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見えているのは自分だけ

 たった一つの切っ掛けで、人生は積み木のように無残に崩れ去る。


 最初におかしいと思ったのはいつだっただろう。


 家督を継ぐため、長男として生まれ持った運命を背負って皆の期待に応える為に努力を重ねた幼少期。誰もが僕に期待を注いでくれていた。数年が経って突然弟が出来たと知った時も、僕はそれを素直に祝福しながらも、弟も導いていかねばならないという責任感を背負って勉学に、武術に励んだ。

 使用人たちに見守られ、厳格だが優しい両親に応援され、充実していた。


 そんな希望だった筈の弟に違和感を覚えたのは、いつからだっただろうか。


 弟は僕より2年も早く勉学が出来る程の知性を手に入れ、更には武術の才覚も片鱗を見せていた。「まるで最初から知っていたかのように」家庭教師の繰り出した問題や知識を解き、綿のように吸収し、わずか数年で弟は僕の隣に来た。

 そして、僕を凄いとか流石とか褒め言葉を並べて、何事もなかったかのように笑顔で追い抜いて行った。気が付けば、弟は大人でも舌を巻くほど弁舌に優れた人間になっていた。


 両親はそんな弟に当初こそ戸惑いを覚えながらも、素直に祝福した。僕も悔しい思いはあったが、血の繋がった可愛い弟を妬むような醜い思考を自分で許す程自我を律せない訳ではない。弟と共に他愛のない遊びに興じたり、好き嫌いを諫めたり、お兄さん風を吹かせて可愛く優秀な弟に付き合った。

 使用人たちは仲のいい兄弟だと言い、両親はこの二人が居れば家は安泰だと微笑んだ。


 違和感が、異常という感覚に摩り替ったのは、いつだったか。


 学問では天童だった弟だが、流石に年の差と体格差から武術では俺にそうそう追いつけなかった。弟はそれでも年不相応なまでに武術や魔法に励み、無茶と言える行動をするようになっていった。僕も何かに迫られるような弟の身を案じ、焦らず鍛えればいいと告げたが、弟は頑なにそれを断り僕に練習相手を申し込んだ。

 余りの熱意に僕もその気になり、僕の教えられる限りの戦いの術を叩きこんだ。家庭教師との練習の後に個人で兄弟のレッスンだ。弟は無茶のしすぎで時折ふらつくこともあるようになった。それでも弟は決して辞めるとは言わなかった。

 僕はと言うと、無茶をさせるなと叱る両親に弟の尋常ならざる熱意を伝えてなんとか説得していた。使用人たちは、弟の才能に嫉妬して訓練と称して叩きのめしていると陰口を叩くようになった。馬鹿な、と呆れた。


 やがて弟は、僕に感謝しながら魔法や武術の才能も追い抜いて行った。ああ、本当にこの弟は転載なのだな、と――自らの努力を更なる努力と才能で追い抜いた弟の背中に微かな羨望と嫉妬を抱いた。


 弟のことが気持ち悪いと感じるようになったのは、いつだったろうか。


 弟はその才能をあらゆる方面に発揮するようになった。

 家に仕える武官を連れて魔獣討伐の真似事をして戦果を挙げた。治める土地の農地開拓、改良のための論文を書いて父を説得し、農地改革で実績を挙げた。魔法で大人も使いこなすことの難しいものを使いこなし、挙句オリジナルの魔法を構築して魔法会を驚愕させた。まったく今までの僕たちの発想では至らない画期的な『からくり』を発明し、産業に貢献した。

 連日連夜、八面六臂の大活躍。まだ世間の子弟と同じペースで勉学と武術などを習っていた僕には出来ないことを当然のように行い、時折の失敗も後の大成功で覆していた。両親も使用人も弟を褒めたたえた。

 そして、そんな弟に差を広げられるばかりの僕に苦言を呈するようになった。


 やれ、弟を見よ。あの賢弟を、勇猛なる弟を見よ。

 あの子が幼き齢であれほどの活躍をしながら、お前は何をしている。

 同じ胎から生まれた子供、同じ努力でこんなに差が付く筈がない。


 責められるたび、何を言っても言い訳になると自分を恥じた。ほんの少しの、弟がああまで有能なのがおかしいのではないかという疑心を抱えながら。僕が責められていることを聞きつけて僕を弟が庇うことも増えた。そのたびに両親は、お前は兄に甘すぎると諫め、僕に弟に甘えるなと諫めた。弟に何度も、情けない兄ですまないと謝った。心の片隅に、弟の笑顔と「兄さま」という言葉に言いようのないもどかしさを抱えながら。


