奴隷の少女
はじめまして雪月華です。
今回の『俺の嫁は奴隷だけど何か?』初投稿作品ですので、色々と文章がおかしなところや誤字脱字があると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
町外れにある小さな薬屋、一見した限りではごくごく普通の薬屋である。
だが、この薬屋には秘密があった。
「...ここか」
その薬屋にやってくる一人の男がいた。
その名は、グレイス・ミュードラント、この街で金融会社を経営しているジェフリー・ミュードラントを父親に、その父の秘書をしているクレイア・ミュードラントを母親に持つ、いわゆるボンボンである。
「しかし、父さんも母さんも無茶言うよなぁ、16歳になったんだから一人で旅をして来いなんて」
グレイスはこんなこと言っているが、この街では16歳になった子供を旅に出させるという法律がある。
その法律というのは、所謂冒険家と呼ばれる人達を育成するために制定されたものである。
冒険家は仕事に付くまでの就職期間のようなもので、冒険をして魔物を狩るのが得意な者は魔物ハンターになったり、冒険から離れて店を出すなど様々な職業に就くことが出来る。
愚痴を零しているグレイスだが、言葉とは裏腹に心はこれからの事を考えてわくわくしていた。
「えーと...武器は買ったし防具も買った、あとはポーション類だな」
そう言ってグレイスは店の扉を開ける。
扉を開けて覗き込んだ店内は、しばらく誰も来ていないのか埃が溜まっていた。
「いらっしゃい」
グレイスを迎えたのは、ガタイのいい40代後半くらいの店主と思われる男だった。
「あ、どうもこんにちは」
思わずグレイスは背筋を伸ばしてしまう。
そんなグレイスを見て店主の男は立ち上がる。
そしてグレイスを値踏みするような目で眺めると、グレイスを店の奥へと招いた。
「着いてきな」
グレイスは訳が分からず呆然と立ち尽くしていると、店主に声を掛けられて慌てて着いていった。
地下へ向かう階段を降りている間、二人とも無言で歩き続けた。
不安になってきたグレイスが店主に声を掛けようとしたとき、店主が徐に立ち止まった。
「お客さん」
「は、はい」
突然声を掛けられてとぼけた声が出てしまう。
「ここで見たことは他言無用でお願いします」
「え、それってどういう...」
そこまで口にしたところでグレイスは気づいた。
店主の向こう側に見える扉から漏れ出てくる声に。
そして、それに気づいたグレイスに向けられる店主の殺気をも含んだ視線に。
「――ッ!...分かりました」
グレイスがそう言うと、店主はゆっくりと扉を開けた。
押し開けられた扉の先に現れたもの。
「――ッ!」
その光景にグレイスは言葉を失った。
両手両足を鎖で繋がれ、猿轡を銜えさせられた人達。
年端も行かない子供から思春期真っ只中だと思われる青年まで。
容姿も黒髪から金髪、黒い瞳から碧眼まで。
様々な人達がこの薬屋で飼われていたのだ。
「それでお客さん、予算はどのくらいで?」
店主の言葉でグレイスは現実に引き戻された。
「え?あ、あぁ、予算は気にしなくて大丈夫です。...ですが、これは何なんですか?」
「は?何ってあんた見たこと無いのか?」
グレイスの疑問に店主の男は驚きを示す。
「もしかして奴隷...ですか?」
「その通り、こいつらは奴隷だ、どれでも好きなのを選びな」
そう言われ、困惑しながらもグレイスは奴隷達に目を通して行く。
黒髪の少女、金髪の少年、涙で瞳を濡らしている者、怒りを向けてくる者等、様々な者が居る中グレイスは一人の少女の前で止まった。
「・・・・・。」
赤茶色の髪を腰の辺りまで伸ばし、赤色の瞳に怯えを貼り付けた細身の少女。
他にもパッと見た感じでは可愛いと思える子は何人か居た、だが何故かこの少女だけは違った。
不思議に思い、少女をじっと見ていると店主の男が声を掛けてきた。
「そいつにするのか?」
グレイスは少し悩んだが、首を縦に振った。
「はい、この子にします」
そして、少女とポーション類の支払いを済ませて店を出た。
「さて、どうしたもんか...」
「・・・・・。」
少女は黙って俯いたまま何も喋らない。
まぁ、この子からすると俺はただの悪人だから喋りたくても喋れないよなぁ。
『――』
でも、会話くらいは出来ないと意思疎通が出来ないからなぁ。
『―じゃない』
しかし、そう簡単にいくものでも―
『あの子、あんな歳で...』
何だよ五月蠅いな!
そう思って辺りに視線を向けると、道行く人がこちらを見てボソボソ話をしている。
へ?俺?
そう思ったのだが、人々の視線が自分に向いていないのに気が付く。
その視線を追うと、自分の後ろに居る少女に向けられていた。
少女はそれに気づいており、顔を赤らめてさらに俯いてしまっている。
そしてグレイスは今更ながら気づく、少女が薬屋で買ったときの格好のままであることに。
あ、そういうことね。
なぜ人だかりが出来ているのかを理解したグレイスは少女を引き連れて群集から逃げるように駆け出す。
「・・・!?」
「とりあえず着いてきて」
いきなり手を引かれて困惑している少女にそう言うと少女は頷いた。
グレイス達がやって来たのは、これまた町外れの呉服屋。
「・・・?」
なぜこんな所に連れて来られたのか理解が出来ていないようで少女は首を傾げる。
「その格好のままだと不便だろ?」
そう言ってグレイスは店の扉を開ける。
「いらっしゃ~い」
どこかのバラエティー番組のように迎える店主に会釈をして、店に入る。
「君の好きなのを選んでいいよ」
「・・・!?」
グレイスがそう言うと少女は首を振る。
あれ?何か間違ったかな。
「どうしたの?服、要らないの?」
そう聞くと少女は頷く。
う~ん。俺が勝手に選ぶわけにも行かないし、弱ったな...そうだ!
「じゃあ、君が選ばないんだったら僕が選んであげる」
グレイスはそう言いながら服を選び始める。
「これなんてどうかな」
そして持ってきた服を少女に渡す。
少女はグレイスに渡された服を広げてみる。
「君に似合いそうじゃない?」
笑顔でそう言うグレイスとは裏腹に少女は顔を真っ青にしていた。
その原因は少女の手の中に握られているレオタードにあった。
「どうかな?」
そう聞いてくるグレイスに少女は音が鳴りそうな勢いで首を振る。
よし、掛かった。
「え~、でも俺だとこんなのしか選べないからな~、どうしようかな~」
グレイスがそう言うと少女は急いで服を選びに行った。
そんな少女をみてグレイスは笑みを零した。