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サイドストーリー 熾天使の少女と『白の桔梗』

7話~9話の間の白の桔梗のリーダー、セラ視点のお話になります。

トワに出会う前の白の桔梗でのやり取りと、どういった経緯でスライムさんの討伐に向かったのかトワが森に居た頃の舞台裏。




帝国の不審な動きを探るために、王国から帝国へ向かう途中にヘルスガルドっていう街に立ち寄った。王国から帝国の国境までの最後の街で、この街ならば帝国の情報も入ってくるのではと期待もしている。



そんな中、とある存在が冒険者ギルドで話題になっていた。まだ私達がこの街に来たばかりの頃だ。



「平原にヒュージスライムねぇ」



冒険者ギルドの受付嬢からたった今聞いた話だ。私はパーティーの皆に顔を向けて意見を聞いてみる。



「皆はどう思う?」



「情報源は定期の哨戒調査依頼をしていたBランクパーティーの『鋼の盾』でしたよね?嘘や曖昧な情報を流す人達では無いと思います」



真っ先に意見を言ったのは獣人の黒猫族のクーちゃんだ。もふもふの猫耳がぴこぴこ動いて可愛い。じっと猫耳を見ているのがバレたのか、じと目で私を睨んでくる。そんなところも可愛いけどね。



「まあ、真偽はさておき、本当に平原にヒュージスライムが出たのだとしたら間違いなく変異種でしょう」



綺麗な金色の髪をかきあげながら話を続けたのは、エルフのエルアーナ。エルフ族は美男美女ばかりで、もちろんエルもとっても整った容姿をしているの。彼女の言う通り、平原にスライムは生まれない。はぐれのミニスライムなら居るかもだけど、ヒュージスライムなんてありえないよね。



「スライムの変異種か・・・討伐ランクはA以上になりそうだな。今この街に対処できるパーティーは居るのか?」



問い掛けてきたのは半魔族のリンナ。鬼族の魔人で、キリッとしてかっこいいんだよね。そのせいで女の子なのに同性にモテてるんだけど。私達の中では一番真面目だから気苦労かけてるんだよね。今度埋め合わせしないとね。ちなみに、彼女の言う通りスライム種は総じて討伐ランクが高いんだよね。ヒュージ種の討伐ランクはBだけど、変異種ならAに繰り上がると思う。



「セラさん真面目に聞いてますか?なんか上の空みたいですけど?」



おっと、クーちゃんが機嫌損ねちゃった。どうでもいいこと考えていないで、少し真面目に話し合いに参加しますか。



「ん~?聞いてるよ~?私から話題ふったんだから当たり前でしょ?」



「どうだか?」



クーちゃんが機嫌損ねちゃった。仕方ない、もともと共有する予定だった情報だから話しておこうかな。



「ヘルズガルドのギルドに所属しているAランク以上のパーティーは3組。その全ては今別件で出払っているみたい。1ヶ月もしたらだれか帰ってくると思うけど。未所属のパーティーに関しては分からないかな。でも、Aランクは居ないと思うよ」



どうよ?とクーちゃんにどや顔すると呆れたみたいに顔を振って「最初から真面目にして下さい」とため息をついた。私は最初から真面目なんだけどなあ



「つまり、すぐに動けるのは私達だけってことね。最初の目撃情報っていつだったかしら?」



エルが何事もなかったように話を進める。実際にこのやりとりは私達の間では日常茶飯事だ。



「たしか、1ヶ月くらい前だったよな?」



「私達がまだこの街に来ていない頃ですね」



「それだけの期間があれば何度か平原の調査をしたのでしょう?それなのに未だに見つかっていないというの?」



私を置いて皆が話合っている。まあ、これもいつものことなんだけど。それでも、ちょっと寂しいよね。



「既に草原から移動したとか?」



「スライムの移動速度であの広大な草原を移動してもすぐに見つかりますよ」



「変異種とはいえスライムでしょう?私もクーリアに同意見だわ」



変異種に関しては未だにわかっていないことも多いから、すばしっこいスライムが居たとしても不思議じゃないとは思うけど。ヒュージスライムは図体もでかいはずだからねぇ。小さいならともかく、見晴らしのいい草原で見落とすことはないと思うけど。



