騒動の収束
「お前たちが行った次期王妃であるシルビアへ嘘の罪で断罪しようとしたこと、またシルビア・ザッハトール侯爵令嬢の名に傷を付けたこと、王家として到底許すことは出来ない。衛兵、彼らを直ちに捕らえよ!」
殿下が私の味方であることは、側近候補者たちにとって寝耳に水だったのだろう。殿下が男爵令嬢を傍に置いていたから、彼らは勘違いをしていたはずだ。殿下の寵愛は婚約者であるシルビアではなく、男爵令嬢にあると。アニメではその通りだったかもしれない。
けれど、ここは現実世界。人の気持ちは変わるもの。現に私自身の行動も変わっている。それが、今この結果につながっているはずだ。殿下は愚かな行動を起こさなかった私を、きっと──。
衛兵が殿下の指示通りに動き、側近候補者たちは呆気なく拘束される。男爵令嬢は一人何か叫んでいたけれど、猿轡を噛まされたことによって少しは大人しく……はならなかった。可愛らしい顔が見るに耐えないほど醜く顔を歪め唸り、拘束している衛兵に今にも掴みかかりそうなほど放ってはおけない危険な状態だ。その様子を見ていた殿下が、さっさと王宮に連れて行くよう衛兵に目配せして彼らを外に連れ出した。そして殿下は卒業生にとっての晴れ舞台に水を差したことを詫びる。
「皆の者、せっかくの晴れ舞台で騒がしてしまってすまぬ。気を取り直して、改めて仕切り直そうではないか! ……シルビア、一緒に踊ってくれるか?」
卒業パーティーを騒がした側近候補者たちが居なくなり、固唾を飲んで事の成り行きを見守っていた参加者たちに向けて、殿下は声を張り上げた。未だ張り詰めた場の空気を変えようと、いつもより努めて学園のリーダーらしく振る舞う殿下。そのまま、参加者たちに向けていた視線が私に向く。
「ええ、勿論ですわ殿下」
殿下からの誘いを断るわけがない。殿下から差し出された手を取れば、うっすらと微笑んでくださる。それに私も微笑み返す。
私も殿下の婚約者とは言え、殿下の次にこの場では身分が高い者。身分の高い者に従う風潮のある貴族たちは私たちがいつも通りを演じれば、自然と先ほどの騒動から意識は薄れ、今はこの卒業パーティーを楽しんでくれるだろう。パーティーが終われば、今この場に居ない他の貴族にこの出来事を伝えに行くかもしれないが。それを僅かな時間で弾き出した殿下の考えに、婚約者たる私が意見をするなど以ての外。
まぁ、そもそも意見することなんて何もないもの。だって、久しぶりの殿下とのダンス。楽しまなくては損よね。
*
殿下の思惑通り、私たちのダンスが終わる頃にはパーティーの参加者たちはあの断罪劇が行われる前のようにそこかしこで各々楽しんでいた。あの断罪劇が嘘だったかのように、和やかに。ある者は己の婚約者とダンスを踊り、ある者は友人と別れを惜しみ、ある者は強かに商談を持ちかけている。それを殿下の隣で見届けながら、今後のことを思案する。
アニメではシルビアが断罪された後、シルビアは婚約破棄のち牢獄に入れられ毒杯を賜り、ザッハトール侯爵家は一部の領地没収と子爵に降格され時間の流れとともに没落していく。この処遇は陛下の公正で厳重な精査をして決められている。そのシーンはもちろんアニメで描かれているから、陛下がどのようにして精査していたのか、そのシーンの回想で声を当てた私は知っている。恐らく、側近候補者と男爵令嬢の処遇もそのようにして決められるのだろう。
──だから、彼らの未来はどうなるか、今の私は一切知らない。けれども、彼らによって断罪されそうにはなったけれど、毒杯を賜るようなことにならなければ、と思う。悪魔に魅入られていなければ、回避出来るとは思うが。
次回の更新は未定です。
あと一、二話ほどで完結予定です。