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悪魔と彼らの処遇

最終話です。



 殿下が長い時間をかけて側近候補者と男爵令嬢のその後について語ってくださった。何度かそれに対して相槌を打ったような気がするけれど、彼らのあまりにも重すぎる処遇に驚いてしまい本当に相槌を打っていたかどうか定かではない。


 結論から言うと、彼らはアニメのシルビアのように毒杯を賜ることはなかったが、既に貴族社会から消えていた。男爵令嬢は慰謝料の支払いと貴族籍の剥奪で平民落ちとなり、宰相の次男は慰謝料の支払いと王都追放に加えて生涯領地で宰相や兄の補佐をすること。第三騎士団長の嫡男は慰謝料の支払いと謹慎命令、さらに王都追放と領地で一から鍛え直されること。外務大臣の孫と商会の三男は男爵令嬢のように貴族籍の剥奪で平民となり、家が立て替えて払った慰謝料を返すために北方の強制労働施設に移送されることになった。この処遇は悪魔に魅入られていなかったから命を奪われることにつながらなかったけれど、思ったよりも重すぎる処遇に私はもう少し側近候補者たちの罰は軽くてもいいのではないかと思ってしまった。あまり彼らに好かれていなかったとはいえ、長年殿下を支える臣下として同じ時間を過ごしてきた情がある。私からすれば殿下の正式な側近になれないだけでも、彼らにとっては十分な罰だ。彼らはこれまでずっと殿下の正式な側近になるのは自分たちであると、疑うことすらしていなかったのだから。


 それに、と思う。彼らは悪魔に魅入られていなかった。ラインセント王国ではごくたまに悪魔に魅入られた貴族が悪魔の囁きに加担して罪を犯すため、捕まった貴族は須く悪魔鑑定を受け、悪魔に魅入られていると判断されれば死をもって償うことが法で定められている。基本的に悪魔は姿形なきもので実体を持たず、人々の負の感情を糧とし日常生活の中の至るところに潜んでいる。滅多なことで人の前に姿は現さないが、美味しそうな負の感情に支配された貴族の前には蠱惑的な少年の姿となって現れると言う。悪魔と目が合った瞬間、逃げることは出来ず、一瞬で魅入られてしまう。シルビアもエリスへ抱いた嫉妬という負の感情が、たまたま悪魔に気に入られてその結果悪魔に魅入られ、苛烈では済まされない酷い虐めを行っていた。それと比べたら、彼らの過ちは私の名誉を汚しただけ。まだ学生であるならば更生の余地を残してもいいのではないか、と思ってしまう私は甘すぎるのだろうか。


「殿下、お話しくださりありがとうございました。私から異論を唱えることはありませんので、そのようにおすすめください」


 けれど、この処遇を決めたのは国王陛下。証拠や状況などの様々なことを総合的に鑑みて、下された結果だ。お父様にお願いして減軽を願い出たとしても、精々が慰謝料の額が変わるくらい。それに殿下の内容では、それぞれの家も王家の反感を買わないために彼らの処遇に納得している。だから、私もそれを受け入れなければいけない。


「シルビアには知る権利があるからね。この後シルビアは陛下に呼ばれているんだろう? 恐らくそこで各家からの正式な謝罪を受けることになるだろう。流石に彼らはここに来られないから、各家の当主からとなるがな」

「ええ、この後に何があるのか予想はしておりました。ただ、あの方たちは既に居ないとは思いませんでしたが……」


 殿下が仰ったようにただ単に殿下とお茶会するためだけに王宮に呼ばれたわけではないことは、殿下から誘われていた時点で勘づいていた。側近候補者と男爵令嬢の処遇を聞くことと、彼らからの正式な謝罪を受けるためだと。正式な謝罪方法は国によって異なるけれど、ラインセント王国では謝罪をする側とされる側に加えて国王陛下及び各大臣と書記官の臨席が必須となる。証人と文書での証拠を残すことで、後に誤認や食い違いなどの禍根を生まないようにするためだ。


「では、陛下との約束に遅れるといけないからそろそろ行こうか」

「そうですね、殿下」


 時間を確認した殿下が徐に立ち上がったため、私もそれに続き立ち上がる。私が立ち上がったことを認めた殿下はエスコートの姿勢を取り、私を待つ。殿下の横に並んでから私は殿下から差し出された手に己の手を重ね、陛下の待つ謁見の間に向かった。



 その数年後。ウィルビセス・ラインセントとシルビア・ザッハトール侯爵令嬢は、盛大な結婚式を執り行い婚約者から夫婦となった。けれど、二人の左手に薔薇を象った刻印は現れることはなかった。しかし、それでもウィルビセスの治世は類を見ないほど平和で繁栄した時代であったと後世に伝えられている。


「私の行動のせいで女神からの加護をもらえなかったとしても構いません。私は殿下を信頼しております。女神の加護なくとも、平和な世にしてくださると」


 二人の死後、シルビアに古くから仕えている侍女の証言によれば、シルビアは度々そのような不思議なことを口にしていたと言う。その言葉の裏に隠された意味は、誰も理解することはない。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました!


「第一王子は婚約者一筋です。」では一切書かなかった設定全て出し切りました。お陰で「第一王子は〜」のように三話で終わらす予定が五話になってしまった……。

もう少し文章をまとめられるよう頑張ります。


以下、ウィルビセスとシルビアの間に薔薇の刻印が浮かばないことについてです。気になる方のみお読みください。


薔薇の刻印が浮かぶ条件をシルビアは真実の愛だけだと思っていますが、もう一つ「王妃の試験」と呼ばれる試練に合格して国王陛下及び各大臣に認められなければいけません。ただし、「王妃の試験」を受けられる者は国外から嫁いできた妃か伯爵家以下の令嬢が妃になる時です。初代王妃は子爵令嬢で、女神の愛子だったために妃に選ばれました。つまり、侯爵令嬢であるシルビアはそもそも試練を受けられないため絶対に薔薇の刻印が浮かぶことはありません。

ウィルビセスとシルビアの間に真実の愛が芽生えたかどうかについては読者の皆さんのご想像にお任せします。

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