 家に自分の居場所がないと感じ始めたのは、いつだったろうか。


 ある日、使用人の話を聞いてしまった。無能の長男に家督を継がせるより、天才の次男に継がせた方がお家の為だと。何故あんな無能が先に生まれてしまったのかと。僕は思わず、その使用人に怒鳴り散らした。弟には遠く及ばずとも、僕とてその辺の同年代を越えた知識と武術がある。その努力を、弟と差があるというそれだけで無能の言葉に落とした無神経さが、僕の燻っていた心に火をつけてしまった。

 使用人の女は顔が真っ青だった。騒ぎを聞きつけた弟は使用人を庇い、僕をなだめるような言葉をかけた。僕は自分が醜態を晒してしまったことを恥じ、素直に言いすぎたと謝ろうとした。


 先程まで震えていた使用人が、虎の威を借るように突然息を吹き返し、僕を罵倒した。


 無能は無能だ、おちこぼれの長男は邪魔だ。

 次男の足枷の分際で地位だけ振りかざした肝の小さな小物だ。

 家の将来など考えもせず、長男というだけで弟の有能さを食い潰す気だろう。

 今だってほら、使用人を脅す長男と使用人を――弱きを庇う次男だ。

 器も才能も弟に大きく劣る癖に。

 もしお前が上に立っても、自分は次男についていく。


 僕は、怒りを通り越して絶句した。色んな感情が綯交ぜになって、何も考えられなかった。自分の全てを否定された気分になった。弟は流石に使用人の頬をはたき、言っていい事と悪い事がある、と叱った。使用人は弟に謝り、俺を睨み、そのまま去っていった。弟はその使用人を連れて、申し訳なさそうに去っていった。

 数日後、彼女は家の使用人から弟直属の使用人になった。

 その日の夜、父に呼び出され罵声を浴びせられた。


 なんという醜態だ、我が家の恥だ。

 使用人という弱い立場の人間に当たり散らすなど、上の人間のすべきことではない。

 今まで我が子と思ってこの家に居座らせてきたが、もはや我慢ならん。

 家督は弟に継がせる。貴様は即刻この家から出ていけ。

 これにて絶縁とする。敷地を跨ぐ事、二度とまかりならぬ。

 もし間違いでも我が家の家名を掲げてみよ、罪人として罰してくれる。


 僕は、悪くない。礼を失したのはあちらだ。

 僕は無能じゃない。弟とくらべないでくれ。

 僕はそんなに狭量じゃない。許そうとしたのに拒絶されただけだ。

 僕は――僕の言う事を、なんで誰も聞いてくれない。

 僕の努力を、成長を、どうして誰も見てくれないのだ。


 使用人や執事が淡々と僕の荷物を処分し、必要最小限のものだけが押し付けるように与えられる。

 父は厳格を通り越して断罪人のような面で。

 母は諦観のような、僕を憐れむ目で。

 使用人、家庭教師、衛士、執事、幼き頃に僕に期待してくれていた筈の人々は、一様に事務的な――二度と会う事のない人間と接するような姿勢で。


 心がいっぱいいっぱいだった。

 今まで口にしなかったありとあらゆる言い訳のような事実をぶちまけ、駄々をこねた。子供の頃から一度もこねたことのない駄々を。いや、もはや懇願に近かった。こんなのは間違っていると、みんなおかしいと。

 誰も僕の言う事を真剣に受け止めはしなかった。落伍者の醜い言い訳程度にしか感じていなかった。

 最後に、あからさまに僕を見下す目をしたあの時の女使用人を連れた弟が、涙を流しながら、息災で、と別れの言葉を告げた。


 僕は、成人もしないうちに家を追放された。


 絶望と喪失感。貴族階級の全てに後ろ指を指される形となった僕は、失意のうちに国の外に出た。路銀は途中で底をつき、かびの張ったパンを口にして腹を下し、浮浪者扱いされて塵を投げつけられ、ふらふらと、ふらふらと、歩き続けた。


