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やってしまった自分たち(完)

 どうしてこうなった、とミソラス・バレッツェンは大きなベッドの上で頭を抱えた。


 ミソラスは転生者であるが、幸運に巡り合えたこともなければ所謂「無双タイム」というやつにもとんと縁のない地味な男だ。女にも特別モテはしない。人望も特別ありはしない。どんな状況でも信念を貫けるかと問われると、時と場合によっては無理だと言う。そういう感じの不完全妥協人間である。


 そんなミソラスなのだが、彼は自分の生活に決して釣り合わない大きな――人が3人は寝られそうな天蓋付きベッドの真ん中で、全裸で頭を抱えていた。その原因は、右隣と左隣である。


「どーしたのダーリン? 頭が悪いの?」

「おいショーコ。日本語が乱れてるぞ」

「大丈夫? おっぱい揉む?」

「おいショーコ。辻妻も乱れてるぞ」

「もしかして昨日過ごしたアツくて刺激的な夜が忘れられない?」

「おいショーコ。劣情も乱れてるぞ」


 右にいるのは頬を赤らめる全裸の少女。

 左にいるのはいたって冷静な全裸の少女。

 そう、俺たち全裸ブラザーズ。いや違う。何を考えてるんだ俺は。ミソラスは混乱している。昨日の自分は仕事を終えていつものボロ部屋で泥のように寝ていた筈ではないのか。ミソラスはこの二人を部屋に招いた記憶もないが、そういえばその気になればいつでもテレポートで追いかけられると言っていたのを思い出す。それにしたってどういう了見だ、と余計混乱した。

 さっき寝ぼけてショーコの胸に顔を突っ込んでしまい、そこで目が覚めてびっくりして反対側に飛びのくと、今度はマツノの胸を触っていた。完全に犯罪者であるが咎めもしない二人が怖い。いや、二人も広義における犯罪者だが。


「何で、俺の寝床が豪華になってんの?」

「いやだって、ウチらも寝たかったから空間改造でちょちょいと」

「いいベッドだ。だがいいベッド過ぎて寝心地に慣れないからちょい細工したが」

「そもそも、何で俺の部屋に!?」

「色々あって現実世界とこっちの行き来が無制限になっちゃったもんで!」

「こっちの世界で頼れそうで顔見知りで、しかもおれらの事を正しく認識できるのお前だけだし」

「じゃあ最大の疑問だ。なぜに……なぜに全員全裸で同じベッドなの?」


 万感の思いを込めた質問に、マツノとショーコは顔を見合わせる。


「えーと……ごめん、朝のアレに悪ノリでアレコレしてたら好奇心が疼いちゃって、やっちゃった♪」

「心配すんな。妊娠するようなことにはしてない」


 そのやっちゃったは、ベッド全裸潜り込みの意味だけであってくれ。

 そして妊娠するようなこと「に」は、って何だ。普通そこに「に」は入らないだろう。

 俺は一体どこまで、どのラインまでからかわれているんだ。

 激しく気になったミソラスだったが、結局質問は出来なかった。そういう臆病者である。




 あの後、ショーコは『全能演繹』という魔法で「もし自分たちのいたあの世界がそのまま発展を続けていたら」というIFをイメージで作り出し、それをマツノの認識論で固定するという作業を数度繰り返し、異次元にマツノとショーコの世界を疑似的に作り出していた。

 全部がIFの作り物であり二人のどちらかが死ねば崩壊する世界ではあるが、マツノとショーコは自分たちさえ良ければそれでいいので、この方法によって二人は「帰るべき世界」の代価品を確保したのである。後は一生こっちで処刑人の能力を持ったまま適当に暮らしながら世界を行き来すれば万事解決である。

 そう思っていたら、二人の戒言法典が光り、予想外の文字が映し出された。


 曰く――面白いモン作ってるなお前ら。世界のバックアップとして活用するから管理人になれよ。


 ……的な事が書いてあるとマツノはショーコに説明した。ショーコが理解するには言葉が畏まり過ぎていたようだ。つまりその言葉によって擬似世界はまるまる世界のバックアップとして機能し、お金も何故か支払われ、それ以上指示も来なくなり、結果としてマツノとショーコは全てを手に入れてしまったのである。


 しかし二人は内心ちょっと微妙に思った。なんだかんだ、こちらの世界の事を現実世界に持ち込めないというのは「隠し事をしなくていい」という楽さもあったのだ。繋がってしまうとあちらの世界にもこちらの世界にも現実感が持てなくなる気がした。事実、暫く現実で過ごしていると少ないながらそう言った思いが込み上げてきた。

 二人でいるときはそういう事は感じないのだが、これから人並みに家庭を持って子供も作りたい願望がなくはない二人は、家庭にまで処刑人だなんだという話をしたくはなく、そして持ち込みたくもなかった。都合の悪いときにそういった能力を使えてしまうと、そのままなし崩し的に相手を支配することになってしまい、何だか嫌だったのだ。

 いっそ思いそのものを魔術や気合でどうにかしてしまうか? と思ったとき、そういえばとミソラスを思い出したのだ。


 彼は二人の素性を知っているので何一つ隠し事をする必要はない。

 しかも恐らく、二人でさえ干渉不能な記憶能力を持っている。

 じゃあミソラスを夫にすれば万事解決である。


「そういう訳でミソラスくんの半分はこのショーコが貰った!」

「もう半分はおれが貰ってる。ああ、ちなみにおれとショーコで均衡を取る約束してっから、どっちか片方が過ぎたことをしだしたら残った方が止めることになってるんで安心しろ」

「お前ら人権って言葉の意味をいっぺん辞書で調べ直してこいッ!! 安心要素も安全要素も顕微鏡使ったって見当たらねーよ!! 怖いよお前ら!! 処刑人ってみんなこうなの!?」


 こうして二人はミソラスを好き放題振り回し、愛され、愛し、子を育み、そしてたまに世界の実験に付き合いながらも末永く幸せに暮らした。男ミソラス、モテ期がなかったせいで二人の少女の誘惑に割とあっさり敗北したのであった。

最後はどうしようか何個か考えてたんですが、全部くっつけてこんなのになりました。

滅茶苦茶な話を書こうと思って、思った通り滅茶苦茶になったので個人的には満足です。

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