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焼きそばとカップ焼きそばは似て非なるもの。
どちらも良いですね。
結局、梶屋は午後の授業もほとんど寝ていた。
最後の授業に至っては、終わったことにも気付かないでそのまま寝続けている。
あたしは、そんな梶屋を放置して、教室を後にした。
今までは気にして見たことがなかったけど、梶屋の寝かたは変だった。
寝ようと思って寝てると言うより、起きようとしてるのに寝てしまってる感じだった。
あたしの頭には、昨日の夜と、今朝のことがあった。
たぶん、いつもあんな感じで夜通しバイトして、昼間疲れて寝てるんだろう。
だから午前中はいつも遅刻するし、家にいても寝てることが多い。
昼夜が逆転してるようだ。
あたしは帰り道にスーパーに寄って、適当な材料を買った。
梶屋の家に帰ると、予想通り、梶屋はいなかったけど鍵はかかってなかった。
勝手に上がり込んで、荷物を置く。
台所をあさると、少し心配していたけど、道具はそろっていた。
埃をかぶっていた炊飯器を開け、中を洗う。
お米を研いで、スイッチをオン。
買いものは手早く済ませたし、たぶんそんなに待たせることはないと思う。
続けて、まな板と包丁を引っ張り出し、綺麗に洗う。
どっちも長い間使われてなかったみたいで、少し埃が乗っていた。
ジャガイモを切り、ニンジンを切り、準備していく。
玉ねぎを切ってると、泣けてきた。
人生いろいろあるもんね、なんて。
他の具材も切って、軽く炒め、ダシとかいろいろ加えてぐつぐつ煮込む。
だいぶ汁気がなくなってきた頃、玄関が開いた。
「あ、おかえりー」
なんだか勝手に笑顔になった。
「………………おう」
梶屋はあたしに驚いて、台所を見た。
「今晩は肉じゃがだから」
もう少しでできるから、待っててね。
そう言いながら、あたしはお鍋に向き直った。
あっけに取られていた梶屋も、とりあえず靴を脱いで部屋に入ってきた。
しばらく煮込むと、いい感じになった。
ぴーぴーぴーと、ご飯が炊けた音もした。
棚をあさると、他にもお皿が見つかったので、洗って綺麗にする。
もしかすると、あの大皿しかないのかと思っていたので助かった。
ご飯と肉じゃがを、それぞれ二人分よそって、ちゃぶ台に運ぶ。
「できた」
と、宣言してみる。
と言っても、肉じゃがとご飯だけだけど。
本当は他にも作ろうかと思ったけど、何があって何が無いのか分からなかったので、ひとまずこれだけにしておいた。
梶屋は、ちゃぶ台から少し離れたところに座っていて、あたしと肉じゃがを交互に見て、もしかすると戸惑っているのかもしれない。
「食べようよ」
あたしはちゃぶ台の前に座り、声をかける。
梶屋はとりあえずちゃぶ台まで移動してきて、またあたしを見た。
「ほら」
いただきまーす。と、先に箸を取る。
梶屋もあとに続いて箸を取った。
一口食べる。
「どうかな?」
肉じゃがを口にして、しばらく固まっていた梶屋は、あたしの声で元に戻った。
あたしは何度も聞いたりせず、梶屋の様子を観察していた。
梶屋は、もそもそと口の中の物を飲み込んで、
「うまい」
と言った。
全然表情は変わってなかったけど、なんとなく心からそう言ってるように感じた。
「おかわりもあるから」
そう言うと、
「ん」
とだけ答えて、食べるペースが早くなった。
食べ終わった後、動こうとする梶屋を制して、あたしが洗い物をした。
結局梶屋は、何度もおかわりをして、ご飯も肉じゃがも綺麗になくなっていた。
洗い物をしていると、気付いたら鼻歌を歌っていた。
「北島」
不意に、名前を呼ばれた。
振り返ると、梶屋が立っていて、
「……………」
無言のまま、台所を見つめている。
「?」
やっぱり自分が洗うって言うのかな。
そう思っていると、目が合った。
「うまかった。……ごちそうさま」
それだけ言って、居間に戻って行った。
あたしはちょっと、呆けていた。
梶屋は、わざわざそんなことを言うために、立ち上がったのだ。
そしてあの間。
もしかすると、気恥ずかしかったのかもしれない。
だってなんだか、梶屋は人にそういうこと言うのに慣れてなさそうだ。
洗い物に戻ったあたしの鼻歌は、心底ノリノリだった。
もう少しで終わります。




