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サイドストーリー 司書エルフと放浪エルフのお茶会

本編10万PVありがとうございます!

今回のSSは本編24話のレティアーナとエルアーナのお茶会のお話です。

エルアーナの正体とかめっちゃ話していますので、読んでいる話によってはネタバレになるかもしれないので注意してください。

エルフの設定やエルアーナがエルフ達にとってどんな存在なのか伝わればいいなと思います。










 王立図書館の開館は四の鐘。それまでの間に広大な敷地の館内を清掃したり、運営するのに必須の各魔術具の状態を点検したり、まあ、簡単に言ってしまえば、開館準備をしないといけない。やれやれ、一日の始まりくらいゆっくりと紅茶を嗜みたいものね。



 もっとも、開館準備のほとんどは私の人形達がやってくれるから、実際に私自身の目で確認するのは魔術具ぐらいだけれどね。



 その魔術具の確認だけでも、いくつかは館内のあちこちにあるせいで、歩き回らないといけない。やれやれ。そろそろ行きますか。



 三の鐘が鳴ってしばらくした頃に魔術具の確認作業が終わった。館内の清掃もほぼ終わったようね。ポケットから時間を確認する魔術具を取り出して現在の時間を確認する。針が三と四のちょうど真ん中を示しているということは、今は三の鐘と半時が過ぎた頃ね。これならば一杯くらい紅茶が飲めそうかしら?



 館内に居る無数の人形達の中から、服がほつれたり、汚れが目立つものを司書室へと連れてくる。連れてくると言っても指示をしてら勝手にやってくるだけだけど。



 残りの半時は紅茶と簡単な食事を食べながら、人形達の修復をして過ごし、そして四の鐘が鳴り響いた。さあ、開館の時間ね。



 司書室にある入り口や封鎖した扉を管理する魔術具を使い、その場で入り口を開錠する。いちいち動かなくても良いというのが素晴らしいわね。これを考えた人はさぞものぐさな人なのでしょう。ま、作るように言ったのは私なのだけどね。



 開館してすぐの時間はまだ人の数はまばらだ。私は専ら司書室に籠って手持ちの本を読んで過ごす。何かあれば人形を通して分かるし、本の貸し出しや返却作業も人形がやっているので、私が動いてやることはほぼないのだ。ふふ。とても楽な仕事ね。魔力は結構使うけど。



 これだけの大きな建物と大量の本を管理する魔術具に、大量の人形を操るのにはそれはもう大変な魔力が必要だ。だけど、私はエルフの中ではエルフの女王に仕える元老院に位置する上位エルフの家系の生まれだから、普通のエルフより魔力が多い。



 さっきも言ったけれどエルフにも家系や血筋による階級が存在する。下級精霊と契約し、最低限の弓術と薬学を使う一般エルフ。戦闘向きの精霊と契約し、弓術に他に武器術も習う騎士エルフ。中級以上の精霊と契約し、魔法を極める魔道エルフ。エルフの女王を守護し、その身に仕える元老院に所属する王族エルフ。そして、我々エルフの絶対的な女王であるハイエルフのエルアーナ様。



 何故元老院に所属するエルフが王族エルフという名称なのかと言うと、まだエルアーナ様が精霊王と契約していないハイエルフになる前、とてもとても昔の頃は王族エルフの中から、里の者の支持が多い人が選ばれて王となっていたらしいから。その頃のことを知っているのなんて、もうエルアーナ様くらいしかいないのだけど、王族エルフという名前だけそのまま残ってしまったのよね。ちなみに、エルアーナ様はもともと一般エルフだったらしいわ。精霊王と契約してハイエルフになったことで、絶対的な女王として支持を集めたらしいわ。まあ、当たり前よね。契約している精霊の格が違い過ぎるもの。それに、エルアーナ様は精霊王だけでなくて、沢山の始祖精霊とも契約しているし。争う気なんて起きないわよね。



 精霊はこの世界を創った存在でもあるから、その精霊の王に認められて契約までするというのは、それはもう本当に凄いこと。精霊と共に生きる精霊信仰の強いエルフからしたら、神子のような存在に見えるでしょうね。



 さてさて、魔力の多いという話からだいぶ逸れてきてしまったわ。ついつい話が長くなってしまうなんて。もう歳なのかしら?まだ800年程度しか生きていないのだけど。



 エルアーナ様のことを考えていたせいか、なんと、今日の来館者にご本人が現れた。さすがに彼女の相手を人形に任せるわけにはいかないわね。今は女王を返上して放浪しているといっても、私達エルフにとっての女王はエルアーナ様ただお一人だけなのだから。



