4.再会
脱走から二日。二人はAI達の街が見える所まで来ていた。今二人が立つ丘は人間の領域からかなり離れている。丘の下には湖が広がり、その先には夕日に照らされながらも僅かに他の明かりも見えている。
「竜、辿り着いたわね…遂にここまで…」
彼はこくりと頷くと丘をゆっくりと降りていく。
その時だった。アリスの顔の真横を何かが高速で通り、風を切り裂き、竜の右肩に当たった。
竜がその場に膝をつくようにうずくまる。
アリスは直感ですぐに後方へ銃弾を連射すると竜に駆け寄り木の裏に彼を隠す。
彼の右肩からは大量の血液が溢れ出している。
「アリス…逃げて…俺は…平気だから…」
彼は微笑んでいた。後ろからは再び大量の弾丸が放たれている。
「馬鹿なこと言わないで…貴女は私が守るから…!!」
アリスは側のもう一つの木に隠れるとベルトから手榴弾を外し、投げつける。すぐに爆炎が上がり、そこから逃げ出してきた数人をサブマシンガンで仕留める。
しかし、仕留め損なった数人に狙われた。自分に銃口が向けられる。
死を覚悟した。
しかし、それはすぐに希望へと変わった。竜の倒れている方向から大量のナイフが飛んできてその数人を仕留めた。更には上に残っていた数人もナイフで仕留める。
ナイフが飛んできた方を向くと、そこには赤い髪を長く伸ばし、黒い軍服を着た18くらいの少女が竜を庇うように立っている。
「君達を迎えに来た。私はアイカ・サノという。君達がAIと呼ぶ者だ」
アリスは警戒するように竜に近づくアイカと名乗った少女は少し微笑んでから彼から離れる。その際包帯を彼の手に握らせ、自分は地面に腰を下ろす。
「ありがとう…礼は言っておくわ…でも、なんで…?貴女からしたら私達は敵でしょう?それに、迎えに来たってどういうことなの?」
「そうだな、あえて言うのなら私は彼を前から知っている。争いを望まないのに、自ら私達の所へくる彼を。私は、彼の望みを聞いたまでだ」
「望み…?まさか、貴方が自分から戦場に向かっていたのは…」
竜はアリスに包帯を巻かれると苦しそうにしながらもアイカの方を見て笑みを浮かべている。それに答えるようにアイカも微笑んでから立ち上がる。
「アリス、君のことも彼から聞いている。とにかく、今は私達の街に向かおう。このままでは彼は死んでしまう」
彼女はアリスに竜を支えて歩くように指示をするとすぐに歩き出す。
それから数十分後の事、アリスは彼女彼女達の領域にたどり着いた。名は『アルストラ』というらしい。
彼女は見張りの男二人に門を開けるように指示する。
アリスと竜の顔を見た男達は一瞬戸惑ったように躊躇うが、アイカがキッと睨むと二人はすぐにレバーを回して重たい鋼鉄の門を開ける。
門が開くとアイカはいとも簡単に竜を抱き上げ、門の裏にある、恐らく兵舎であろう巨大な研究所のような施設に足を進める。
施設は近未来的な内装で、黒い壁に流れ星が流れるように光が断続的に光っている。
その他にも見たこともない機械などが並んでいる。
時々人とすれ違う。見た目は人間そのものだ。アリスはつい彼らに目を向けてしまうが、向こうも同様にこちらに目を向けてきている。アリスは申し訳なさそうに俯いて、アイカの後ろをついていく。
しばらく長い廊下を進むとアイカは白い扉の前で足を止める。
「入るぞ」
アイカはノックしてから短くそう言うと扉の横にあるボタンを押す。すると扉はブシュ…という音を出して横にスライドする。
部屋の中は研究室のように色々な機械が並んでいて、壁には大きなモニターがあり、部屋の中心には簡素なベッドが置かれている。
そしてそのモニターの前に座っていた白衣を着た黒髪の、やる気のなさそうな男性がこちらを振り向き、歩み寄ってくる。
「紹介しておこう。私達の修理を担当しているシュンだ」
「シュンだ…アイカから話は聞いてるよ…まさか、人間側からこちらに来るとはね。あぁ、彼の事は安心してくれ。僕が必ず治す。人間のデータもプログラムに残っているからね」
彼は淡々と話すと竜をベッドの上に寝かせる。
「アイカ、君は彼女にここのルールなんかを教えてきたらどうだい?」
「そうだな。そうしよう」
アイカは頷くとアリスの返答を聞く前に歩き出してしまう。
アリスは多くの疑問を抱えながらも今はシュンというAIを信じることにした。一か八かでも、それに賭けるしかないし、竜が戻ってきた時に彼が戸惑わないように、アイカに色々な事を聞く事にした。
本当に彼女の中ではさまざまな感情が渋滞しているが、今は、これで良いはずだ。少なくとも、今は…。




