農民として異世界転生した俺、チートスキルの実を生産する。
俺は農園の柵に腰かけてリンゴのような実を一口齧った。
「聞こえているのか? 貴様がもつ加護の実を育成する技術を公爵様が買うと仰られている。すぐに出立の準備をせよ」
四頭立ての豪壮な馬車に乗ったまま、その貴族は俺を見下ろしている。
「買うと言われても売り物じゃないしな」
「交渉に来たのではない。待たせるな」
「話が通じないな。俺の作る果物は公爵様とやらが気に掛けるような代物じゃないよ」
「隠しても無駄だ。貴様の作る実を食べた者があるいは千里を飛翔し、あるいは魔獣の群れを殲滅したこと、既に調べはついている」
口の中の実を飲み込んだ。
「豊穣神の加護なんだよ。みんなが腹一杯飯を食えて、年中笑顔でいられるような、そんな豊かな土地を作るための力だ」
「くだらん! 下々の者の腹を満たしてどうだと言うのだ。無知蒙昧な田舎農民は価値を理解できんと見える。その力さえあれば公爵様の軍事力は周辺国を圧倒し、ゆくゆくは帝国をも凌駕――」
「何がくだらないんだよ」
「何?」
「あんた、冷たい台所で食い物探したことある? 飯食えないことがどんだけみじめか、考えたことあるのかよ。何が軍事力だ、戦争でひもじい思いするのあんたらじゃないんだよ!」
「貴様!」
「俺が今食べてた実の加護を教えてやる――<天候操作>。雷が多いと豊作になるらしいぞ!」
人差し指を上に突き上げる。青空は俄かにかき曇り、黒雲が瞬いたかと思うと、轟音と共に馬車の真横に雷が落ちた。
驚いた馬達が暴れ出し、御者を無視して駆け出していく。馬車から顔だけ出した貴族が吠えている。
「お、覚えていろ、貴様! この国で公爵様に逆らえばどうなるか!」
「心配しなくても、あんたら貴族にもひもじい思いだけはさせないよ」
俺は緩く手を振った。空はすでに青さを取り戻している。
豊穣神が力を失った異世界に俺は農民として転生した。獣は減り、作物も育たず、人々はいつも飢えていた。
俺は豊穣神を手伝うことを条件に、食べると消化されるまでチートスキルを得られる<加護の実>を育てる能力を授けられた。
農園の緑を渡って来る初夏の風を胸一杯に吸い込んだ。
スキルのお陰で確かな実りを得られるようにはなったが、豊穣神的にはまだまだらしい。零落して幼女の姿になった神が、さぼってないで働けと向こうで農家の子たちと一緒に騒いでいる。
なろうラジオ大賞2 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:農民




