奴隷の契約書
町外れの丘にある、鐘楼の上部の街が見渡せるフロアに夕焼け空を見上げる人影が一人。
無造作に切り揃えられた黒髪を靡かせ、憂鬱そうに細められた眼は虚ろに宙を舞っている。
黄昏感満載の場所へ近づく足音が一つ。
「・・・来たか」
瞳に光を戻して、グレイスがその人物に向かって声を掛ける。
その人物は、少し躊躇った後にゆっくりと姿を現す。
「元気だったか?」
そう声を掛けられたエレイナは、躊躇うように口を開いたり閉じたりした後に、声を出す。
「・・・何で」
「何だって?」
「何で契約書を破いたりなんかしたの」
真剣な顔でそう聞くエレイナの様子に、グレイスも真剣な顔になって答える。
「何でって何も―」
そこまで口にしたところでグレイスはあることに気づく。
「って言うかお前それ・・」
そう言ってエレイナの首筋を指差す。
そこには、別れを告げる前には無かった、赤く色づいたハート型の刺青のようなものが現れていた。
エレイナはそのことを伝えるつもりだったようだが、
「・・・これは」
と頬を赤らめて口ごもる。
ん?何で赤くなってるんだ?
エレイナの首の刺青を不思議に思ったグレイスは、契約書に何か手がかりが無いか確認する。
1、この契約書に名前の書かれた者は奴隷となり、その首には従者の紋章が現れる。
2、この契約書に書かれた奴隷は契約者の命令を遵守する。
3、この契約書に書かれている奴隷は何処に居ても強制的に契約者の下へと召還することができる。
4、この契約が不当に破棄された場合は、紋章が一生消えることは無い。
5、この契約書の効力は、契約の解除又は奴隷の死亡及び契約者が寿命で死亡するまでとする。
6、この契約書に書かれている奴隷は契約者に対して一切の危害を加えることはできない。
7、契約解除の際には契約者の潜在意識の確認を行う為、冗談や脅迫による契約解除はできない。
8、この契約の効力は、初めに契約した契約者にのみ反映される為、契約の委託及び移譲をすることはできない。
これより下文は注意である
9、3における召還の後24時間以内、召還された奴隷は契約者から半径10m以上離れることはできなくなる。
10、4における紋章の定着に伴い、その紋章は契約者以外にも視認が可能になる。
※紋章の定着の際、契約者及び奴隷の双方にお互いに対して好意を持っていた場合、黒い菱型の従者の紋章から、赤いハート型の眷属(夫婦)の紋章が現れる。
眷属の紋章については、別紙に記載されています。
そういえば、何か注意事項に書いてあった眷族の紋章ってやつがあんな感じの物だって書いてあったな。
―ん?
眷属の紋章については、別紙に記載されています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ は?