 やがて本当の浮浪者に身をやつした。自分で何かをするという気分になれず、ただ無為に貧しい彼らと今を食い繋ぐだけの行動を続けた。そうするうちに、僕は自分の武術や知識で皆に力を貸すようになっていった。自分で行動するより、他人に教え行動させる方が集団の為になっていた。

 僕を頼りにしてくれる浮浪者たちに囲まれ、はっと、自分がやっと自分に戻った気がした。

 そして僕は、自分がこうなったのは弟の所為だという、逆恨みに近しい怒りを覚えた。

 憎い。妬ましい。許せない。これまで醜いと律していた己の感情が止めどなく溢れる。


 僕が認められなかったのは、お前がいたからだろう。

 だから、お前の存在を無駄に、無為に、散らせてやる。


 僕は行動に移った。もう家督など関係ない。自分を裏切った家族たちなどどうでもいい。ただ一つ、嘗て愛した筈の弟に、僕を涙を流して見送った――見送るだけでなにもしようとせず、僕から全てを奪った弟に復讐してやりたかった。醜い事も意味がない事も分かっている。それでも、時間が経つほどに憎悪だけが膨れ上がっていた。


 僕は復讐の為に行動に移った。浮浪者たちをかき集めて巨大な一つの自治集団に仕立て上げ、彼らを使って経済活動を行い、国に対して十分な利潤を生みうる『商業スラム』を形成した。スラムとは国にその居住を認められないから国家の加護を受けられない集団だ。財力を持つことは出来る。


 こうして一つの勢力を作り上げ、僕は国家中に密偵や情報屋を巡らせて周囲に利潤を振りまきながら、自分の家、自分の国の事を調べ上げた。あの憎っくき弟は、病床に付した父から家督を受け継ぎ、大貴族の顔として華々しく活動を続けていた。どうせ父に毒でも盛ったのだ、と根拠もない事を考え、盛られた父も愚かだと泥のような思考に一人沈んで悦に浸った。


 周囲には僕の無意味な復讐に反対する者もいたが、そもそも浮浪者だった彼らの多くは社会や誰かに裏切られた人ばかりだ。力を貸してくれる人もまた、少なからずいてくれた。そんな彼らに申し訳ない気持ちがなかったとは言えないが、それをして余りあるほどに復讐とは甘美だったのだ。


 弟の勢力は余りにも一枚岩が過ぎて、探りを入れるのは困難を極めた。何人か探りを入れた末端が殺されたり行方を眩ます事さえあり、その喪失さえ命じた自分でなく弟のせいに思えてきた。そうして数年もの年月が流れ、僕は遂に弟を殺す算段を付けた。

 弟と同じく神に絶大な才能を与えられながら、それをお為ごかしではなく金の為に使う者――曰く、最上級の傭兵。彼と接触を図れることは僥倖だった。彼の突きつけた依頼を受ける条件も、巨大勢力の中枢となった僕にはそう難しいものでもなかった。


 決行前日となった。喜びと恐怖の入り混じった不思議な高揚感で、眠れなかった。

 決行当日の朝となった。あらゆる状況を想定した布陣であることを、再度確認した。

 決行の瞬間となった。あの憎っくき弟のいる部屋へと踏み込んだ。


「……ん? おいショーコ、空間断裂魔法を使わなかったのか? 変なのが来たぞ」

「え? わっ、ホントだ。ゴメン、張らなくて困った事って今までなかったから忘れてたぁ!」


 そこに居たのは、まるで見た事のない服と武器らしき物を持った二人の女。

 それと、驚愕に目を見開いたまま事切れている、『上半身だけの』弟だった。


「――あ」


 傭兵が何をするよりも早く、気が付けば、僕は弟の頬に手を伸ばしていた。

 しゃら、と、触れる前に弟は光となって崩れて消えた。


 僕の憎しみは、僕の嫉妬は、僕の努力は。

 僕の僕の僕の僕の僕の僕の――僕の全ては、行き場を喪った。


 こんな結果を、求めてはいなかった。

 それだけは、確信を持って言えた。




 ◇ ◆




「『才能開花』コスト3、『身体開花』コスト3、『初志固定』……コスト3もあるんだ。めっずらしー」

「他は? 斬っても外見が変わらんって事はそっちにコストは割いてないんだろ?」

「えっとね、『他画他賛』……初めて見るカモ。えっと、自分の周囲が勝手に自身を高く評価して上へ上へと押し上げてくれる、一種の洗脳スキルだね。コストは5で、合計14コスト! まぁまぁの稼ぎだね!」

