サイドストーリー うさぎの女の子と転生うさぎの目覚め
二章最後~三章開始までの話になります。
言葉を覚えたての頃と、段々と覚えてきた頃とでちょっとずつ変わっていく様子が伝われば良いなぁと思います。
はじめて出会ったときは、くらくてとってもこわいばしょでコワイモノにおそわれているときだったのです。
とってもこわくて、ふるえて動けなくなっていると、いつ間にかコワイモノがどこかにいなくなってしまって、そのかわりに、あたしよりも少しだけ体のおおきいおねえさんうさぎが近くであたしを見ていたのです。
これが、あるじさまとの出会いなのです。きっとこの出会いが、あたしたちにとってとても大事で大切なできごとだったのだと思うのです。
でも、あるじさまと再会したときは、ぼろぼろのあるじさまを見てとても泣きそうになったのです。おかあさまが、あたしたちをあるじさまと同じ人の姿にできるようにしてくれた人たちにおねがいして、あるじさまを、あたしたちが住んでいるところまでつれていけることになったのです。
ぐったりして意識のないあるじさまだけど、指に付いているふしぎなものに魔力を入れたおかげで、さっきまでよりもほんの少しだけかおいろが良くなったような気がするのです。
あるじさまはとってもとってもキレイな女の子なのです。さらさらとしている髪はうさぎの毛並みよりもさわりごこちが良くて、こどものあたしでもわかるくらいびじんさんなのです。そんなあるじさまをこんなに傷つけるなんてゆるせないのです!
青くておっきいおねえさんと黒くておっきいおねえさんが、寝ているあるじさまのためにおっきいお家を作ってくれたのです。しかも、あるじさまが寝られるべっども作ってくれたのです。おねえさんたちはやさしい人だから、あたしだいすきなのです!あるじさまとおかあさまとおとうとの次くらいにはすきなのです!
それからは、べっどで寝ているあるじさまにこうたいで魔力を入れながら起きるのをずっと待つことになったのです。青くておっきいおねえさんが、あるじさまの体にあったおっきい穴をふさいで「目を覚ますかどうかは五分五分、う~ん、もうちょっと低いかしらぁ~」みたいなことを言っていたのですが、あたしにはまだよくわからなかったから、あるじさまのケガを治してくれたことにおれいを言ったのです。
あるじさまが寝たまま何日も経ったのです。でも、まだあるじさまは目覚めないのです。
あるじさまの指についている、『ゆびわ』というあくせさりーに魔力を入れていれば、体がくちることはないだろうって黒くておっきいおねえさんが言っていたのです。体がくちなければ、いつかは目を覚ますかもしれない、あたしたちはその言葉を信じてずっとゆびわに魔力を入れて満タンにするのです。でも、一日もしないうちにゆびわの魔力が空になってしまうのです。それでも、あたしたちはこうたいこうたいでずっと魔力を入れつづけたのです。
あるじさま、はやく目を覚まして欲しいのです。
そんな想いをこめて、今日もあたしはゆびわに魔力をいれたのです。でも、今日もあるじさまは眠ったままなのです。
あるじさまをベッドで寝かせてから一ヶ月ぐらいが経ったのです。
あるじさまのお世話をしながら、あたしたちは青いおっきいおねえさんに言葉や魔法、戦い方とかいろいろと教えてもらっているのです。
上手に出来るとおかあさまと青いおっきいおねえさんが褒めてくれてとても嬉しいのです。でも、あたしが一番褒めて欲しいのはやっぱりあるじさまなのです。
今日もあたしは、はやく起きて欲しいとお願いしながら指輪に魔力を入れるのです。でも、今日もあるじさまは眠ったままなのです。
あるじさまをベッドで寝かせてから三ヶ月が過ぎたのです。
おかあさまとおっきいおねえさん達が話し合っているのを何度も見るのです。おっきいおねえさん達は「これ以上粘っても目覚めない可能性が高いわよぉ~?」「そうだの、そろそろ見切りをつける時期ではないかの」っておかあさまに言っていて、おかあさまが「もう少しだけお時間をください」と頭を下げているのをよく見るのです。
あたしにはよくわからなかったのですが、おかあさまの様子からして、あまりよくない話なんだなっていうのはわかったのです。おかあさまも「いざという時は主様を連れてどこかに行きましょう」とあたしたちに言っていたのです。
あたしも弟もあるじさまが目覚めるのを待っているのです。絶対にあるじさまは目覚めるのです!だから、たとえおねえさん達に何を言われても、あたし達があるじさまを守るのです!
それから何日か過ぎて、あたしが今日の夜の魔力供給の当番なのです。いつも通りにあるじさまが早く起きるようにお願いしながら指輪に魔力を入れるのです。
いつものが終わってあるじさまをじっと見るのですが、いつも通りの顔で寝ているのです。今日も、目覚めないのでしょうか?あるじさま・・・。
あたしがしょんぼりしながら家から出ようとすると、ほんのちょっとだけあるじさまが動いたような気がしたのです。気のせいかと思いつつも期待を込めてあるじさまの傍に駆け寄ると、口が動いて小さく呻いた後に、ゆっくりとあるじさまがまぶたを上げたのです!
あるじさまのキレイな赤い目がぼおっと天井を見詰めているのです。あたしは目を覚ましたあるじさまを見て嬉しくなって声を上げたのです。
「わー!あるじさまが目を覚ましたのです!どこか痛いところはないですか?お腹空いてますですか?喉乾きましたですか?」
とっても嬉しくなって、あたしも何を聞いているかよくわかっていないのですけど、あるじさまが大きな赤い瞳をあたしに向けて「・・・え?あの・・・え?」と声を発したことにあたしはもっと嬉しくなってその場でぴょんぴょんと飛び跳ねてしまいます。
大変なのです!おかあさまとおとうとに知らせてこないとなのです!!
「あっ!おかあさまにほーこくしないとです!あるじさま、すこしだけ待っていてくださいです!」
あたしはそのまま飛び跳ねるように走って家を出ると、おかあさま達が休んでいる木陰の下まで全力で走ったのです。
あたしがおかあさまの下へ辿り着くと、おかあさまが驚いたように「きゅい!?」っと声を上げたのです。おとうともその声で眠りから覚めたみたいなのですが、そんなことよりも大事な報告があるのです!
「あるじさまが、あるじさまが目覚めたのです!!!!」
それから、目覚めたあるじさまに寝ていた時と変わらずに魔力供給を続けて、あるじさまから卯月という名前ももらって、卯月はあるじさまの正式な眷族になったのです。
もう絶対にあるじさまがあんな傷つくようなことがならないように、卯月があるじさまを守れるようになるのです!
卯月はそう決意して、今日もあるじさまの傍に寄り添い続けるのです。