新しい街と昔話
「ふわあぁぁぁっ」
街道をゆっくりと進んでゆく馬車の中でグレイスは大きな欠伸をこぼした。
冒険には出てきたものの、何の目的もなく出てきてしまったグレイスは暇を持て余していた。
「グレイス、暇なのは分かりますが、もう少しやる気を出してください
あの子だってあなたが連れてきたのですからこれからどうするのか考えておいてくださいね」
そう言ってアリエは御者席に座っている少女に目をやった。
グレイスが冒険の準備の際に連れてきた奴隷の少女、彼女が馬車を操り次の街へと向かっていた。
「まぁそれは追々…な」
「まったく、いつもそうなんだから
だから何時まで経ってもコミュ障が治らないんだよ」
「うるせぇよ、俺だって好き好んでコミュ障やってんじゃねぇんだよ」
「ご主人様、間もなくグレイランド聖法国に到着いたします」
アリエステにぶつくさ文句を言っているグレイスに対して奴隷の少女が声をかけた。
奴隷の少女とは言っているが、彼女は奴隷では無い。
エレイナ達と同じように奴隷の契約を解除してあるのだが、名前を持っていないようなのだ。
名前を付けてやらないといけないと考えてはいるのだが、その場でいい名前が思いつかなかったのでそのままにしていた。
街に着くまでにいい名前を考えておかないとな。
宗教国家 グレイランド聖法国
様々な宗教のために建国されたグレイランド聖法国、有名な神からマイナーな神まで神によって決まり事や崇め方は違うが、それぞれの神がどんな神なのか信徒同士が理解しあっている為お互いに助け合いながら生活している。
「へぇ、ここがグレイランド聖法国。
神なんて信じてはいないが、神秘的な街だな」
「すごいですね」
「全く、神を信じていないとか大っぴらで言わないでよ。
街の皆さんは敬虔な信徒なんだから」
いや、そうかもしれないが神を崇める云々言っているが、お布施だのなんだので金を集めるようなことしていては神様もため息を吐いているろう。
「ご主人、神様を信じていないのに何でこの国に来たんですか?」
「ん?それはな、ちょっとこの国のとある奴に借りを返させようと思ってな」
「とある奴?」
「まぁ、着いてくれば分かるさ」
グレイスはそう言うと歩き出した。
「グレイスに私以外の知り合いなんていたっけ?」
「え?ご主人はアリエステ様以外に御知り合いがいないのですか?」
アリエステの呟きにシェート達は驚いた。
「うん、グレイスは私と出会う前まではずっと家の中に引き籠っていたんだよ。
私がたまたまグレイスのお家にお邪魔した時にグレイスを見つけてそれからの付き合いだから」
「アリエステ様と出会ってからも外に出たことはないんですか?」
その質問にアリエステは考えこむがすぐに首を振った。
「うん、ないと思う。
私も何度も外に連れ出そうと頑張ったんだけど、全部玉砕したんだよね…」
「…そうだったんですか」
当時のことを思い出したのだろう、アリエステの瞳に影が映ったのに気付き、エレイナ達はそれ以上何も言えなくなった。
「ごめんね、暗くさせちゃって」
「いえ。
でも、グレイスにそんな一面があったなんて思いませんでした」
アリエステの語るグレイスはエレイナ達の知るグレイスとは似ても似つかぬ人物だったが、そんなところがあるからこそ今のグレイスがあるのだということがエレイナ達には何となく理解することが出来た。
グレイスには人徳がある、エレイナ、シェートだけでなくアリエステまでもがグレイスについて行く事が自然と決まったことがその証拠だ。
「まぁ、グレイスがそんなこと考えて動いているわけないんだけどね」
「ん?何か言ったか?」
アリエステ達が見ていることに気づいたグレイスが不思議そうに首をかしげる。
そんなグレイスを見てアリエステ達は笑った。
「なんでもなーい!」
大変お待たせいたしました。 今回は特に目立ったこともなくグレイスの昔話ということで進ませていただきました。 次回は新しい街ということは新しいキャラクターの登場ですね! よくあることですがそのキャラクターが物語に深くかかわってくる…かも? そんなこともあるかもな次回もお楽しみに!