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サイドストーリー 黒猫少女と狂気の魔術師の決戦

92話のクーリアとトワが別れた後のクーリア視点となります。

92話~の最終決戦の時は世界中のあちこちでいろんなキャラが頑張っているのですが、とりあえず、クーリアとゼストの決戦だけは外せないので真っ先に書きました。












「・・・クーリアさんは一番無茶しそうで怖いのですよ。クーリアさんに何かあったら、またわたし暴走しますからね?」


「うわぁ~嫌な脅しですね」



 私は茶化すように誤魔化します。トワちゃんは本当に心配そうな顔でもう一度私を見上げた後、仕方が無さそうに私を置いて走っていきました。私に気を遣って速度を緩めていたのでしょう。全速力で走る彼女は一気にその姿が見えなくなりました。



――嘘を吐いてしまいました。



 トワちゃんは決して頭は悪くはないですが、少し身内に甘すぎます。私の僅かな魔力の揺らぎに気付くこともありませんでした。



 信頼している相手の言う事は大体信じてしまうくらい純粋だからこそ、周りに集まってくる人達もまた彼女を慕うのかもしれません。私もその一人ですが。



「はぁ・・・」



 そんな彼女に、私は嘘を吐きました。無理をしないということ。もちろん、可能であれば無理などしたくないですし、トワちゃんの命令は守りたいのですが、私は自分の命を賭してでもアイツだけはなんとしても殺す気でいます。私の命など惜しくもなんともないと思っています。



 私はとても愚かな生き方をしてきました。虐げられてばかりいたと思っていた実家では、私の事を案じてくれていた人が沢山居ました。今思い出せば、何故気付かなかったのだろうと思うくらい、影から支えてくれていたのです。



 学園でも、魔法部門で飛び級の最優秀をとる私のことを、獣人のくせにと陰口ばかり言う人ばかりに意識が傾いて、ずっと周囲を拒絶して暮らしていました。そんな孤独な私に手を差し伸べてくれた学友ももちろん居ましたが、当時の私はそれらを振り払ってきたのです。



 冒険者になり、ここでも周囲から、幼さと獣人なのに魔術師ということで嫌な注目を集めました。そんな中、私が他の冒険者に絡まれているところをリンナさんに助けてもらい、初めて誰かと一緒に依頼を受けて、セラさんとエルさんと出逢い、そして、あの桔梗の花が咲き乱れる場所で『白の桔梗』というパーティーを組みました。




 『白の桔梗』という居場所を手に入れて、数年の活動を経てトワちゃんとも出逢いました。最初はただの可愛らしい女の子ぐらいに思っていたのに、危険だったところを何度も助けられて、私なんかよりもよほどみんなの役に立っていました。



 私は守られてばかりだと思い込み、どこか焦っていました。トワちゃんの存在が、魔法しか取り柄のない私の居場所を奪っていくような、そんな嫉妬にかられたこともありました。トワちゃんが居なくなって、心のどこかで安心した自分が居たのです。



 そんな私の心見透かしたかのように、アイツは私に近付いてきました。



 私はただ守られるのではなくて守りたかった。そのために安直に力を欲してしまった結果、アイツに操られてリンナさんを傷付け、そして、リンナさんが死ぬことになる原因を作ったのです。



 わたしはリンナさんの遺品であり、もともとはトワちゃんからの贈り物であるペンダントを握りしめます。



――必ず仇を討ちます。リンナさんの仇。アイツと、そして・・・



 空間魔法の結界が張られた、もはや廃墟と化した帝都の中に足を踏み入れました。あちこちに魔物の反応がありますが、予想していたよりも少ないですね。でも、結界があるということはアイツが居るはずです。アイツが居るということは、ここはある程度重要な役目を担っている場所なはずです。



 ダンジョンを攻略する時のように、慎重に〈魔力感知〉で周囲の魔力の状態を感知します。これらの魔力を解析していくことで、生き物なのかどうか、魔物なのか人なのか、魔物だとしたらどの程度の強さなのか、魔力の状態からこちらを感知しているのかいないのか、興奮状態なのか身を潜めているのかなどなど、沢山のことが分かります。それと、慣れればダンジョンのトラップや魔術具を使ったトラップを見付けることも出来ます。私がこの方法で索敵しているから、〈索敵〉スキルを覚えられないのかもしれません。



