悪魔のような
どこにでもあるような普通の集落。
村人達は互いに手を差し伸べ合って何不自由無い暮らしを送っていた。
だが、そんなある日、その村が山賊に襲われた。彼らは、村に押し入り、若い女性と食料を奪い、他の村民達は全員殺し、家に火を放とうとした時だった、彼らの目の前でありえない事が起こった。
火を放とうとしていた男を初めとし、山賊の男達が、糸の切れた操り人形のように倒れ始めたのだ。
その様子に村の女性達は何が起きたか分からず困惑する。
するとどこからともなく声が聞こえてくる。
『強くなりたいか』
その声に更に女性達は困惑する。
「強くなりたい!」
そんな中一人の少女が、そう声を上げる。
『お前は強さの先に何を求める』
「私の守りたいもの達の生を」
『そのためにお前は何を犠牲に出来る』
「私の全てを」
それらの答えを聞いた声の主は、声を上げて笑う。
『―先程の質問に全て即答するとは、気に入った。私の力の一部を貸してやろう』
すると、少女の手の甲に赤い紋章が浮きあがる。
『力の使いすぎにはせいぜい気をつけるんだぞ』
そう言って声の主は消えていった。
・・・・・・
何で今こんなこと思い出すんだろう・・・
『ウウォォォオォォォォォアオアオアアァァアァ!』
その時、人間が発しているものとは到底思えないような咆哮によって、エレイナの思案は吹き飛ばされた。
男も驚いて声のする方へと視線を向ける。
しかし、二人の視線の先には何も居ない。
男は不安になって辺りを見回すが、誰も居ない。
誰も居ないことを確認すると、安心したのか胸を撫で下ろす。
そして、エレイナに向き直り、エレイナを拘束している手枷に手を伸ばす。
―いや、正確には伸ばそうとした。
なぜか、それはすぐに分かった。
ボトリ、と地面に男の肘から先が音を立てて落ちたからだった。
「ギャアアアァァァァァ!腕が!俺の腕がァァ!」
男は遅れて来た激痛に悶絶し絶叫する。
すると、脳が生命の危機を察知し男から意識を刈り取る。
意識の無い男は重力に引かれるまま地面へと崩れ落ちる。が、男が地面に打ち付けられることは無かった。
「おいおいこの程度で気絶してくれるなよ」
悪魔のような笑顔を湛えたグレイスが男を掴んでいたから。