと思う。

 簡単に言えば、ギルドを通された依頼をギルドに登録した者が受ける、人材派遣業だ。

 直接雇用もあるのだが、仕事をするならギルドに登録するのが一般的だと言われる。

 なぜならギルドは知らぬ者がいないと言われる程、世界中に展開する組織だ。”ギルド”ブランドは何よりも信頼の証になるのだ。

 

 エルマー国というのが、僕がこの世界に来てからずっといる浮遊島の名前。

 ”国”と言っても拠点となる都市がいくつもあるような大きなものじゃなくて、1つの街が国を名乗っている感じかな。地球出身の僕からしたら、10万人程度の人口なんて国よりも地方の都市をイメージだよ。でも、エルマー国の規模は世界の中では大きい方で国内情勢も活発らしい。

 先程も言ったけど、ここは”浮遊島”。ラ○ュタのような絶海ならぬ絶空の孤島だ。10万人も暮らせるほどの土地が空に浮いているというだけでファンタジー感が伝わるだろうか。

 陸続きの大地があるわけでもなく、隣の浮遊島は何十km先にあるのだから、そういうものだと慣れるしかない。


 そんな空に浮く島にある国で、空を飛ぶ。


 僕は手に入れた第二の人生で、前世では敵わなかった夢の実現のための一歩を踏み出す。


 緊張が止まるどころか高まるばかりだ。

 こちとら就職なんてしたことがないんだから。

 でも諦めていた願いが目の前に転がってきた。長年想ってきた祈りが叶うかもしれない。

 それならこのチャンスを無駄にするはずがないじゃないか。


「さて、空を飛ぶ準備しようかな」

2020/01/10(日):先行で5話を投稿した後、週1で1話のペースでいけたらな、と思います。

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