 エルアーナ様はお一人では無かった。冒険者パーティー『白の桔梗』のメンバーと一緒に居るようだ。リーダーである熾天使のセラと黒猫族のクーリアとは二人が王立魔術学園に通っていたころに会っているから知っている。赤毛の娘は、たしか半魔族のリンナだったかしら?『白の桔梗』は特に有名なパーティーだから、図書館に籠っている私でも情報が手に入るのよね。



 それともう一人、見慣れない少女が居るのに気付いた。まだ幼い少女ながら、エルアーナ様に引けを取らないほどの美貌を持っている彼女。しかし、この少女は・・・



 とにかく、迎えましょうか。五人の中で勢いよく飛び出してきた黒猫族のクーリアに声を掛けた。そのままの流れで知っている顔のセラともちろんエルアーナ様にも挨拶をする。



「あら?クーリアじゃない。あと、セラも居るのね?それと、ご機嫌麗しゅうございます、エルアーナ様」


「久しぶりね、レティアーナ。まだここで働いていたのね。それと、様は止めてちょうだい」


「これは、失礼をエルアーナ。貴方を呼び捨てで呼ぶなんて私が落ち着かないけれど、仕方ないわね。・・・さて、それで、このメンバーを見るに貴方達は『白の桔梗』ね。初めての人も居るみたいだから挨拶するわね。私はレティアーナ。見ての通りのエルフよ。この王立図書館の管理を任されている司書をしているわ。設備についてはここを利用していたセラやクーリアに聞いてちょうだい。それでも分からないこととかあったら私に聞きに来てね」



 普段はそんなサービスはしないけれど、エルアーナ様が懇意にしている人達だからね。



 でも、ここの設備を利用したことのあるクーリアとセラがほとんどを説明していったので、私から特に言うことはなかった。楽なのは良い事ね。



 クーリアは少女に対して一通りのことを説明すると、そそくさと館内の奥へと消えていった。あの子の本好きは変わらないわねぇ。といっても、読むのは魔術関係ばかりだけれど。



「私はここで少しレティと話をしているわ。皆は行って来なさい」


「あら、エルアーナとお茶会なんて光栄ですね。奥へどうぞ。私のお気に入りで良ければ紅茶とお茶菓子が常備してありますから」


「悪いわね。それじゃ、失礼するわ」



 エルアーナ様は私と話をしたいようね。あちらはセラも居るし問題ないでしょう。何かあれば人形に言ってくると思うし。



 司書室にエルアーナ様を招き入れ、人形も使って手早く紅茶とそれに合うお菓子を用意する。エルアーナ様相手だからどちらも私のとっておきを用意した。平気そうにしているけど、エルアーナ様と二人きりでお茶会をするのはとても緊張するのよ。手が震えないか心配だわ。



「では、頂きましょう。精霊に感謝を」


「ええ。精霊に感謝を。ふふ、この挨拶も懐かしいわね」


「エルフ同士でしか使いませんからね」



 しかし、金色の髪で蒼い瞳のエルアーナ様にはまだ慣れないわ。以前に図書館で出会った時と合わせてまだ二度目なので、仕方ないと思うけど。前回会った時は軽く挨拶した程度だったのが、まさかこうしてお茶会をするなんてね。エルフの里に居た頃は他のエルフと一緒に囲んでお茶会をしたことはあったけど、二人きりは初めてだ。あー緊張するー!



 暫し無言のままお茶とお菓子を楽しみ(この沈黙の時間が胃に穴が空きそうなくらい緊張した)、音を立てずにソーサーにカップを置いたエルアーナ様は、その美貌で微笑んだ。



「凄く美味しいわね」


「私のとっておきです。エルアーナに気に入って貰えて良かったですわ」



 あーー!!呼び捨てが慣れないわ!!あのエルアーナ様を親しく呼べる喜びと本当に私がエルアーナ様を敬称で呼ばなくていいのかという不安で潰されそう!!



 私のそんな心情など気付くわけもなく(気付かれたらそれはそれで不敬になりそうで怖いのよ。全力で隠しているわ)、エルアーナ様は微笑を湛えたまま私を見据えた。



 たとえハイエルフで無くなったとしても、エルアーナ様の容姿は容姿端麗が多いとされるエルフの中でも別格の美しさだ。同姓の私も(いろんな意味で)ドキドキしつつ、表情には出さずにエルアーナ様に微笑み返した。