「たまーに居る、自覚がないまま他人に嫌われるタイプだな。取り巻きが勝手に盛り上がって迷惑やらかすから、その恨みがトップに行く。そのくせ本人は自分の迷惑さに自覚がないから余計に話を拗らせる」

「仕切りたがりの子とは違った意味で面倒くさい奴だぁ」


 既に処断した男は、どうやら彼の兄らしい人の目の前で消えてなくなる。

 名前は確か、ユウヤ=トランディスタ。旧名は満田みつた勇夜ゆうや。転生後も名前だけ変わらないのがスキルのせいかそうでないかは知らないが、粛清対象にしては珍しく、悪に属する人間とは言い難い。戒律違反も一条と三条で、他については戒律と逆の事をしている面もある。ただただ、自分の影響力といった部分に極端に無関心なだけで。


 『悪い奴ではないからこそ迷惑な存在』というのはいる。自分の影響力を軽々しく振るい、その余波で嫌な顔をしてる人間を見ても何故そう思っているのかまで理解が及ばない。どこか共感性があるのに、その種類がごっそり削られている。他者の目を極端に気にする奴も面倒だが、気にしない奴は善意で場を荒らすから余計に迷惑なのだ。


 満田は、それが正しいと思い全く変わりなく行動を続けた。その満田の周囲も、全く変わりなく満田だけが得をする環境の為に動き続けた。前に処刑した皐原という女の狂信者たちは「彼女に与する自分が勝ち組だ」という醜くも人間らしい優越感を覚えていたのに対し、満田の周囲は全員が善意でそれが正しいと思い込んで動いていた。

 正しいと思ったから密偵も殺したし拷問したし、正しいと思ったから兄のような彼を快く思わないであろう存在を蹴落としたし、正しいと思ったから父親に毒をも盛った。傍から見れば、彼らは狂った集団に見えただろう。正義も多数派もそうだが、善意も甘い毒だ。善意であるからこそ呵責も何もありはしないのだから。


「どうすればいい」


 不意に、その転生者を見ていた男が呟く。法典によると、こいつの兄という役割にいた男。確か弟の信望者に家を追放されたそうだが、その後何を経てここに来たのかをマツノは余り知らない。知らないから、彼に対して無関心だった。


「弟を殺したいから、僕はここまで来たんだぞ。醜い男に堕ちてここまで来たんだ。泥を啜って、落ちぶれて、悪徳も重ねて……」

「そうか。ご苦労だったな。お前、明日から多分トランディスタ家とやらの当主になってるぞ」

「は? ……なる訳が、ないだろ」


 意味が分からない、という顔だった。

 確かにこのまま時間が過ぎれば普通はそうはならないだろう。

 しかし、なる。何故ならそうなるのは本人の意志でもなんでもなく、『そうなる』からだ。


「なるさ。お前の弟は『いなかったことになる』から、信望者の思想もやったことも全部綺麗になかったことになる。コイツのばらまいた恩恵やらも、お前が家を追われてから得たものも、綺麗さっぱりなくなる」


 処刑人に粛清されるとはそういう事だ。消えてなくなるか、替わりの誰かが欠けた場所に収まり、それに矛盾がないよう記憶が割り振られる。転生者は名にも残せない。子供がいたとして、それも残らない。可能性の彼方に全ては融ける。それは契約内容でもそうなっていたし、仕事ついでに見る新聞の類でもそのようだった。今回の場合、最初から弟などいなかった、というのが妥当な修正というものだ。


