冒険の準備は捗らない
アリエステ王国からほど近いダンジョン”双丘の双子塚”初心者冒険者向けに整備された迷宮。
そこに何故か俺は一人で放置されていた。
「…なんでこんな事になったんだったけ」
アリエステやエレイナ達がなぜいないのかというと…
王城を後にしたグレイス達は冒険の準備をしようと商人街に足を運んでいた。
「はぁ~、緊張した~」
商人街に入るとアリエステは盛大な溜息を吐いた。
「緊張って言ったってお前、自分の父親だろ。
まぁお前が立場とかそういうのを気にしていたのは知ってるけどな?そんなことを気にしたってどうにもなんないだろ」
「いや、そんなことが言えるのはグレイスだけだから…」
「そうですよ、何で国王様達がいたのにあんなに大きな態度がとれるんですか、グレイスがデザイアさんを叩いた時は何をするのかと肝を冷やしましたよ…」
そんなに気にするようなことかな~、シェートもエレイナの横で頷いてるし。
そんなこんなでゴタゴタしているうちに薬屋に到着した。
「よう兄ちゃん!久しぶりだな。
今日は…ポーションを買いに来たのか?」
一度エレイナ達を買っているおかげか、初めてこの店に来た時よりかなり印象が柔らかくなっているみたいだったが、後ろに連れていたアリエステを見て言葉を変えたみたいだ。
「あぁ、最初は俺だけだったんだけど今はこの大所帯だからポーションが全然足りないんだ。
それと、馬車はある?」
「おいおい、ここは薬屋だぞ。
そんなものあるわけねぇだr」
「あぁ、誤魔化さなくても大丈夫だよ。
アリエステもこの店の正体は知っているから」
誤魔化そうとする店主にネタばらしをすると、溜息を吐いた。
「そうかい…バレない様に店を回していたと思ってたんだがなぁ。
あぁ、あるぞ馬車」
そう言うと、立ち上がって後ろの扉に消えていった。
それに続いて俺たちも扉の先へと進む。
「まさか、俺の勘違いで裏の商売をバラしちまった奴がここまでの得意先になるとはな」
「それを言ったら俺だってまさかここまで裏に御世話になるとは思ってなかったですよ。
今まで表で動いてきたのに裏で動いているなんて知られたら大変ですから、なるべく避けてきたというのに」
「まぁ、この国で裏とつながっていないのは株主と商会のグリムレイスとアルケイド、あとは王家くらいだろう」
エレイナ達は俺がグリムレイスとアルケイドだということは知っているので、皆苦笑いだった。
「待たせたな、馬車の準備ができたぞ」
「ありがとう、それとこの子も一緒に連れていくよ」
そう言ってグレイスは獣人の子を連れてきた。
「おいおい、お前…俺は全然構わねぇけどよ。
周りを少し見てみろよ」
平然と奴隷を連れてきたグレイスに店主はため息を吐いた。
「ん?周りがどうかしたのか?」
グレイスは振り返りエレイナ達が膨れている事に気づき首を傾げた。
「何膨れているんだ?
エレイナとシェートは分かるが、何でアリエまで膨れているんだよ」
「別に!」
そう言い捨ててアリエステは馬車に乗り込んだ。
「どうしたってんだ…」
アリエステの気持ちに気づいていないグレイスにシェートもため息を吐いた。
「ご主人様流石に今回は鈍感すぎます、あれではアリエステ様が可哀想ですよ。
後でアリエステ様に謝ってくださいね」
「え?俺何か悪い事したのか?」
「それに気づけないのならご主人様は男としてどうかと思いますよ?」
シェートにそう言われてもグレイスは何が悪かったのか思い当たる節が無かった。
「やっぱりアリエステさんも…アリエステさんのこと好きだから応援したいけれど、その相手がグレイスだなんて…シェートだっているのにそれにアリエステさんとあの子まで加わることになる、私はどうしたらいいのか」
エレイナはアリエステの気持ちに気づき一人でブツブツ考え込んでいた。
「お前ら、騒ぐのはいいがいちいち騒ぎ方が面倒臭えなおい」