眷属という名の
「おやすみ、二人とも」
寝息を立てる二人にそう声を掛けて部屋を抜け出す。
こっそりと部屋を抜け出して向かう先は母の部屋。
あまり気は進まないが行かないわけにはいかない。
「怒られると面倒臭いからな」
何だかんだ考えていると母の部屋についてしまった。
・・・コンコン
「・・・入りなさい」
控えめにノックしたドアの向こうからさらに控えめ な声が返ってきて危うく聞き逃す所だった。
「失礼します」
ドアの音が聞こえないようにゆっくりと部屋に入る と母はソファに座りワインを飲んでいた。
「グレイスですね、そこに掛けなさい」
言われた通り、母と向かい合うようにソファに座る。
「・・・」
「・・・」
二人の間に沈黙が流れ、気まずい雰囲気になってしまっていた。
グレイスが耐えられずに口を開こうとした時、母が重い口を開いた。
「あの二人は本当に旅の仲間ですか」
やはりそのことについての話だったか。
「うん。あの二人は本当に旅の仲間だよ」
母は質問に答える俺を観察しながら次の質問をする。
「なら質問を変えましょう。あの二人の出身はどこですか」
母は相手が虚偽の応答をしているかどうかの判別をすることができる。
そんな母に嘘は通用しない
「出身はまだ聞いていないよ」
だから嘘はつかない。
「そうですか。では、二人の首にあった痣は何です か」
一番の問題に触れてきたな。
「あれは二人の趣味だよ」
「嘘ですね」
俺の回答に母ははっきりとそう言った。
やっぱりダメか。
「・・あれは、眷属の紋章だよ」
「眷属の紋章?」
俺の言葉に母は意外にも疑問符を浮かべた。
「ちょっと待ってて」
そう言って俺は自分の部屋から奴隷の契約書と眷属の紋章についての書類を持ってきて母の前に並べた。
「母さんの聞きたいことはそれに全部書いてある」
俺の目をしばらく見つめた後、母は紙の束を手にとり読み始めた。
それからしばらく、紙を擦る音だけが部屋に響く。
真剣な様子で書類を見ていた母は読み終えたようで、 書類を机に戻した。
「眷属の紋章がどういったものなのかはわかりました。ですが、なぜ奴隷契約の書類まであるのですか」
持ってきたはいいけどやっぱり眷属の紋章よりもそっちに反応するよね。
「それは・・」
グレイスは言葉に詰まってしまう。
エレイナ達が奴隷であったことは事実であり塗り替 えることはできない。 だが、ここで素直に母に答えると、母の性格だから二人は強制的に俺と離れさせられ る。 しかし、母に嘘は通用しない。
グレイスが意を決して口を開いた時、バタンッと勢いよくドアが開けられた。