「なん、だよそれ……頼んでないぞ。納得も出来ない!! 何故僕があんな仕打ちをしてきた連中のトップに返り咲かなければいけない!? おかしいだろう!!」

「それも問題ない。そのつらい仕打ちも明日にはなかったことになり、あんたの記憶からも消える」

「弟が助けた連中は!? 民の潤いはどうなる!?」

「いなかったなりの結果になるだけだろ。あとは、手柄の一部が他人のものになって終わりだ」

「僕の築いたコネクションは!? 貧民街の皆が得た利益はどうなる!?」

「よく分からんが、お前以外の指導者がやったことになるか、若しくは貧民のままだろ」

「ふざッ……けるなぁぁぁぁアアアアアアアッ! 誰が、誰が誰が誰が! 誰が二度とあんな家の家督を継いでやり直すものか! 僕の今までを否定する奴など、そうだ! 貴様らこそが悪魔だッ!! ここで死んで弟を!! 僕の復讐を返せェェェェェェェェェェェッ!!」


 或いは、兄にとって弟とは、一つの拠り所でさえあったのかもしれない。

 殺す為に縋る。殺す為に生かせという。

 男はついた膝を立てて立ち上がり、鬼気迫る形相で剣を掲げてマツノに走り込んでくる。現地人にこうされたのは初めてだが、粛清対象でもない相手を殺しても、別にいいそうだ。何故なら次にマツノたちが夢をとおしてこちらに来れば、それもなかった事になるからだ。


 だが、男はマツノに辿り着く前に後ろにいた男に首を叩かれ、白目を剥いて倒れ伏した。

 その男の口が――身長は高めで、人が好さそうに見える――気まずそうに開く。


「あー。事情はよく分からないんだが、要するに悪人を成敗した天の遣い的な人ってことでいいのかな?」

「……ああ」


 正直に言うと、思いのほか軽い口調で要点を突いた言葉をかけられたことに少し驚いた。同時に後ろからやってきたショーコが裾を引っ張る。


「マツノちゃん、この人も転生者だ。ただ、戒律違反ゼロだからコスト不明だしお金にならないよ」

「ふーん。そうか。残念」

「何やら不吉な話しか聞こえないんだけど……マツノちゃんって言うんだ。もう一人はショーコちゃんだっけ? うわぁ、道理で転生者の悪人をそんなに見ないと思ってたら、殺されてたのね……」


 若干青い顔をしながら、転生者は気絶した男を担ぎ上げてベッドの上に寝かせた。


「そいつに気を遣っても、明日にはそれもなくなるぞ」

「まぁそうらしいけど、でもだからって放っておくのも俺の気が引けるから」

「無駄な努力ゴクローサンっ!」

「ヒドイね君。というか、あーそうか……これで俺の依頼の話も報酬の話もパーになんのかぁ……鬱だわ、外で飲んだくれてくる。失礼します」


 依頼料とやらが余程大きかったのか、転生者は悲しさを紛らわすような歌を歌いながらフラフラと部屋を出て行った。その背中からは、これまで見てきた転生者たちの傲慢さや無駄な存在感はなく、ただの幸薄い男にしか見えなかった。


「ね、ね、マツノちゃん。あの人さ、弟くんを殺すお兄ちゃんに加勢してたってことは結構ワルだよね?」

「……そうだな」

「なのに戒律無違反って事はさー、あの人みたいなのが『未来』に求められる人なのかなぁ?」

「……さぁな。それに、どうせこの出会いも明日の夢には泡沫となる」


 人生に無駄なものなど何一つない、などという真理を嘯いた言葉がある。

 しかし果たして、ベッドに眠らされている復讐者の、もうすぐ消える憎しみの期間が無駄でないと言えるのは果たしてどこの誰なのだろう。先達の言葉とは、案外とあてにはならないものだ。

満田の能力は、主人公が絶対正しいという前提で進む偏ったストーリー、というのをモデルにしています。

主人公最強というのも稚拙になりがちですが、そんなポジのキャラを皮肉った話も稚拙になりがちな気がしたり。あと素人はすぐ主人公の名前に夜の字を入れて〇にしたがるという偏見も交じっていたり。


戒言法典のルール(ショーコ調べ)。

一つ、粛清対象のプロフィールと能力、これまでの行動が簡潔にまとめて表示される。

一つ、粛清対象と関わった人間の情報は、場合によって更に簡潔に表示される。

一つ、戒律は遭遇した順に別個ページに記録されていく。

一つ、めっちゃ丈夫で燃えないし破れない。

一つ、落書きしても痕が全部消える。

一つ、粛清対象じゃない転生者が現れると名前くらいは出るが、それ以外は殆ど情報が出ない。

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