ボス戦②
風の吹き渡る穏やかな平原。
白くて可愛い球体とそれに武器を向ける冒険者。
その間に走る緊張感は最早、死地に赴く歴戦の戦士のよう。
「さて…どうしたものか」
格好つけて帝王スライム達のヘイトを奪ったのは良いものの、直前に立てていた計画が一瞬で崩れ去ったことにより、グレイスの余裕は無くなっていた。
いつもならその場の流れに身を任せてなんとか乗り切るのだが、今回は一人で戦っているわけじゃない。
だから、いつもの倍以上の安全性を確保していた計画だったのだが…
「まぁ…過ぎたことをいつまでもうだうだ言っている暇は無さそうなんだよ…な!」
小言をボヤいたグレイスに向かって帝王スライムが酸性の粘液を噴出するが、グレイスは粘液の拡散範囲を確認して上で、一番相手が悔しがるだろう位置に回避行動を取る。
この回避行動のお陰で帝王スライムのヘイトがグレイスから逸れることはまず無いだろう。
ただのスライムが相手ならば。
グレイスが何度目かの粘液を避け、受け身から立ち上がったその時。
帝王スライムが狙いをグレイスから外し、グレイスの後ろにいたエレイナ達に向かって粘液を飛ばした。
「「え?」」
エレイナ達は飛んできた粘液に反応出来ない。
「巫山戯んな、このバカ饅頭!」
粘液が背中にかかり、服を溶かし、筋繊維に達するところまで溶け落ちてしまった。
「「グレイス(ご主人)!」」
エレイナ達を抱えて避ければ良かったのだが、思わず粘液との間に体を挟み込んでしまった。
二人が心配そうに声をかけてくるが、激痛のせいで全然耳に入ってこない。
流石に身体を盾にするのはキツイな。
―
激痛に耐える頭の中に声が響く。
五月蝿い、お前の出るようなことはじゃない。
―
それはお前の事情だろう、俺の知った事じゃない。
―
それは俺自身が何とかする。
お前は大人しくしていろ。
―
―
そんなことは分かっている。
だからこそお前が出る場面じゃ無いと言っているんだ。
―
あぁもう五月蝿いな。
―
そこまで言うのならやってやろうじゃ無いか。
それがどんな結果をもたらし、これからの冒険がどんなものになるかなんてこの選択で決まるとは思いもしなかった。