常識
少し時間は戻り、舞台は喫茶店へ
「何だったの?今の光は」
「突然光ったかと思ったら一人居なくなったぞ」
グレイス達の近くに居た客達から戸惑いの声が上がる。
しかし、そんな混乱の中、エレイナだけは、違う事で戸惑っていた。
今のは?・・契約書が光った瞬間、二人とも気を失っていた。 だけど、グレイスだけは突然空いた空間の穴に落ちていった。 確かに気絶していた筈、だから魔法が発動できるはずが無い。 ・・・だとすると、私達以外の誰かが?
「お前ら!何をやっている!」
その言葉の主を中心に新たに戸惑いの輪が広がり、客達は声の主を認識した者から次々とに跪いてゆく。
その声の主は、割れた人並みを堂々とした足取りでエレイナの前まで歩み寄ってくる。
「君が、この騒ぎの中心か?」
そう言って高圧的に声をかけて来た人物は、言葉とは裏腹に、どう見てもシェートよりも年下にしか見えない容姿をした、少女だった。
「貴女は、大人?子供?」
エレイナの口から溢れた疑問に、少女は顳顬をヒクヒクさせながら
「私は、こう見えてもいい大人です。そんな事より何があったのですか。かなりの騒ぎだったようですが」
まだ若干顳顬がヒクヒクしているが、彼女は話を本筋に戻す。
エレイナは、この事は言っていいのか分かり兼ね、少し悩んだ後に
「契約の解除を行った。そしたらこうなった」
「契約の解除?もしかして君達は、奴隷の売買をしていたのか?」
エレイナの言葉に彼女の視線に更なる警戒の色が浮かんだ。
「まぁいい、どちらにしろ我々と一緒に来てもら う」
「ちょっと待って下さい。さっきの光の時に1人居なくなったんです。空間に飲み込まれて行って・・」
エレイナがそう言うと、彼女はため息を一つ吐く。
「そんなことがある訳無いでしょう、冗談を言うの も場所を選んでください。あなたの立場が悪くなるだけですよ?」
嘆息交じりにそうい言った彼女の目の前にグレイスが吸い込まれた穴と同じものが表れた。
「常識というものは壊すためにあるんですよ」