ボス戦③
「ご主人、ここは一旦引きましょう。
その傷ではまともに戦えない」
「そうだよグレイス。
今は取り敢えず一旦引いて、アリエが援軍を連れて戻って来るのを待とうよ」
エレイナ達が言っていることはもっともだ。
だが、先程もあったように、帝王スライムは手傷を負った敵を逃すような間抜けな事はしない。
今ここで俺たちが逃げてしまうと帝王スライムは街まで追いかけて来るだろう。
街に帝王スライムを連れて行ってしまえば、何も知らない冒険者や腕に自信のある者が帝王スライムに手を出してしまうかもしれない、そうなってしまえば街は火の海どころかむしろ何も残らないだろう。
そんな事は許されない。
街の人達とは関わりはない、街を出るのも逃げるような形になってしまった。
だけど、そんな街でも大切にしているものは沢山ある。
それが壊されていく光景なんてものは俺が生きているうちは見たくない。
だからこそ
「引くわけにはいかない…!」
お前にも死ぬなって言われたしな。
―
だからこそだよ。
痛む身体に鞭を打って、もう一度帝王スライムと対峙する。
「…青年。名はなんと言う」
・・・喋ったあああぁぁぁぁ!?
え?帝王スライムって喋れるの?
伝承ではそんな事伝わっていなかった、だけどこの帝王スライムは意思疎通ができている。
ならば他の帝王スライムだってできた可能性はあった。「おい青年、聞いているのか」それならば何故先代達は意思疎通をしなかったのか…いや、しなかったのではなくできなかった?
スライムを倒したことに激怒した帝王スライムが聞く耳を持っていなかったとか?
「人の話を聞かんかこのバカモン!!」
スライムの柔らかいボディからは想像もできないような硬さの体当たりが俺の顔面に炸裂した。
「何を一人で盛り上がっとるんじゃ!儂が名前を聞いとるんじゃろうがさっさと答えんか!」
可愛らしい姿から飛び出す老人のような言葉に狼狽つつも帝王スライムに名を名乗る。
「そうかグレイスと言うのか、お主のお陰で正気に戻ることができたわい。感謝するぞ」
「は、はあ…」
ん?正気に戻ることができたと言う事は…
「あの、一つお聞きしたいんですが」
「なんじゃ?」
「先程正気に戻ったとおっしゃられたではないですか、と言う事はさっきまでは怒り狂って正気を失っていたと言う事ですか?」
帝王スライムはグレイスの言葉に少し照れたような様子を見せた。
「…恥ずかしながらその通りなんじゃ。
帝王スライムとしての性なのか同族がやられてしまうとどうにも抑えられなくてな」
おっさんみたいな言葉遣いのスライムが照れている様子は思いのほかシュールだな。
それよりもやはり俺が思った通りだったな。
帝王スライムは元々、意思疎通する手段を持ってはいるが、人間と合間見える場面が場面なだけで意思疎通ができる状況ではないだけだったのか。
それならこの様子をエレイナが連れてくるだろう軍隊に見せれば、帝王スライムに対する認識を改められるんじゃないか?
「あの、もうしばらくここにいてもらってもいいですか?」
「ん?それは構わんが何でじゃ?」
不思議そうに聞いてくる帝王スライムに理由を簡単に説明する。
帝王スライムはそれに納得したようで、集まってきたスライム達と戯れ始めた。
「グレイス!お待たせ、皆んなを連れてきたよ!」
それからしばらくして、エレイナが軍隊と冒険者を連れて戻ってきた。
「大丈…大丈夫!?グレイスその傷」
エレイナが俺の様子を見て驚いているが、俺のことは後でいい。
そんなことよりも大切なことがある。
「エレイナ、軍と冒険者を引いてくれ。
帝王スライムとは戦わなくていいんだ」
「それはどう言うことなの?」
「帝王スライムは俺たちの味方になり得るということだ」
お待たせいたしました。
これにて帝王スライムとの戦いは終わりとなります。
次回からは、魔物との交流編に入っていきます。
お楽しみに!