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サイドストーリー 熾天使と黒騎士

本編68話後の、トワがセラを聖国へ送り届けた後の話になります。

聖国の聖女になって冒険者との変化に戸惑うセラと、本編ではあまり絡みのない黒騎士のカルタとのやり取りです。

あまり出てこないキャラにもいろいろな過去があります。詳しい過去を書く機会があるかわかりませんが、ほんの少しだけでも伝わってくれれば幸いです。











「・・・はい。ではセラさんを返却します。では、エルさん、エルフの里に行きますね」


「ええ。お願いするわ。セラ、また近いうちに」


「うん。また。トワちゃんもね」


「・・・はい。またです」



 いきなりトワちゃんに拉致された時は驚いたけれど、それ以上にいろいろと驚く話ばかりをされてしまったせいで頭の中が熱っぽい感じになっている。



 それでも、私はトワちゃんと再び話すことが出来て嬉しかった。神獣達の視線はちょっと痛かったけど。



 エルも同じ気持ちなんじゃないかな。クーちゃんは・・・まだちょっと思い詰めている感じがするから心配だけど、トワちゃんが近くに居れば大丈夫だと思う。あの子は身内に優しすぎるくらい優しいからね。



「今ちらっと見えたのは、ひょっとしてエルアーナ様ですかー?」


「うん、そうだけど・・・。カルタさんはエルのこと知っているの?」



 カルタさんは『アリアドネの災厄』を経験している500年以上前から生きている聖人らしい。この聖国では生きた英雄と呼ばれていて、王国でいうとグレンさんような人だ。グレンさんと違って覇気は全く感じないけれど、私が全力で剣術を叩き込んでも、涼しい顔で受け流すくらいに剣が強い人だ。ひょっとしたら私よりも剣術スキルが高いのかも。一応、私は〈剣神〉スキルに固有スキルの〈剣聖〉もあるんだけどな。



 私の基礎となっている剣術はグレンさんから教わったものだ。それから、冒険者として独学で剣を磨いて、魔物戦、魔人戦、対人戦と状況に応じて戦い方を変えられるくらいには剣術は極めていたつもりだったんだけど・・・。カルタさんにあっさりと捌かれていると自信を無くすんだよね。



「あー、エルアーナ様とはー・・・『アリアドネの災厄』の時にお見かけした程度ですねー。とてもお綺麗な方なので印象に残っているだけですよー」



 あまり話したがらなそうにしている様子を見るに、カルタさんも『アリアドネの災厄』で何かあった人なのかもしれない。あの戦いは本当にいろんな人がいろいろ失った悲しい事件だったと聞いている。私はカルタさんの様子を見てさっさと話題を変えることにした。



「そうだ、カルタさん。トワちゃんから少し頼まれごとをされたんだけど・・・。私の個人行動って出来る

?」


「私のことはカルタと呼び捨てで呼んで下さいねー?・・・うーん。もうしばらくは難しいのではないでしょうかー?熾天使様にやって頂きたい案件が沢山来ていますしー」


「カルタさ・・・、カルタの方が圧倒的に年上なのだし、私の事もセラで良いよ」


「いえいえー。では、セラ様でー」



 何がいえいえーだったんだろう?カルタさんの思考はいまいちわからない。



 しかし、私にやってほしい案件ね。リーチェさんがやっている魔物の変異種の討伐の手伝いか、ソフィアさんだけでは手が回り切らない細々とした執務だろう。どちらも出来る私は、熾天使の最高位聖女の即戦力として働かされている。ちなみに、上位天使である智天使のソフィアさんと熾天使である私と比べたら、天使としての格が私の方が上だから実質この国のトップは私になるらしい。トップとはいっても象徴的な意味合いだから、実質国の運営をしているのは相変わらずソフィアさんだ。分かりやすく例えるならば、私が王様でソフィアさんが宰相って感じかな。王様ほどの権力はないけどね。



「執務も討伐も、元々私が居なくてもなんとかなっていたんだから、少しくらい空けても問題ないと思うんだけど」


「いやーソフィア様的にはもっとやってほしい執務が山ほどあるそうですよー。今度教えるのですって言っていましたしー」


「あー、まぁ、ソフィアさん的にはリーチェさんが執務関連が全然出来ないみたいだから、少しでも負担を減らしたいんだろうなぁ」



 私も聖国の聖女となったからには手伝ってあげたいと思うけれど・・・。うーん、やっぱり冒険者より自由が利かなくなるのは仕方ないかぁ。



「一応打診だけはしておこう。トワちゃんからの頼みだと押し切れば時間を作ってくれると思うし」



 遠距離でやり取りするための手段もまだ無いからね。トワちゃんが何か閃いた感じだったから、何か突飛なものを作りそうで怖いけれど、遠くに離れていてもクーちゃんやエル、トワちゃんと話が出来るようになるのなら楽しみだ。



「『月の女神』様のご要望ですからねー。神を祀る聖女としては聞き入れないわけにはいかないでしょうー。ただ・・・」


「ただ?」



 カルタさんが三つ編みにしている長い髪を揺らして首を傾げて、夕焼けのような赤い色の瞳で私を見詰めた。騎士の服さえ着ていなければ普通の少女にしか見えないだろうな。



「最高位の聖女となってしまったセラ様がお一人で外出するのは難しいかと思いますー。必要はなくても護衛を付けないといけませんからねー」


「必要無いのだけどね」


「セラ様は文句なしに聖国最強ですからねー。むしろ、護衛が邪魔ではないかと思いますけどー。体面がありますからー」


「聖国最強、ね。カルタの方が強いんじゃない?」


「またまたーご冗談をー」



 私の剣を涼しい顔で受け流せるくせに弱い訳無いじゃない!