 この世界のほぼ全てのものには魔力があるので、魔力の感知と解析をしっかりと行うことができれば、下手な索敵系スキルよりも周囲の状況を把握出来ます。でも、トワちゃんみたいに超広範囲に索敵したり、そこから瞬時に細かい対象を割り出すというのは不可能ですが。あれはトワちゃんがおかしいだけです。



 そもそも、この方法は途轍もない集中力と時間も掛かりますから、索敵系スキルがあるならば素直にそっちを使った方が楽です。私は索敵スキルを持っていないのでこの方法でしか索敵出来ませんが。



 索敵のことはもういいでしょう。私は〈魔力感知〉で気になる魔力の反応を見付けたのでそちらに向かいました。念のため、拳銃型の魔道銃は常に手に持っておきます。



「・・・これは・・・」



 破壊されてあちこちボロボロな帝都の街を大きな道沿いに歩いていると、かなり複雑な魔法陣が描かれている広場を見付けました。ここが妙な魔力の元となっているようですね。魔物も配置されているようだったので、闇魔法で建物の陰に隠れてながら広場を観察します。



 全てを解析するには少し時間が掛かりますが、ざっと見た感じでおおよその用途はわかりました。どうやら、世界中のどこかの空間に干渉する魔法陣・・・の一部のようですね。簡単にいうと、私達の領域に魔物を送り込んだゲートの性能を上げるための魔法陣です。



「これ一つを壊しても徒労に終わるかもしれませんが、やらないよりかはマシですか」



 魔法陣を守っているのは冒険者ギルドでAランクに指定されている『巨兵』と呼ばれている人型の魔物ですね。単体ではAランクですが、最低でも二体~四体ほどの小隊、多いときは百体規模の軍団で襲い掛かって来るという危険な魔物です。



 人型の魔物を複数体相手する時に注意することは、相手が連携して攻撃してくることです。魔物だからといって侮ると、思わぬ連携攻撃を受けて全滅することもあります。ゴブリンで例えると、単体ではEランクの魔物ですが、群れになると最低でもCランク。最大でAランクにまで危険が跳ね上がります。それぐらい、人型の魔物と複数同時に対峙するのは危険を伴います。



――私も魔人になったとはいえ、手を抜いたら痛い目を見るかもしれませんね。ここは確実に倒しましょう。



 私は持っていた拳銃型魔道銃につけていたマガジンを取り替えます。これで使える魔法が切り替わりました。普段の汎用型とは違う、複合魔法特化型です。



 風魔法のエアショットに、氷雪魔法のフリーズコフィンという対象を瞬時に凍結させる魔法と、土石魔法のアースクエイクという対象を振動させる魔法を付与させたものをそれぞれ二丁の拳銃で別の巨兵を狙って放ちました。



 見事に魔法陣の守りをしていた巨兵に当たった空気の弾丸は、瞬時に相手の体を凍らせて、小刻みに振動し、バラバラに砕け散ります。この魔法の数ある弱点の一つは、魔物の素材がほとんど残らないことですね。殺傷能力に特化させすぎましたか。もっとも、巨兵の素材は興味が無いので無くなっても気になりませんが。



 二体の巨兵がいきなりバラバラになったことで、驚いて固まった残り二体の巨兵にも同じ魔法を撃ちこみました。これで魔法陣の守りは無くなりましたね。



 魔法陣のもとまで歩き、それに向けて拳銃の引き金を引きました。見た目は何も起こっていませんが、中を通っているラインを全て空間魔法で断ち切ったので、これでこの魔法陣はもう使えません。



 それと、この魔法陣が補助していた大元の魔法陣の場所と繋がっているであろうラインを見付けました。別にこのようなラインが無くてもおおよその検討はついていましたが。



 帝都中央にある城があった場所が、きれいさっぱりに無くなっています。あれだけ目立つのが無くなっていれば、あそこに何かあるのだろうということぐらいはすぐにわかりました。この魔法陣のラインもそこに向かって伸びているので、間違いないでしょう。



――他の魔法陣を壊して回るよりも本命を先に潰した方が早いですね。



 帝都中央、元々は大きなお城があったその場所はその影もなく、広大な敷地をまるごと更地にされていました。かなりの量の魔物の気配を感じた私は地上から歩いて近付くのではなく、風魔法で空を飛んで向かいます。



――魔物が中央に集まっているようですね。アイツの指示でしょうか?