その後も、私以外の三人でしばらく意見を交わしていると、気付けばかなりの時間が経っていた。



「みんな~。話は一旦終了にして、お昼ご飯食べようよ」



私が声を掛けると、三人揃って私に何か言いたそうな目をしてから諦めたような顔になって頷いた。言いたいことがあるなら言えば良いのにね。聞くかどうかは私の気分だけど。



冒険者ギルドから外に出ると、お昼時だからか、街の至る所で賑やかな声が聞こえてくる。



「どこかお店で食べる?それとも食材買って作る?」



私の問いに三人共考えこむように俯く。



――こういう何気ない所でも息が合うようになったよねぇ。



私がにやにやと三人の反応を見ているとと、クーちゃんがゆっくりと顔を上げて、ちょっと恥ずかしそうに視線を逸らしながら口を開いた



「き、今日は店屋物で良いかと思います。ちょっと気になるお店を見付けましたので皆さんで行きませんか?」



「もーほんと可愛いなあ。クーちゃんは!」



ちょっと引っ込み思案なクーちゃんの頑張った反応があまりにも可愛らしくて、クーちゃんに抱き付いてしまった。私達を見ていたエルとリンナが肩をすくめながら頷いた。よし、決定だね。



「よしっ!いこいこー」



「もー!いい加減、離れて下さい!」



私達は昼食を終えて再び冒険者ギルドに来た。スライムは置いといて、なにか適当な依頼は受けとかないとね。どうせ暇だし。・・・と思ってたんだけど。受付が騒がしいね。



「何かあったのでしょうか?」



「行ってみればわかるさ」



不安気なクーちゃんとさっさと騒ぎの中心にいくリンナ。エルは興味無さそうだね。



「クーちゃんとエルは依頼見ておいて。私もちょっと様子見てくるね」



「えぇ。行ってらっしゃい」



「面倒事を起こさないで下さいね」



クーちゃんの言葉は流しておいて、リンナの後を追って受付まで向かう。ん~?冒険者同士で揉めているのかな?



「リンナ。どうだった?」



私が声を掛けると、騒ぎの外で他の冒険者から話を聞いていたリンナが振り返った。呆れたような顔してる。



「朝話していたスライムの件で揉めているみたいだ」



「ふぅん?」



首を傾げて「それで?」と話を促すと、リンナは近くで事情聴いていた冒険者から聞いた内容を話し始めた。どうやら、Aランクパーティーが帰ってきて受付嬢と調査依頼者に報告しているらしい。平原の調査をしてやっぱりスライムなんて居ないって話になって『鋼の盾』のリーダーと言い争ってるみたい。ギルド側も仲裁に困ってるらしい。



「ありゃ。この街のAランクパーティーがスライムの依頼受けてたんだね。予想が外れたよ」



「そういえば、さっきは後1ヶ月くらいはAランクパーティーが帰ってこないって言ってたな。というか、確定情報じゃなくて予想だったのかよ。セラもいい加減だなあ」



「ここに居るAランクパーティーは調査よりも討伐専門だと思ってたからね。まさか実りの低い調査依頼を受けているなんて思わなかったんだよ」



「変異種の調査は冒険者の義務だろう?」



「街に所属しているAランクパーティーにもなると、自分から進んで調査には行かないよ。昔はともかく、今は変異種に対する危機感が低いからね」



それに、この街にいる冒険者は戦闘に特化している所があるからね。ダンジョンも無いし、高ランクの魔物が多い魔の森が近いから仕方ないけどね。



「どの辺りまで調査してたの?」



「目撃のあった平原の東部から中央部と南部を中心に探していたみたいだな」




「東部なら森と隣接してるよね?見なかったんだ?」



ちょっと呆れてしまう。普通なら森の方まで調査範囲を広げるでしょう。いくらスライムの移動速度が遅いとしたって最初の目撃から1ヶ月も経っているんだから。それでもAランクパーティーなの?私達の会話が聞こえていたのか、気付くと揉めていた二組のパーティーがこっちを見ていた。うわ、絡まれそうな予感。



「貴女達もそう思うだろう?スライムが森まで移動したかも知れないじゃないか」



「えっ?あぁ、はい。ソウデスネー」



――しまった絡まれた!ごめんねクーちゃん面倒事になるかも!



とりあえず、適当に対応してれば問題ないよね?と思っていると、明らかに不機嫌そうな大柄な男が声を上げた。この人がAランクパーティーのリーダーかな?



