グレイスの思い
―ガチャ。
その音でエレイナは目を覚ます。
「・・・んん。」
もぞもぞと布団から這い出して、上半身を起こす。
すると、ドアを開けた人物が視界に入る。
「あ、悪い。起こしちゃったか」
そう言ってグレイスは、起こしてしまったことを謝罪する。
「いえ。気にしないで下さい」
エレイナは微笑みを返す。
「それより、こんな朝早くにどこに行っていたのですか?」
グレイスの服装を見てエレイナは問う。
「え?ち、ちょっと朝の散歩に行ってたんだよ」
「本当ですか?」
エレイナの問いに挙動不審になったグレイスをエレイナは問い詰める。
「あ、あぁそうだけど」
・・・。
・・・。
「・・・本当ですね?」
「う、うん」
グレイスがそう答えると、エレイナは視線から鋭さを消した。
「なら信じます。もう聞きません」
そう言ってエレイナはベッドから降りて、グレイス の下まで寄って来る。
「それで、今日は何をするんですか?」
「今日は、エレイナの弓を取りに行って、それから 街の外に出てエレイナの戦闘能力を見せてもらおうか と思ってるんだけど」
「そうですか。それなら着替えてきますね」
そう言ってエレイナは奥の部屋へと消えていった。
それを見送ってグレイスは一息吐く。
「・・・良かった」
それから着替え終わったエレイナを連れてグレイス達は、武器屋へと向かう。
「うれしそうだな」
隣で嬉しそうに頬を緩めているエレイナにグレイス は、話しかける。
「え?そうですか?」
気づいてなかったのか・・。
「あぁ、とても楽しそうだ。」
グレイスにそう言われてエレイナは顔を赤くして俯いてしまった。
「す、すいません一人ではしゃいでしまって」
この子結構ネガティブなんだろうか・・・
「い、いやそういう意味で言ったんじゃなくて、そ ういう楽しそうな顔も可愛いなと思ったんだよ」
「え!?」
「ん?どうした?」
「い、いえ何でもありません・・・」
エレイナは首まで真っ赤にしてグレイスの背中に隠 れた。
あれ?何か変な事言ったかな?
そんなこんなで二人は武器屋に到着した。
「いらっしゃい。頼まれていた弓は出来上がってる よ」
店の扉をくぐると、そう言って店主が迎えてくれ た。
「すいません。無茶な注文をしてしまって」
「まったくだ、昨日の今日でこれほどの弓を作れっ て言うんだからな」
文句を言いながら店主は店の奥から弓を取り出してくる。
ゴトッという外見とは裏腹な、重みのある音を響か せて弓は机に置かれる。
え?弓だよねこれ。
そんな事を考えているグレイスを他所にエレイナは軽々と弓を持ち上げる。
・・・マジか。
「エ、エレイナ?重くないのか?」
グレイスの問いにエレイナは頷いて弓をグレイスの方に差し出してくる。
・・エレイナが持てるなら・・―お、重ッ!
戸惑いながらも弓を受け取るグレイスは、受け取った弓の重量に驚いた。
「そいつはとんでもなく重いぞ」
「もっと早く言ってくださいよ・・」
店主の手遅れな警告にツッコミを入れながら弓を返す。
「だ、大丈夫?」
エレイナが心配そうに聞いてくるのに、グレイスは大丈夫と一言言って、会計をしようとすると、店主に止められた。
「おっと、代金は要らねぇよ」
「いえ、そういう訳には・・」
「久しぶりにいい仕事をさせてもらったから、そのお礼だ」
「でも・・・」
それでも食い下がってくるグレイスに、店主はため息を一つ吐いて言う。
「分かった、代金の代わりに、この店を贔屓にしてくれ、それ以上は絶対に受けとらねぇぞ」
グレイスはこれ以上店主を説得するのは無理だと判断し
「・・・分かりました。これからもよろしくお願いします。」
深々とお辞儀をした。
それを見たエレイナもグレイスに習ってお辞儀をす る。
「・・・最後に一つ聞いていいか?」
頭を上げるグレイス達に店主は言う。
「はい。何ですか?」
「あんたらはどういう関係なんだ?」
店主の質問にグレイス達は息を呑む。
この国では、奴隷制度はあるものの、実際に奴隷を持つことは禁止されている。
だから、グレイスは正直に答えることが出来ない。
しかし、グレイスは一つだけ心に決めていることがあった。
「あ、えっと・・私はこの人のど―」
だから、グレイスはエレイナの言葉を押しのけて言 う。
「この子は俺の妻です!」