 人工魔人には序列があって、かなり高い順位のやつは、他の人工魔人や何体もの魔物を操ることが出来ます。アイツは序列の中でも最高位に位置するので、ほぼ全ての魔物と人工魔人の行動に干渉することが出来るでしょう。



――私自身も操られていましたし。今思い出しても忌々しいことです。



 数えきれないほどの魔物がお城のあった敷地に押しかけ、その中央にある門のようなところに入っていくのが見えました。あれがゲートですか。起動しているように見えますね。



 こんな時で無ければ、じっくりと観察して魔法陣を解析したいのですが、あれが動いているということはひょっとしたらまた月の領域が襲われているかもしれません。さっさと破壊してしまいましょう。



 私が銃口をゲートに向けて引き金を引こうとした瞬間。真上から魔法の気配を感じて即座にその場から離れました。目に見えぬ不可視の魔力弾が私の傍を通り過ぎて地面に着弾します。その時地上に居た魔物が何体か吹き飛ばされていきました。私は魔法を使った相手を見る為に空を見上げます。



「ゼスト・・・」


「よう。駄猫。あーもう猫じゃなかったか。見た目は猫のままだから駄猫でも構わないか。くははは!」



 くすんだ金色の髪にグレーの瞳。聖人として300年余りを生きている元Sランク冒険者の魔術師。『戦闘狂』『狂気の魔術師』などの異名を持つ、私以上に魔法に詳しい魔術学の権威者。



 そして、私が何を引き換えにしてでも殺したい相手。それが、今まさに私の上を飛んで、私のことを見下ろしていました。



「あれを動かしているのは貴方ですか?」


「俺は起動させただけだ。後は供給源の魔力が無くなるか、あのゲートを直接破壊しない限りは繋ぎっぱなしだぜ」



 ほとんど自立させることが出来る転移門ですか。世界にこの技術を発表すればとても注目されるでしょう。もっとも、平和的なことよりも軍事的な運用としての方が使えそうなので、対抗出来る手段を見付けるまでは実際の運用は禁止されそうですが。



「それで?駄猫一人のようだが。わざわざ殺されにきたのか?」


「私はリンナさんの仇を取りに来たのです」


「はん!領域で俺相手になんにも出来なかったお前じゃ、俺を楽しませることも出来ねーよ」



 非常に悔しいですが、こいつの言う通り、月の領域の強襲の際に私は一度ゼストと交戦していますが、魔法の技術、魔力量、身体能力、何をもっても勝てる所がなく、手も足も出せませんでした。



 でも、今回は違います。あの時は周りの影響も考えて出来なかった奥の手が使えますから。



「貴方とお喋りすることはもうありません。リンナさんの仇。ここで取らせていただきます」


「あれは俺が直接殺したわけではないんだがな。まぁ、街に居る連中を殺せと魔物に命じたのは俺だから完全に的外れでもないが」



 結局、帝国全域で起きたあの事件で生き延びた人は帝国全土の一割ほどだったと推測されています。残りの九割は、魔物によって殺されたか、人工魔人達によって殺されて化け物にされたかのどちらかでしょう。何百万もの人の命が犠牲になりました。



 なぜあんなことをする必要があったのか。それほどの犠牲を出してまでゼストは何をしたいのか。疑問は沢山ありますが、先ほども言った通り、もうそれらを知る必要はないです。



