1.歴史
助けて。誰かがそう呼んだから僕達は生まれた。
誰かに求められたから僕達は生まれた。機械なのに。
僕は願った。強く願った。人間のように心が欲しいって。その結果はーーー
今から150年ほど先の話。人々は争いを捨てることはなかった。否、それは人として当たり前の事なのかもしれない。
人は欲を欲し、国々は領土を広げようとする。ひとつ変わったことがあったとしたら、それは人工知能の発展。AIの戦争での活躍である。
国々はAIが発達すると彼らに身体を与えた。新種の兵器。彼らの活躍は素晴らしいものだった。
しかし、慈悲の心を持ち始めたAIは処分された。これが引き金となった。AI達は反乱を始め、今では国を支配する程だ。
そして私はそれを止められなかった・・・
人々が残した最後の城。昔の東京に位置する場所に立つ煉瓦作りの城。残された人類である300人はバリケードとは名ばかりの壁を作って暮らしている。壊そうと思えば彼らはいつでも壊せるのだろうが、壊しに来ない辺り趣味が悪い。
一人の女性が兵舎の外に出るとツインテールに結んだ金髪を払って煙草に火を付ける。
赤いドレスに身を包んでいながら剣を携えている姿は美しいの一言。
「また吸って…病気になっても知らんぞ…」
女性が振り返る。そこには長身で黒髪、そして耳には狼のピアスをつけた若い青年が立っている。その瞳は静かに私の碧眼を見つめている。
伏見 竜…人々がこの城に逃げ込んでから産まれた男…年にしたらまだ20はなっていないはずだ。何度か行われた反乱にも参加していて、戦績は優秀。優しそうに見えても油断してはいけない。指揮官としては優秀だが…私は知ってる。
「良いでしょ?今更…そういえば、また犠牲を出したそうね?」
彼は人間性に欠ける。あまりにも冷徹な指揮。それは人道など微塵もない。
女性が聞くと彼は一瞬目を閉じてからもう一度見つめる。
「必要な犠牲だ。今までの…太古の戦争だってそうだ。違いますか?アリス・イルミナス」
彼の言葉には光が感じ取れない。心の裏側を見られているようだ。
私は誤魔化すように煙草を一服してからそれをブーツで踏んで火を消した。
「それで?戦果は?」
「上々。ここから30キロほど離れた東部側の基地は壊滅。もう二度と使えないようにしてきた」
彼は静かに語りながら、背中に背負っていた鞘から剣を引き抜くと月にかざす。
刃が美しく乱反射しキラキラと輝く。
「そう。貴方が早く地獄に行けることを祈るわ」
アリスが、ただ一人の友達が睨みつけてその場を去ってから残された竜は鞘に剣を戻す。
いつまで地獄は続くのか…