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サイドストーリー 聖獣うさぎと月の領域の生活

この話は63.5話のおまけサイドストーリーと同じ内容になります。

三章から四章の間での、月の領域の住民、聖獣うさぎのお話になります。

卯月の遊びの一番の犠牲者であり、恐らくは最も月の領域を影から支えている聖獣ですね。

本編ではあまり出てきませんが、お気に入りのキャラクターです。











 あたし達がトワ様の管理する月の領域に住み始めてから1ヶ月以上が経った。



 あたしはうさぎの聖獣であるアルジミラージのリーダーであるため、定期的に各聖獣達のリーダーが集まって話す場に同席することが多い。



 今日はアルジミラージのあたしと、ラタトスクのラスク、ケットシーのシーの三人が集まっていた。ちなみにあたし達の名前は全てトワ様が考えたものだ。



(ここ最近、変わったことは無い?)


(今は平和そのものだにゃ)


(少なくとも領域の中に不穏な気配は無さそうだね)



 あたしの問いに対して、ラスクが少し含みを持たせた発言をした。あたしが何かあるのかと視線を送ると、ラスクは尻尾を揺らしながら少し間を置いて話を続けた。



(ボク達が暮らしている聖樹の木から地脈を通じて外の魔力を探ってみたのだけど、北側から来る魔力が日に日に大きくなってきているみたいだね)



 こいつ、トワ様の領域で勝手に地脈を調べていたの?バレたら怒られないかな?



 まぁでも、今回は有益な情報だったから、後でトワ様に報告する時に擁護してあげよう。



(北側か・・・今は落ち着いているけど、何が起きても良いように備えておいた方が良いかも)


(そうだにゃ。ここに住む動物達にも注意を促しておくにゃ)


(その辺りはシーがやった方が早いし正確だから任せたよ)


(任せておけにゃ!ちゃんとトワ様に報告するにゃよ?)


(はいはい・・・)



 あたしはトワ様と同じうさぎ種ということで、最古参の聖獣であるペガサスのリーダー、ベガと共にトワ様の近くに居ることが多い。あたしの役目は他の聖獣達とトワ様との情報共有がほとんどだ。ベガはトワ様のお世話ばかりやって手伝ってくれないからね。



――ベガがあそこまで心酔している様子もとても珍しいというか、古くからの付き合いがあるあたしとしては、信じられない光景なんだよね。



 あたしはベガに次いで長く生きているけれど、あんな状態のベガを見るのは初めてだ。人って変わるものなんだなとしみじみと思う。



(ところで、ミラーからボク達に、トワ様に関する話はないのかい?)



 ラスクが少し期待をした様子であたしに聞いてきた。あたしはここ最近のことを思い出す。



(うーん、あたしはここ最近、卯月ちゃんに好かれてしまったみたいでずっと相手をさせられているからなぁ・・・)


(あー。あの突撃娘ね。大変そうだね)



 本当に大変なのだ。卯月ちゃんはトワ様の眷族で、まだ幼い女の子のうさぎの魔人だ。幼いがしかしその戦闘力はトワ様の眷族の中でも一番高い。



 しかも、幼いせいで力の制御が上手くないのか、主であるトワ様や母親の弥生にスキル全開で突っ込んでいくのだ。最近では、あたしも遊び相手として認識されているようで、時たま命の危険を感じながらも相手をしている。



(卯月ちゃん、もうちょっと力を加減してくれると良いんだけどなぁ・・・)


(卯月に懐かれているからこそ、トワ様といろいろ話も出来るんじゃないかい?)


(トワ様は眷族に甘いからねぇ)


(トワ様は全体的に友好的な相手には甘い気がするにゃ。この間、我らの暮らしている場所まできて特に意味もなく我らを愛でていったしにゃ)


(そんなことがあったのかい?)



 ラスクが呆れた声をだした。あたしもちょっと呆れたように息を吐く。トワ様、自由人だなぁ・・・。



 その後も、シーとラスクと、トワ様やその眷族達との交流について暫し盛り上がり、あたしはトワ様の居る中央広場に向かうために解散した。



 聖樹フローディアの大樹があるからか、この中央広場は他の場所と比べても特に聖の魔力が多く満ちている。あたし達聖獣にはとても心地の良い場所だ。



 中央広場に辿り着くと、ベガが人の姿になってお月見しているトワ様に給仕している様子が目に入った。聖獣が人の姿になることは滅多にしないことなので、何度見てもこの光景には驚いてしまう。