 だって私が、ここでゼストを殺すのですから。



 魔道銃のマガジンを素早く汎用型に入れ替えます。複合魔法特化型は対魔物用としては強力ですが、対人では対抗魔法で消されやすいものが多いのです。そして、二丁の拳銃を上空に浮かぶゼストに向けて引き金を何度も引きました。



 私の最も得意な魔法。爆裂魔法のフレアバーストがゼストを中心にいくつも爆発します。連鎖する爆発で上空が何度も光を瞬きますが、それらを切り裂くように風の刃が私に向かっていくつも飛んできました。



 私は高速で空中を飛び回りながら風の刃を避けます。目視できる風の刃に混じって不可視の魔弾もあるようなので、当たらないように常に〈魔力感知〉を張り巡らせて事前に察知して回避しました。



 空中を飛び回りながら静止しているゼストに再びフレアバーストを叩き込みますが、ゼストの対魔結界を破れませんでした。私が使う魔法の中では発動が早くて威力も高い魔法ですが、この魔法ではあの結界を壊すのは難しそうです。



 第二案として、トワちゃんのアイデアから改良を重ねた、試作のライフル型魔道銃を四丁出しました。トワちゃんが私の浮かんでいるライフルを見てポツリと「・・・それってファ〇ネルみたいに飛ばせないのですか?」と呟いたのが始まりです。私にはそのふぁんねる?とやらは理解不能でしたが、なんでも、自立して空中を自在に飛び回りながら相手を攻撃する兵器だそうです。私は風魔法で浮かすことと飛ばすことは出来ますが、自由自在に物を動かすのは少し骨が折れます。しかも、動かしながら魔道銃で魔法が使うのなんて凄まじい集中力と精神力を使います。トワちゃんは異世界の何かで見たイメージがあるからか、とても簡単にやっていましたけど。私には四丁を動かしながら戦うのが限界でした。



 〈並列思考〉を使ってライフルを操り、ゼストを囲むように配置します。ゼストか興味深そうに私のライフルを見ていました。余裕ぶっている今がチャンスです。



 時魔法クイックで魔法陣を一気に展開して四つのライフルからそれぞれ、業火魔法インフェルノブラスター、氷雪魔法クリスタルブラスター、土石魔法アースブラスター、嵐魔法、トルネドブラスターを放ちました。それぞれの属性魔法の高難度に位置する、ブラスター系魔法と呼ばれる属性放射攻撃です。



 さらにそれらに加えて拳銃型魔道銃から四属性複合爆裂魔法エレメンタルバーストを発動させました。ちなみに、この魔法は爆裂魔法が得意な私のオリジナル魔法です。



 一切の手加減なく撃ちこんだ四属性魔法は一斉にゼストにぶつかり、爆ぜました。その衝撃が空中から地上にまで伝わり、下で蠢いていた魔物達の多くを巻き込んで吹き飛ばしていきます。私自身も衝撃で体が押されましたが、風魔法で正面に空気の壁を作ることで衝撃を受け流して吹き飛ばされずに済みました。



――これで終わってくれればいいのですが・・・。



 油断なく〈魔力感知〉で周囲を探りますが、先ほどの魔法の影響で周囲に魔力が多く散乱してしまって、感知が鈍くなっています。ゼストの方に飛ばしていたライフルを手元にまで引き戻して警戒するように四方に銃口を向けます。



 警戒は怠っていませんでしたが、それでも、私の〈魔力感知〉を掻い潜って何かの攻撃が私に直撃しました。



「あう!!」



 大きく吹き飛ばされて魔物達の蠢く地上に叩きつけられました。全身を駆け巡る痛みをこらえてその場からすぐに立ち上がります。私の周りにはちょうど魔物が居ません。ゼストが操っているはずなので偶然ではなく意図的なものでしょう。



「予想外に中々面白かったが。やっぱり俺と戦うにはちょっと物足りねえな」



 声のした上空を睨みます。そこには、傷一つないゼストが魔法で作った火の玉を弄びながら私を見下ろしていました。



――あれだけの魔法を撃ちこんでも、倒せないのですか・・・



 私の考えていた以上に、ゼストは強くなっていたようです。トワちゃんが恐らくグレンさんの心臓を取り込んで強くなっているだろうとは言っていましたが、それ以外にも何かやっていそうですね。



