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―6―

焼きそばとカップ焼きそばは似て非なるもの。

どちらも良いですね。

 結局、梶屋は午後の授業もほとんど寝ていた。

 最後の授業に至っては、終わったことにも気付かないでそのまま寝続けている。

 あたしは、そんな梶屋を放置して、教室を後にした。

 今までは気にして見たことがなかったけど、梶屋の寝かたは変だった。

 寝ようと思って寝てると言うより、起きようとしてるのに寝てしまってる感じだった。

 あたしの頭には、昨日の夜と、今朝のことがあった。

 たぶん、いつもあんな感じで夜通しバイトして、昼間疲れて寝てるんだろう。

 だから午前中はいつも遅刻するし、家にいても寝てることが多い。

 昼夜が逆転してるようだ。

 あたしは帰り道にスーパーに寄って、適当な材料を買った。

 梶屋の家に帰ると、予想通り、梶屋はいなかったけど鍵はかかってなかった。

 勝手に上がり込んで、荷物を置く。

 台所をあさると、少し心配していたけど、道具はそろっていた。

 埃をかぶっていた炊飯器を開け、中を洗う。

 お米を研いで、スイッチをオン。

 買いものは手早く済ませたし、たぶんそんなに待たせることはないと思う。

 続けて、まな板と包丁を引っ張り出し、綺麗に洗う。

 どっちも長い間使われてなかったみたいで、少し埃が乗っていた。

 ジャガイモを切り、ニンジンを切り、準備していく。

 玉ねぎを切ってると、泣けてきた。

 人生いろいろあるもんね、なんて。

 他の具材も切って、軽く炒め、ダシとかいろいろ加えてぐつぐつ煮込む。

 だいぶ汁気がなくなってきた頃、玄関が開いた。

「あ、おかえりー」

 なんだか勝手に笑顔になった。

「………………おう」

 梶屋はあたしに驚いて、台所を見た。

「今晩は肉じゃがだから」

 もう少しでできるから、待っててね。

 そう言いながら、あたしはお鍋に向き直った。

 あっけに取られていた梶屋も、とりあえず靴を脱いで部屋に入ってきた。

 しばらく煮込むと、いい感じになった。

 ぴーぴーぴーと、ご飯が炊けた音もした。

 棚をあさると、他にもお皿が見つかったので、洗って綺麗にする。

 もしかすると、あの大皿しかないのかと思っていたので助かった。

 ご飯と肉じゃがを、それぞれ二人分よそって、ちゃぶ台に運ぶ。

「できた」

 と、宣言してみる。

 と言っても、肉じゃがとご飯だけだけど。

 本当は他にも作ろうかと思ったけど、何があって何が無いのか分からなかったので、ひとまずこれだけにしておいた。

 梶屋は、ちゃぶ台から少し離れたところに座っていて、あたしと肉じゃがを交互に見て、もしかすると戸惑っているのかもしれない。

「食べようよ」

 あたしはちゃぶ台の前に座り、声をかける。

 梶屋はとりあえずちゃぶ台まで移動してきて、またあたしを見た。

「ほら」

 いただきまーす。と、先に箸を取る。

 梶屋もあとに続いて箸を取った。

 一口食べる。

「どうかな?」

 肉じゃがを口にして、しばらく固まっていた梶屋は、あたしの声で元に戻った。

 あたしは何度も聞いたりせず、梶屋の様子を観察していた。

 梶屋は、もそもそと口の中の物を飲み込んで、

「うまい」

 と言った。

 全然表情は変わってなかったけど、なんとなく心からそう言ってるように感じた。

「おかわりもあるから」

 そう言うと、

「ん」

 とだけ答えて、食べるペースが早くなった。


 食べ終わった後、動こうとする梶屋を制して、あたしが洗い物をした。

 結局梶屋は、何度もおかわりをして、ご飯も肉じゃがも綺麗になくなっていた。

 洗い物をしていると、気付いたら鼻歌を歌っていた。

「北島」

 不意に、名前を呼ばれた。

 振り返ると、梶屋が立っていて、

「……………」

 無言のまま、台所を見つめている。

「?」

 やっぱり自分が洗うって言うのかな。

 そう思っていると、目が合った。

「うまかった。……ごちそうさま」

 それだけ言って、居間に戻って行った。

 あたしはちょっと、呆けていた。

 梶屋は、わざわざそんなことを言うために、立ち上がったのだ。

 そしてあの間。

 もしかすると、気恥ずかしかったのかもしれない。

 だってなんだか、梶屋は人にそういうこと言うのに慣れてなさそうだ。

 洗い物に戻ったあたしの鼻歌は、心底ノリノリだった。

もう少しで終わります。

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