「ところで、レティはあの子のことに気付いたかしら?」


「あの子と言うのは、あのとても可愛らしい少女のことですか?」


「ええ」


「気付きましたよ。あの子、魔人ですね?」


「そうよ」



 あっさりとお認めになったけれど、私としては疑問に思わざる得ない。エルアーナ様が精霊王との契約を破棄して、普通のエルフになったのは、魔人であるアリアドネの討伐時に、当事一番親交のあった聖天使が犠牲になったからだ。彼女を犠牲にせざる得なかった後悔から、エルアーナ様はハイエルフの無限の寿命を消して普通のエルフとして生涯を終えようと考えたのだ。エルフの中で納得した人はほとんど居ないけれどね。



 そんな経緯があるからこそ、近くに魔人を生かして置いておく今の状態に違和感を覚える。でも、なんとなくその理由も察しがついていた。



 彼女を見たときの空虚な瞳。人形のように感情のない顔。何か諦めたようで、どこか期待をしているような雰囲気を漂わす彼女は、その美貌も合わさってどうにも目が離せない存在のように感じた。そのいろいろな意味での危うさから、エルアーナ様は近くで見守っているのかもしれない。他にも理由はあるかもしれないけれど。



「それで、レティはあの子のことをどう思うのかしら?意見を聞かせてくれる?」


「そうですね・・・」



 とりあえず、その愛称呼びが落ち着かないのでやめて頂きたいですね。とは言えないわよね。光栄なことだし、嬉しい気持ちもあるのだけど、それ以上に畏れ多いわ。



 全く別の方に思考が逸れながらも、エルアーナ様の質問に答える。



「私としては、エルアーナ様やあのセラ近くで見ている分には特に気にしませんね。()()()()よりも人に馴染んでいるようですし」


「そうね。あの子は人らしいわよね。少し、人に溶け込みすぎているところもあるような気がするの。まるで、ずっと人として暮らしてきたみたいな」


「ふむ。確かに。相当長く生きた魔人・・・ってそんなのがあんな人形のような薄い感情しか持っていないわけありませんか」


「まあ、レティが少なからず理解を示してくれてよかったわ」


「いえいえ」



――私は理解したというよりも、エルアーナ様を信用しているだけだけど。



 なんだかあの少女に入り込んでいるようで危うい感じもするけど、セラも居るなら大丈夫でしょう。あの熾天使は、天真爛漫っぽく見えて、冷静に物事を見る目があるからね。というか、昔はもっと表情が薄くて淡泊な子だったし。ああ、そうか。昔のセラにちょっと似ているのね。あの少女。だから余計にエルアーナ様に機微に触れたのかもしれないわ。



 まだセラが冒険者になりたての頃、感情を押し込めて日々を過ごしていた彼女を見てほっとけなくなって面倒を見ることになり、そのまま『白の桔梗』というパーティーに入った・・・というのが、エルフ達の間で交わされている情報。エルアーナ様の性格を考えても、経緯に関してはほぼ間違いはないと思っているわ。



「そうそう。私にまとわりついているエルフ達なのだけど・・・。レティの言葉でなんとかならないかしら?」


「王族エルフなんて名前だけですよ。エルアーナが直接声を掛けた方が良いかと」


「何度も言っているのだけどね・・・。貴女も私に女王として戻って欲しいと思っているのかしら?」


「いえ、私はもう里を出た身ですから。エルアーナ様のお好きに過ごせばよろしいかと」


「他のエルフ達もそれくらい物分かりが良ければ苦労しないのよね」



 はぁ。と大きく溜息を吐くエルアーナ様。私も里のエルフだったならば、戻ってきて欲しいと思っていたとは言えないわね。



 それからは、ストーカーのように付きまとうエルフ達への愚痴とセラやあの魔人の少女の可愛らしさについて熱弁したりなど、おおよそ和やかにお茶会が進み、セラが私の人形に話掛けてくるまで続いた。



「今日は楽しかったわ。ありがとう。しばらくは図書館に通うと思うから、よろしくね」


「ええ。いつでもお待ちしております」



 いくらずっと相槌をうつだけとはいえ、こんな緊張するお茶会は正直もうやりたくはないけれど、エルアーナ様とお話しする機会などそうそうないから、少し楽しみな気持ちも少しだけある。なんとも複雑ね。



 こうして、クーリアが読書の邪魔をする奴絶対殺すニャン状態で徘徊しているのを解放したりなど、ちょっとした騒動があったりはしたけれど、概ね問題無くエルアーナ様達が帰っていき、いつもの時間に閉館作業をした。



 一日の最後に日課となっている日誌をつける。ふむ。まぁ、今日書くことは決まっているわね。私とエルアーナ様のお茶会について。セラ達のことは・・・おまけ程度に書いておきますか。



 日誌をつけ終えた私は部屋の電気を消して寝床に入った。



 明日も開館のために早起きしないとね。




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