 私が何でもありで本気で戦えばさすがに負けないと思うけれど、カルタさんは底が知れないからやってみないと分からない。いや、やらないけれどね?本気で戦うということはつまり殺し合うということだし。



「その女神様からのご依頼というのは、どうしてもセラ様が行かなければならないのですかー?我々十二天騎士ならば動けますが」


「うーん・・・」



 カルタさんならば、まだ短い付き合いであるけれど信用に値すると思っているし、悪魔や天使の話をして協力を仰いでもいいのだけど。実力も十分にあるし。でも、神獣達が表向きに伏せるように言っているし、何よりもトワちゃんからのお願いだ。出来れば、私が力になってあげたい。



「トワちゃんからは事情は伏せるように言われているから、協力はちょっと難しいかも」


「そうですかー。でも、先ほども言いましたが、お一人での外出は難しいですよ?」


「こっそり抜け出すとか?」


「とても大騒ぎになりますねー。ソフィア様からの長い説教を聞きたくないのであるならば避けた方が良いかとー」


「うがー!めんどいなー!」



 思わず両手を上げて声を上げてしまう。ここまで自由が利かなくなるとは思わなかった。あくまで象徴だから、最低限の行事に参列して、たまに執務や他の仕事をするくらいだと思っていたのに。



「あうー。とりあえず、ソフィアさんに予定を確認してくるよ。執務室に居ないということは、見回りかな?」


「そうですねー。ご案内しますよー」



 これだけ話し込んでいて帰って来ないのならば、どこかで問題でも起きたのかな。もう少しいろいろな機関に分けることが出来れば、ソフィアさんの執務も楽になるんだけどね。提案だけしてみようかな。



 ソフィアさんの居る場所が分かるのか、迷いなく歩くカルタさんについていく。カルタさんの後ろ姿を見ているとふと良い考えが思い浮かんだ。



「ねぇカルタ?」


「なんでしょうー?」


「もし、私が遠出する時に、護衛でカルタだけ連れて行きたいって言ったら許可が出ると思う?」


「どうでしょうー?私は聖都の防衛を担当していますのでー。外に出る許可が出るのか分かりませんねー」



 ソフィアさんやリーチェさんの話を聞くに、カルタさんは私達聖女の護衛をやりたがらないそうだ。名目上は聖都の防衛ということでここに居座っているけれど、100年くらい、彼女は聖都の外に出ていないらしい。



 この機会に外に出してみようか。ソフィアさんにそれとなく言えば許可が下りるかも。



「カルタならば私の護衛も出来るだろうし、適任だと思ったんだけどな。もっとも、実際の調査には連れて行けないけれど」


「・・・」



 カルタさんがいきなりピタっと足を止めて振り向いた。私も驚いて足を止めると、カルタさんの夕焼けのような瞳と目が合った。



「私に護衛は出来ませんよー。・・・私は一番守りたかった大切な人を守ることが出来ませんでしたから」



 普段の伸び伸びとした体の力が抜けるような口調ではなく、後悔と懺悔が入り混じった冷たい声でカルタさんが護衛をすることを拒否した。



 マズイ。護衛という言葉はトラウマだったのか。



 まだ付き合いの浅いカルタさんに私が何か言えることはない。私が言葉を発せずに立ち尽くしていると、カルタさんがふっと笑って「申し訳ありませんー。ソフィア様はこっちですよー」といつもの雰囲気に戻って歩みを再開させた。私はやはり何も言わずに後についていく。



 『一番守りたかった大切な人を守れなかった』か。



 私が感じている後悔と似たようなものをカルタさんはずっと抱えているのかも知れない。



 だとしたら、このまま逃げたままではダメだと思う。今はまだ無理でも、いつかカルタさんがその重荷から解放されるようにしたい。私と似たような重荷を背負っているならば、せめて、一緒に背負って軽くするくらいは出来るはずだ。厚かましい考えだけど。



「あ、ここですねー」



 カルタさんが扉の前で立ち止まった。カルタさんのことも気になるけれど、とりあえず今は、なんとしてもトワちゃんのお願いを叶えることに全力を尽くそうか。



 カルタさんが扉をノックして部屋に入り、私もそれに続きながら、ソフィアさんに何て言って個人行動の許可を貰おうかと頭の中で必死に考えた。



 結果として、私の個人行動の許可はトワちゃんの名前を出したらあっさりともらえたけれど、その頼まれごとをやるまでの間に、本来はリーチェさんが担当している執務をやらされることになった。普段はソフィアさんが代務でやっているらしい。ソフィアさんマジ有能。あの人が居なかったら聖国はあっという間に潰れていたね。ていうかリーチェさんもそこそこ長生きなんだから最低限の執務くらい勉強して。ホントに。切実に。毎日書類の山を見るのはうんざりするよ、全くもう。



 案外私が聖国に入ることで一番喜んだのは、執務の全てを行っているソフィアさんかもしれない。私は仕事の分担について他の聖女も関わらせることが出来るような部署か役職を作ろうと心に誓った。




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