 あたしはまったりしているうさぎ姿のトワ様に近付いた。トワ様があたしに気付いたようで、耳をぴくっとさせてから体ごとあたしの方に向いた。赤い瞳が宝石のように美しく、見ているだけで吸い込まれそうになる錯覚に陥る。



(・・・おや、今日は遅いですね。卯月が探しに行ったので、てっきり捕まっているのかと思いました)



 トワ様の言葉につい顔が引き攣った。見付からずに済んで良かったと思いつつも、あたしの代わりに他の聖獣が被害に遭っている可能性を考えるとなんとも言えない気持ちになる。



――卯月ちゃんの遊び相手が務まるのって、聖獣の中ではあたしとベガくらいしか居ないだろうしなぁ。たまにはあたしの苦労も分かち合ってもらうか。



 そう考えたあたしは、内心の黒い考えなどおくびにも出さずにトワ様と話をすることにした。



(少し他の仲間達と話をしていたもので。卯月ちゃんとは会っていませんね)


(・・・そうですか。ミラーもお月見しますか?)



 あたしはちらりとベガを見て確認する。特に何も言わなそうだったので、あたしは喜んでご相伴に預かることにした。



 トワ様が用意して下さった団子をひとつ食べて、この領域の一番の特徴でもある大きな月を見上げる。



 トワ様の拘りが詰まっているのか、この領域の月は、外の世界の夜に現れる月よりも綺麗で優しい光を放っている気がする。あたしも、ここの月はとても好きだ。



 無言のままお月見を続けていると、遠くから騒がしい声が聞こえてきた。あーなんだか嫌な予感が・・・。



「あるじさま~、ミラーがどこにもいな、あー!!見付けたのです!!」



 あたしを探しに行っていた卯月が戻ってきてしまった。少しだけど魔力が減っているから、誰かと遊んだ後なのだろう。って、ちょっと!もう少しくらい頑張んなよ!これじゃあいつもとあまり変わらないじゃない!!



 人の姿の卯月が邪気の無い満面の笑顔であたしを抱えた。抱えるのは良いけど力を込めないで!苦しいって!!



「ぎゅ、ぎゅい・・・」


(・・・卯月、ミラーが苦しそうなので力を弱くしてください)


「はーいなのです」



 トワ様の言葉で卯月が力を弱めた隙に、あたしはぴょんと抜け出して卯月から距離をとった。



 あたしが卯月を警戒している間、卯月はそんなあたしなど気にも留めずにトワ様に話し掛けている。あたしを探していたんじゃないの?



「さっきまでオルトとカールと遊んでいたのですけど、二人ともすぐにバテてつまらなかったのです」


(・・・そうですか。卯月の遊び相手として不足だったのですね)



――あたしの代わりに犠牲になっていたのはオルトとカールだったか・・・



 しかし、あの二人を相手にしてこれだけ元気なのは恐怖すら覚える。オルトロスのオルトは戦闘力ならば聖獣の中でも上の方だし、カーバンクルのカールは戦闘力は低いけれど、その分支援能力に秀でている。このペア相手に不足って・・・



 あたしが戦々恐々としている中、和やかに会話をしている主従から不穏な会話が聞こえてきた。



「やっぱり、卯月の遊び相手はミラーが一番なのです!」


(・・・そうなのですね。それならば、今後も卯月の遊び相手としてミラーには頑張ってもらいましょうね)


「わーいなのです♪」


(うそん・・・)



 思わず素で呟いてしまう。トワ様、冗談ですよね?卯月の相手を今後もずっとしろと?いくらあたしでもいつかは死にますよ?



 あたしが唖然としていると、再び卯月があたしを捕まえて抱き締めてきた。ただし、先程とは違って、苦しくならないように力をセーブしている。やっぱり、主であるトワ様の言葉は良く効くようだ。



 卯月に抱かれているあたしを見たトワ様が、人の姿になってあたしの頭を優しく撫で始めた。突然のことに思わず体が硬直してしまう。



「・・・卯月の相手は大変だと思いますが、お願いしますね」



 その優しい声と神々しいまでに美しい顔を間近で見たあたしは、思わず(は、はい。任せてください)と答えてしまった。だって、あたしからしたらトワ様は女神様のような存在なのだ。そんな人からお願いされたら断ることなんて出来ないでしょう。



 あたしはトワ様に見送られながら、卯月に抱えられた状態で拉致されていった。



 この後の卯月の相手は大変で面倒になる気持ちもあるけれど、それ以上にトワ様に撫でられたという嬉しい気持ちで頭の中がいっぱいだ。



――後でトワ様に撫でられたって他の聖獣に自慢しておこうっと。



 そして今日もあたしは、卯月と一緒に領域内を駆けずり回るのだった。




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