「他所者のパーティーに何がわかる?俺達はずっとこの街で仕事してきてるんだ。手は抜いていねぇし間違っているつもりもねぇ。変異種で知能も上がっているなら、危険な森の方なんか行くかよ」



「一つの街でずっと活動しているからこそ、思い込みで見落とすことがある。頼む。もう一度森の方まで範囲を広げて調査してくれないか?万が一でも変異種が野放しになっていたら、この街だって危険なんだ」



『鋼の盾』は旅してる無所属の冒険者なんだね。言ってることはこっちが正しいんだよなあ。



「とにかく!スライムなんざ居なかった。お前達の見違えか、このギルドに対する嫌がらせか?俺達は他の依頼で金稼がなくちゃいけねぇんだ。調査に無駄金使わされたからな。後はお前らで勝手にしろ!もし、また見つけたら今度はちゃんと生息場所を特定して討伐依頼にするんだな」



言いたいことだけ言って立ち去っていく男達。あ、あれがAランクパーティーなの?この街大丈夫?さすがの私でも心配になるよ。いくらなんでも変異種に対する危機感が薄すぎじゃない?話には聞いてたけど、ここまでとは思わなかったよ。



「ねぇ。あれ本当にAランクパーティーなの?」



「本人達はそう言ってたぞ」



思わずリンナに確認してしまったけど、リンナも呆れ果てたように返してきた。『鋼の盾』の皆さんも困った顔してるよ。気持ちはわかるよ。本来はこの街に所属している冒険者がこっちに頭下げて協力を仰ぐのが普通だもんね。



『鋼の盾』のリーダーっぽい人が受付嬢に向き直った。受付嬢さんも申し訳なさそうな顔してるね。かわいそうに。でも、このギルドがしっかりと教育していないからああいうパーティーが出てくるんだよね。だから、自業自得だよ。



「他に調査が出来るようなパーティーは無いのだろうか?俺達じゃ見つけても足止めぐらいしか出来ん。変異種の調査と討伐は、ギルドでも優先度の高い依頼になるだろう?なんとかならないか?」



「はい。申し訳ありません。今変異種に対応出来そうなパーティーは出払っておりまして。すぐには無理かと・・・」



「そうか・・・草原地帯に居ないとすれば後は森に居るはずだ。もう一度俺達で調査するしか無いか。居場所さえはっきり判れば討伐依頼として出せるからな」



「はい。今のパーティーは討伐依頼を中心に成り上がったパーティーですので、討伐依頼としてご依頼されれば対応してくださると思います。恐縮ですが、お願い出来ますか?」



「変異種の調査と討伐は冒険者の重要な仕事の一つだ。気にすることはない。このまま変異種を放っておいて事態が悪化したら目覚めが悪いからな」



おぉ。『鋼の盾』さんかっこいい。この街のパーティーじゃないし、さっさと見限って街を出ちゃえば良いのに。ここまで人の好いパーティーも珍しいね。仕方ない。ここまで聞いておいて知らん顔する訳にはいかないしなあ。



隣に居るリンナと目を合わせて軽く頷くと、話し中の『鋼の盾』のメンバーと受付嬢に声を掛ける。



「その依頼。私達のパーティーが受けますよ」



「「え?」」



話していた人達が一斉に私のことを見る。私はにっこりと笑ってギルドカードを見せた。



「私達『白の桔梗』がその依頼を受けます」



私の声が聞こえたのか、依頼ボードを見ていた二人も合流した。結局厄介事じゃないですかとクーちゃんが目で訴えてきてる。ギルドカードを見た受付嬢と『鋼の盾』の皆さんが真っ青な顔をしている。



「え、Aランクパーティーの『白の桔梗』ってたしか、『熾天使』の?」



「ん?『熾天使』なら私がそう呼ばれているけど?」



「え、Sランク冒険者の『熾天使』セラさん?え、ホンモノなのですか?」



――失礼だな~。ちゃんとギルドカード出しているのに。見てから言ってよね~



ちょっと不機嫌そうに口を尖らせてみる。本当は有名税が面倒なんだけど、今回は変異種対応だし、ここのギルドと冒険者は頼りないし。仕方ないよね?



「それで?どうかな?依頼受けてもいい?」



畳み掛けるように疑問を投げると、受付嬢はこくこくと首を縦に振って手続きを始めた。



「は~有名税ってめんどい」



面倒なAランク依頼の受付手続きを私の名前と肩書を使って押し通して早々にギルドを後にした。それでも、噂を聞きつけた冒険者やギルド職員、更にはギルドマスターまで顔を出してきて大変な騒ぎになってしまった。私が疲れたようにため息をつくと、他の皆は肩をすくめて私を見た。



「仕方ないじゃない。貴女は特に有名なんだから。『熾天使』さん?」



「そうですね。それで私達も巻き込まれるのですからいい気味です『熾天使』さん」



「まあまあ。Aランク以上の依頼はカードの提示が必要だししょうがないさ。『熾天使』さんのおかげですんなり手続きも進んだしな」



「うがああああ!皆いじわるう!!」



「「「あははははは」」」



こうして、私達は森のどこかに居ると思われる、ヒュージスライムの変異種の調査と討伐を引き受けたのだった。




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