魔物狩り
綺麗な青空、心地良い春風、そして風に揺れる美少女の髪、どんなに心が汚れた人間が見ても心洗われる光景。
そんな光景を独り占めしていると思うと、周りでこちらを睨んでくる男達の視線も気にならない。
「グレイス?何を一人で笑っているのですか?」
自分でも気づかないうちに頬が緩んでいたようだ。
エレイナが不思議な顔をしている。
「いや、別になんでもないよ。少し優越感に浸っていただけさ」
凄いよなぁ、男って周りに美少女がいるだけでこんなにも穏やかな気持ちになるんだな。
「? 因みにこれからどうするの?」
「そうだなぁ、取り敢えずは皆の戦力がどのくらいのものなのかを見ようと思う。
だから取り敢えずはここら周辺のモンスターを狩って行こうと思う」
全員の顔を見渡して決意の度合いを確かめてみる。
アリエステはいつも街の周辺の魔物の討伐の仕事をしているからか、特に緊張した様子もなく張り切っている様子。
それに対して、エレイナとシェートは魔物との戦闘は初めてなのか、かなり緊張した様子で武器を強く握りしめている。
この辺りの魔物は、好戦的な魔物が少なく、駆け出し冒険者でも安心して冒険を始めることができるように好戦的な魔物が発生した場合には、国家騎士が出動して危険を伴う魔物の処理を行なっている。だから、特に緊張する必要は無いんだけども初の戦闘ならしょうがないか、危険だと思ったら俺かアリエステが助けに入ればいいしな。
「それじゃあ取り敢えず、あそこにいる魔物を倒してみようか」
そう言って俺が指差したのは、緑の草原に似合わない真っ赤な色をしてプヨンプヨン跳ねている球体。そう、誰でも知っているであろう魔物の代名詞“スライム”だ。
魔物としては最弱の二つ名を持っているが、魔物の中では最高の学習能力を持っており、長時間戦闘をすればするほど戦いづらくなっていくという面も持っている。
「まずはアリエステにお手本を見せて貰うから、どんな感じで戦うか見てて」
アリエステに手本を頼み、少し離れた場所で二人に戦闘を見させる。
アリエステは何故か上機嫌になってスライムに攻撃をした。スライムも反撃に飛びかかるが、アリエステは体を半身にずらし攻撃を避ける。そして無防備になったスライムの真ん中に剣を突き刺す。
すると、パキンッという音を響かせて、スライムはただの液体へとなって地面に吸収されてしまった。
「二人ともなんとなくは理解できたか?」
真剣な顔でアリエステの戦闘を見ていた二人に声をかけると、キラキラした目で頷きを返してきた。
アリエステの戦いを見て自信が持てたのかな、自信があることはいいことだし、自信を持っているうちに少しだけでもやらせてみるのがいいかもしれないな。
「それじゃあ、エレイナから戦ってみようか」
元気に頷いたエレイナは近くにいたスライムに向かって矢を射った。すると、エレイナが射った矢は、真っ直ぐにスライムへと突き刺さりパキンッと音を立てた。
おぉ、見ただけでスライムの弱点に気づいたのか、よく状況の確認ができているな。しかも、矢も寸分の違いもなくスライムの核を撃ち抜いている。
戦力としては問題なく合格点だな。
それに対してシェートはというと…
はっきり言ってダメダメだった。
攻撃を当てた後に一度避けるだけでスライムにはかなりの隙ができる。
そこを狙えばどんな人間でも簡単に仕留めることができる筈なのだが…
「ひゃああぁぁぁ!」「く、来るなぁぁ!」と叫びながら逃げ回るだけで、スライムに反撃する様子がない。
「おいおい、まさかシェートが一番の問題児になるとはな」
シェートの回避行動を習得し始めたスライムの核を潰しながら小さくため息をついた。
戦闘以外のことでは何でもそつなくこなすシェートの最大の敵は恐怖心だったようだ。
しかし困ったな、大体のことは教えることができるけど、精神面の事に関しては最終的にはその本人に委ねられるから俺がああだこうだと言っても意味がない。 だからと言って放って置くつもりは毛頭ないけども頭からかなりの難題とぶつかってしまったなぁ。
「大丈夫か?スライムを倒すことも大切だが、先ずは相手の行動をよく見ることが大切だ。シェートは逃げる時に目を瞑ってしまっている。魔物に対して恐怖心があるのは解るが、どちらかというとその選択は愚策だ」
逃げ回って疲れているシェートにポーションを渡し、戦闘の評価をする。
俺の言葉に疑問を感じたのかシェートだけでなくアリエステまでが不思議そうな顔をした。
そんなに難しいことでは無いのだが…っていうかアリエステ、お前には直接指導しただろうが、何不思議そうな顔してんだよ。
「いいか、誰でも恐怖心が捨てられるわけじゃ無い、それは理解できるよな?
だからこそ逃げる瞬間には相手を見る必要がある。相手がどんな行動をしているか理解していないと、回避できたとしてもその後の行動にラグが生まれる、このラグはスライムやバスなんかの最低階級の魔物を相手にする分には問題はないが、ゴブリンなんかの下級以上の魔物を相手にする場合だとかなり危険になってくる。
だから、スライムなんかの最低階級の魔物で魔物に慣れておく事が必要なんだ」
「で、でも」
食い下がるシェートの頭を撫でながら次の言葉を紡ぐ。
「だけど、急いで慣れないといけない訳じゃない。エレイナにはエレイナの、シェートにはシェートの人には其々に違った歩み方がある。魔物と直接戦う事が苦手なら、後ろからサポートをする事も出来る。これからの旅の中で自分に合った方法を探すといい」
そう言うと暗くなりかけていた雰囲気が気持ち明るくなったようだ。
「ねぇ、グレイス。良い雰囲気のとこ悪いんだけどさ、あれは何…?」
アリエステが驚きの表情で固まっているのを不思議に思い、アリエステの視線の先に目をやると
「あ、あれは…」