「お前さんの魔術師としての腕は間違いなく俺の次ぐらいにはあるよ。さすがは獣人のくせに魔術学校で最速卒業しただけあるな」



 私は奥歯を噛み締めました。獣人のくせに。その一言はこれまで何回も言われた言葉です。



「もう少し成熟していれば、俺を楽しませてくれるくらいまで成長も期待出来るんだがな。あー残念だ。残念だが、それを待つ前に殺さなきゃいけねぇ。まだゲートを壊されるのは困るんでね」


「くっ!」



 無駄だと分かりながらも、私はゼストに銃口を向けてフレアバーストを連発しました。何度爆破してもかすり傷一つ負わせることが出来ません。



「駄猫。本当の魔法ってやつを見せてやんよ」



 ゼストがつまらなそうな顔で私を見下しながらそう言い、指をぱちんと鳴らしました。すると、ゼストよりもっと上空に巨大な魔法陣が浮かび、そこからいくつもの大きな石の塊が降って来ます。



「あ・・・」


「俺が考えた広域殲滅魔法。メテオだ。これぐらいで死ぬなよ?駄猫」


「っ!?」



 私目掛けて落ちてくる大きな岩を風魔法で飛びあがりながら慌てて回避します。私の体の何倍もある大きさの岩は地面に落ちると激しい轟音を立てて爆発しました。



 街のあちこちに落ちては爆発する巨大な岩の雨を逃げ回りますが、最後に落ちてきた一際大きい岩が私の目の前まで迫ってきました。回避が間に合わないと思った私は咄嗟にフレアバーストを乱発して岩の破壊を試みます。



 結果として岩を破壊することに成功しましたが、小さな欠片(それでも私の頭以上の大きさ)となって隙間なく降り注いできた礫を避けることも防ぐことも出来ずに直撃してしまい、そのまま地面におちて瓦礫の中に埋まります。



「ゲホッゲホッ・・・。獣人のままだったら今ので死んでいましたね」



 全身を打ち付けた痛みに耐えながらなんとか瓦礫を押しのけて脱出して地上に出ると、いきなり強い衝撃を受けて吹き飛ばされました。ゼストに蹴り飛ばされたのだと気付いたのは、ボロボロになった家の壁に激突した時でした。



「うっ、っ・・・」


「最初の威勢はどこにやら。まあ、こうなるのは最初から 分かっていたことだけどな」



 すぐ近くからゼストの声が聞こえました。気付けば拳銃もどこかで手を離してしまったようで、私は完全に無防備な状態になっています。少しでも魔力を残す為に、治療に動き回る魔力を押しとどめます。



「お。まだ魔力を残す余裕があるのか。なら、もう少し痛めつけておくか」



 そんな私に気付いたゼストが執拗に蹴ってきます。こいつ、魔術師なのだから魔法を使えばいいものを・・・。



「あぐっ、が、げほ」



 何度も何度も蹴られて踏まれて、痛みも苦しみも必死に我慢します。そして、飽きたのかなんなのか知りませんが、ゼストが私の頭を片手で持って体を持ち上げました。もう全身に力がうまく入れらない私は、だらんとぶら下がります。



「ああ。もうつまんねぇな。雑魚をいじめてもなんも面白くねぇ。もう殺っちまうか。お前も今は神獣の眷族なんだろ?あのじじいよりも質の良い魔石をくれそうだな」



 ゼストがそう言いながら空いている手で手刀を作ります。ようやくですか。



 そして、ゼストは躊躇いなく私の胸に手刀を突き立てて貫きました。



「っ!あああああ!!」


「核をとってもその魔力ならばもう一回くらい再生できるか?まぁ、しなかったらすぐ死ぬだけで魔石を回収して終わりなんだが。ちっ、人間と違って心臓をとればいいって訳じゃ無いからめんどくせえな」



