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7/7

―7―

結論、焼きそばは素晴らしい。

 結論から言うと、すごく簡単で、よくある話だった。

 ひどく落ち込んでいる時に優しくされて、あたしはころっと好きになってしまったのだ。


 肉じゃがの夜からも、あたしは彼の家で寝泊まりしていた。

 相変わらず、夜通しのバイトで疲れていたけど、梶屋はあたしのご飯をおいしそうに食べてくれた。

 家にいる間は、あまり言葉を発しない彼に、あたしが一方的に話をしていた。

 彼は黙って聞いていてくれて、時折、応えてくれた。

 彼が母子家庭だったことや、高校になってすぐにお母さんが亡くなったこと。お母さんが無理して行かせてくれた高校を卒業したいこと。そのために、夜間の道路工事を手伝って収入を得ていること。

 少しずつ彼のことを知っていった。

 彼と話しているうちに、自分のしていたことがバカらしくなってきて、あたしは両親に謝りに行った。

 意外にあっさり素直に謝るあたしに、両親は少し驚いていたけど、許してくれた。

 家出中はどうしていたのかと聞かれたから、いろいろ端折って説明した。

 こんなに面と向かって話をするのは、いつ以来だろう。

 話の中で、梶屋という名前も出た。

 お父さんが、気に入らないようなことを言ったので、また喧嘩になりそうになったけど、なんとか踏みとどまった。

 仲直りしたことを梶屋に話したら、

「そうか」

 とだけ言った。

 でもなんとなく、喜んでくれているようにも感じた。

「家に帰るのか?」

 と聞かれて、

「もう少し、ここにいたい」

 というと、許可してくれた。

 家に帰らないことをお父さんに伝えると、激怒された。

 でも今回は、喧嘩にはならなかった。

 普段は梶屋の家で寝起きして、あたしの作ったご飯を一緒に食べた。

 数日おきには家に帰って、お父さんのお小言を聞いていた。

 ある日梶屋のうちにお母さんが来て、梶屋が頭を下げているのがおかしかった。

「む、娘さんを長い間、すみません」

 お母さんも、最初何を言っているのか分かってなかったけど、梶屋があたしの家出を長引かせてしまったと謝っているのだと気づいて、笑っていた。

 誰も梶屋のせいだとは思ってないのに。

 まだ梅雨の真ん中くらいで、空気はじめじめしていたけど、あたしの心はさわやかだった。



 そして、梅雨が明けた。

 空気が乾燥してきて、いろんなところが夏色に染まって行く。

 “あたし”は、いつの間にか“わたし”になっていた。

 茶色に染めていた髪は黒くなって、化粧も薄くなった。

 “わたし”は、“あたし”のころよりずいぶん地味になっていた。

「ねえねえ。最近梶屋くんのイメージ変わったよね」

 最近新たに仲良くなった友達は、髪も染めてないしスカートも短くない、落ち着いた子ばかりだった。

「そうそう。朝から学校に来るようになったしね」

 授業が終わった教室で談笑する。

「でも、授業中は寝てるけどね」

 ため息交じりに言う。

 そう。

 最近彼は、朝から学校に来るようになっていた。

 出席日数の問題があるとかで、遅刻したくないと言う彼のために、毎朝わたしが起こしているのだ。

 明け方帰ってきて、一、二時間くらい仮眠を取っているだけなので、どうしても授業中は寝てしまうけど、夕方に寝る時間を増やしてバランスを取った。

 実は、先生たちも彼の事情を考慮して、かなり便宜を図ってくれていたのだけれど、それでもギリギリだったそうだ。

 夏休みには補習がいっぱいだ。

 それはちょっとつまらないと思っていると、テストの点数がよければ、多少補習を減らせるとのことだった。

 わたしは、授業中真面目になって、できるだけ頭に叩き込んだ。

 その分時間があるときに彼に教えてあげている。

「美佳も頑張ってるよね」

「梶屋君も幸せ者だぁ」

 にこにこと笑う二人の友達。

 あたしも釣られて笑った。

「あ、噂をすれば…」

「梶屋君」

 二人がわたしの後ろに視線を向けた。

「美佳」

 わたしを呼ぶ声に振り向くと、彼が立っていた。

「あ、僚くん」

 相変わらずの無愛想な表情だけど、それがちょっと優しく見えるから不思議だ。

「帰ろう」

 ちょっとそっぽを向いてそう言う彼。

 照れているときの癖だった。

 わたしは自然と笑顔になってうなずいた。

「うん。帰ろっ」

 わたしと彼は、恋人になっていた。

思ったより長くなりました。

いかがだったでしょうか。

ありきたりな話なのでつまらなかったらすみません。


感想や評価など頂けましたら幸いです。

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