プロローグ
初投稿です。
よろしくお願いします!
母譲りの瞳。
日本人の色ではない、この青紫色はタンザナイトのよう。
髪の色は父譲り。
典型的な黒髪で直毛。
美容院は苦手で、伸ばしっぱなしの髪は背中まである。
私の名前は羽屋あさひ。
母は私を「アーシャ」と呼んだ。
父がつけてくれた名前だけど、外国人の母には発音しにくかったみたい。
北欧の出身らしい母と、日本人の父との間に生まれた私だけど、髪色のおかげでそこまで目立つこともなく生きてきた。今時ハーフは珍しくないしね。
でもこの瞳の色はやっぱり変わっているから、中学になってからはずっと黒いカラコンを入れてる。
小さいときは物珍しさから色々言ってくる子もいたけれど、中学、高校ではカラコンのおかげもあって、とても平穏な生活を送ることができた。
1年前までは本当に幸せだったよ・・・
今日、私は高校を卒業した。
卒業式に来てくれる家族はもういないけれど。
クラスの何人かで、帰りにカラオケ行こうって誘われたけど断ったよ。
みんな優しくていい子たちだったけど、人との距離が近いと疲れるんだ。
手をつなぐのも、腕を組まれるのも苦手。
帰り道、いつものコンビニで、いつもは我慢するスイーツを買った。
今日は特別な日だもん。
1人で住むには広すぎるこのマンション。
上着はいつものラックに掛けた。
この制服とももうお別れだね・・・
コンビニで買ったティラミスをテーブルの上に置き、
写真立てと大切な木箱も持ってきて並べる。
「お父さん、お母さん、無事に卒業できたよ」
見守ってくれてありがとう・・・
心の中でそう言って、写真立ての中の二人に手を合わせた。
お父さんに肩を抱かれ、幸せそうに笑うお母さん。
2人を見つめていると、視界がだんだんにじんでくる。
もう1年になるけど、まだ・・・まだすごく寂しいよ・・・
ズズっと鼻をすすり上げて、気持ちをきりかえる。
「・・・じゃ、今日はお祝いにコレいただくね」
つとめて明るく言ってみる。
久しぶりの甘い物だもん。
「へへ♪」
カパッとふたを開けながら、嬉しくて思わず笑みがこぼれる。
一口ぶんをすくい上げたその瞬間、
『ドン!!!』
突き上げるような衝撃だった。
とっさに、大切な写真立てと木箱をつかんで抱き寄せる。
・・地震!?
けれど、食卓上のペンダントライトはちっとも揺れていない。
とにかく、立ち上がろうとした。
けど、立てなくて・・・
ふと足元を見ると、椅子の下を中心に直径2メートルほどの文様?が浮かび上がっていた。
「っな、なにこれ!?」
不思議なくらいに音がない。
ただ静かに、その文様だかなんだかが、目をあけてられないくらい光り始めて―――
思わず目を閉じた。
床のほうから、温かい風が舞い上がる。
私はただ椅子に座ったまま、写真立てと木箱を胸に抱きしめていた。