 覚悟をしていてもその痛みに思わず声が出てしまいます。でも、これが最後のチャンスです。確実にゼストを逃がさないようにするチャンス。私の最後の賭け。



「ふ、ふふふ・・・」


「ああん?なんだてめぇ・・・。何をしやがる?」



 私はなんとか腕を上げて、震える右手で私を貫いているゼストの腕を掴みました。更にわたしの手とゼストの腕を空間魔法で固定します。これで少しでも逃走時間を稼ぎます。



「ふふ。ようやく、捕まえました。これで、リンナさんの仇が討てます」


「とち狂いやがったか」



 鬱陶そうに顔をしかめたゼストは私にトドメを刺そうと頭から手を離しました。頭を解放されても、ゼストの腕が胸に突き刺さっている状態の私は空中に浮いている状態で、空いている片手の手のひらに残っている魔力全てを使って魔力の塊を作り、それを突き出すようにしてゼストに見せます。



 それを見たゼストは驚いたように目を見開いたあと、うんざりしたように顔をしかめます。



「アビスコア?おいおい。自爆かよ。お前の魔力で自爆しても俺は殺せねーぞ?」


「ただの自爆ではありませんよ」



 私は〈虚無魔法〉を発動させてアビスコア・・・魔力を凝縮させるだけさせて、一気に爆発させる自爆魔法・・・の属性を虚無属性へと変えていきます。そこで初めてゼストの顔色が変わりました。



「な、なんだその魔法は!」


「〈虚無魔法〉。私の固有スキルですよ。これだけの『無』に呑まれれば、貴方でも生き残ることは出来ないでしょう」


「ちぃ!くそ、放しやがれ!駄猫!!」



 ここに来てようやく危険を感じ取ったゼストが焦ったように私の体から腕を引き抜こうとしますが、空間魔法で固定したゼストの腕と私の手はそうそう簡単には取れません。同じ空間魔法で固定を解除するか、腕を切り落とすしかないでしょう。切り落とすという判断が咄嗟に出来なかったゼストの負けです。



「さぁ、貴方と、そして私。リンナさんの仇、取らせていただきます」


「おま、最初からこのつもりで!?」


「愚かな魔術師同士、虚無の彼方に消えましょう!!」



 私がアビスコアを握りつぶした瞬間、ゼストが空間魔法の固定を解いたようですが、既に遅いです。一瞬にして世界が白でも黒でもない色に塗りつぶされました。



――これで、私も、リンナさんを死に追いやった私も、消えることが出来ます。



 ・・・・・・・・・・・・



「えっ?」



 気が付くと大きな穴の中心に座り込んでいました。呆然としながら周囲を見渡すと、虚無魔法の大爆発の影響で街の一部が綺麗に消えていました。



「なんで?私、生きています?」



 魔力がほとんどない状態なので、魔人としては瀕死ですが、生きています。でもなぜ?



 理由が分からずぼんやりとしていると、首にかけていた黒い宝石の付いたネックレスがピシリと音を立てて壊れました。リンナさんの遺品だったそれが壊れてしまったのを見て、慌てて欠片を拾い集めます。



欠片を全て拾った辺りでふと、前にリンナさんとこのネックレスのことについて話をしたことを思い出しました。



 * * * * * *



「トワから貰ったこれだけど、クーリアはどんな効果のやつだったんだ?」


「あーよくわからない効果ですね。〈直感〉スキルの効力があるようです。一度も効果を発揮したことがないので、どこか魔法陣が間違っているのかもしれませんね」


「そうなのか」


「リンナさんのはなんなのです?」


「私のは一度だけあらゆる攻撃を防ぐ効果だそうだ。前衛として戦うから心配していたんだろうな」



 * * * * * *



 一度だけあらゆる攻撃を防ぐ効果。まさか、こんな時に発動するなんて。



「うっ・・・ぐす・・・私は・・・」



 私は、生きていてもいいのでしょうか?こんなにも愚かで、間違いだらけな生き方をしてきた私が・・・



「うっ、うああああああ・・・」



 とめどなく流れてくる涙に帝国の冷たい風が当たります。私の魔法で大きく空いた窪みの中心で、私は子供のようにずっと泣いていました。




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