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シルビア・ザッハトール侯爵令嬢は

あらすじの通り、今回はまだお話を完結させていません。


※このお話が合わないと感じたら、そっとブラウザを閉じてUターンしてください。

※誤字脱字は受け付けていますが、一旦完結してから直そうと考えているためすぐに対応できないことはご了承ください。


【追記1】サブタイトルを変更しました。

【追記2】12月22日に完結しました。


「シルビア・ザッハトール侯爵令嬢! 聞けば貴様は嫉妬に駆られ、エリス・ウバン男爵令嬢を虐めていたそうだな。その様な者がウィルビセス・ラインセント殿下の婚約者に相応しいはずがない!」


 学園の講義室を卒業パーティー用に模様替えした場所で、最上級生の卒業と門出を祝う本日。和やかに行われていた卒業パーティー中、友人と談笑していた私を宰相の次男が唐突に名指しして声高く叫んだ。


 名を呼ばれた方向に体を向けると、そこには宰相の次男、第三騎士団長の嫡男、外務大臣の孫、王家御用達で有名な商会の三男が揃って凄い形相で私を睨みつけていた。そして彼らに守られるようにして怯えた様子を隠さず私を見つめてくるのは、ここ一年ほど学園を騒がしていた男爵令嬢エリスだった。


 ──その光景を、私は()()()()()。ここではない別の世界で、私は体験したことがある。ただ、その時と違うのは、彼らの傍に婚約者の第一王子ウィルビセス・ラインセント殿下がいないこと、私たちが生身の存在としてちゃんと生きているということだ。


「急に何を仰っているのでしょうか」


 談笑していた友人に断りを入れ、彼らに向き直る。そして、ここではない別の世界で言った台詞を一言一句違えずに紡ぎながら、首を傾げた。実際に宰相の次男が叫んだ内容は、全く身に覚えのない言い掛かりであるから間違ってはいない言葉だけれど。


「しらばっくれるな! エリスがどれだけお前の下劣な仕打ちで苦しんだか! お前がエリスに行った数々の悪行をしっかりと聞くが良い!」


 宰相の次男も予想通りだった次の言葉をそっくりそのまま言って、その後に私の悪行らしい罪を並び立てる。例えば、誰もいない場所に呼び出して男爵令嬢の出自が低いことを理由に暴言を浴びせただとか。例えば、学園から男爵令嬢を孤立させるよう数人の取り巻きを使って小賢しく工作しただとか。例えば、殿下に愛されている男爵令嬢の存在が邪魔で階段から突き落とそうとしただとか。本当に私が預かり知らない悪事を朗々と読み上げる。


 本来、私が知っているシナリオ通りならば、この後の展開は簡単に予想がつくから、その罪を覆すことが出来る。そのための下準備も抜かりない。けれども、彼ら側に婚約者の殿下はいない。だから、違う結末になることを考えながら私も慎重に言葉を選んだ。


「私はそのようなことなどしておりませんわ」


 私は今、殿下の婚約者であり次代を担う王妃となる者。彼らに付け入る隙を見せてはならない。周りの好奇心あふれる視線や彼らから親の仇を見るような目で私を見られても、決して怯んではいけない。真っ直ぐに相手を見つめて、背筋を伸ばし否定する。王妃教育で賜った淑女らしく悠然に扇を広げ微笑むことを忘れずに。

 


 私が前世の記憶というものを思い出したのは、忘れもしないウィルビセス・ラインセント殿下と顔合わせをした十歳のときだ。最初は殿下をどこかで見たことがあると既視感を感じ、次に殿下と挨拶を交わすとその途端になぜか殿下のあらゆる情報が頭の中を駆け巡り、最後に幼い殿下にエスコートしてもらって見事に咲き誇る薔薇庭園を案内してもらったことが決定的だった。


 ──私は、彼を()()()()()


 それは、貴族の娘として教養の一環で教えてもらった王族の殿下ではなく、アニメのキャラ設定として私は殿下を知っていたのだ。前世で新人声優だった私は、『五人の貴公子とローズガーディアン』という深夜枠に放送されたオリジナルアニメで初めて名前のある役をもらえた。その役こそが、シルビア・ザッハトール侯爵令嬢、つまり今の()である。


 シルビアのアニメの中での立ち位置は、第一王子ウィルビセス・ラインセント殿下の婚約者であり、ヒロインのエリス・ウバン男爵令嬢と最初は良好な関係を築くものの、段々と殿下とエリスの距離が近づくにつれ嫉妬に狂う悪役的存在だ。エリスと殿下の出会いは、エリスが学園に入学して少し経った頃、学園内をうろついていたエリスを見咎めた殿下が声を掛けたことがきっかけだ。それから徐々に殿下の周りにエリスが度々姿を現して、殿下がちょうど煮詰まっていた案件にエリスの平民感覚の意見が解決の糸口となり、殿下が気紛れに側に置くようになる。


 シルビアは、最初それを許容していた。殿下から直接エリスを側に置くと告げられたときエリスの存在が殿下のためになるなら、とシルビアはエリスを殿下の側にいても相応しい淑女にしようと決めたほどに。けれど、段々と殿下とエリスの距離が近づくにつれてシルビアは二人の関係性に悩むようになる。そして、次第にエリスが憎くなりそこに漬け込まれ悪魔に魅入られたシルビアはエリスを事あるごとに虐め、殿下と側近候補者たちにその年の卒業パーティーで断罪される。


「残念だよ、シルビア。君は誰よりも聡明だったから次代の王妃として選ばれたのに。"影"からの報告で調べたが、私の知らないところで嫉妬で罪のないエリスを虐めるとは。どうやら私の隣に並び立つ者として、一番相応しくないのは君のようだ。……ここにウィルビセス・ラインセントの名において婚約破棄を宣言する」


 ──初めて殿下の婚約者に選ばれた理由を明かされ、氷のような温度が感じられない瞳で見下ろされてシルビアは殿下から別れを告げられた。

次回の更新は未定です。

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