第2話〜幻想への誘い〜
ではどうぞ‼︎
悠花side
色々とあったが、全員集まることが出来た。
「…じゃあ、早速行こうか?」
隣で中性的な声がする。心映がずれた鞄を直しながら問い掛けた。
勿論私も望も頷くが、一人だけ馬鹿がきょとんとした顔をする。…まさか。
「え?どこにいくの?」
「おい馬鹿、聞いて無かったのかよ…」
思わず悪態を吐いた私は間違ってないと思う。
「…いつもの森に行く。だよね?」
一つ頷いて、森の方角へ歩き出した。
この近くの森は小規模で殆ど林と言っても差し支えない程度しかないが、必ずしも安全と言い切ることができないので学校からも立ち入りを禁止されていた。
だが精々が注意喚起をする程度、そんな事で好奇心の塊である子供を止められるとも思ってはいないのだろう。
学校側の体面を保つ保険的な意味合いが多分一番強い。
何故ならここら辺の小中学生の公園と化している今の状況を学校が知らないはずがないからだ。
そこまで危険でも無いし、実際今まで事件や問題すら起こる事は無かった。
これからも起こる事は恐らく無いだろう。
イレギュラーが無ければ。
整地のされていないでこぼことした地面から無作為に伸びた雑草、青い空を覆い隠す様に緑を咲かせる森の木々。
木漏れ日が照らす足元には小さな白い花が咲く。
そんな森の奥。
木々の新緑の葉に遮られた暗く道無き森の奥に向かって四人分の足音と話し声が聞こえる。
「この森っていつ見てもここにあるよね!」
「森が移動するとか逆に怖いんだが」
「そこは大規模破壊魔法でどかーんと!どかーんとな!」
「心映、お前は何の話をしているんだ…」
紋華、私、心映、私の順だ。
二人共元気が良いのはよろしいのだが、話が致命的に噛み合わない。
少しは静かな望を見習って……
「そういえば望はどこだ?」
「え?さっきから見てないよ?」
…森の中で迷子とか洒落にならないぞ。
背筋を冷たいものが通り過ぎる。
だがその不安は案外杞憂だったようだ。
「あ、いたいた!」
少しだけ離れてはいるが木々に遮られず見える範囲に望はいた。
よかった。私は安堵のため息が漏れた。
そんなやり取りが行われているとは全く気が付かず、静かに木の幹に手を伸ばしていた。
一体何をしているのだろうか。
そんな好奇心で近づいていった紋華は、しかし途中で固まってくるりと体を反転させると走って戻って来た。心なしか表情が硬く顔色が青い。
紋華のその表情を見たら…もの凄く気になるじゃないか。
気がつけば、隣の心映と同時に足を踏み出していた。
「「…なるほど、理解した」」
「蛇が苦手だとかお前は幼稚園児並だな。だがお子様なお前でも流石に見るだけならば大丈夫だろう?望の所に行くぞ」
「蛇とかにょろにょろ腕とか首とかに巻きついてくるだけじゃないか。噛みつかれなければ窒息の恐れ以外無害な奴なのに何故そんなに怖いのか謎なんだけどさ」
二人で戻って来て、今は絶賛青い顔でがたがた震えている紋華をヘルスケア中だ。
だが慰めているはずなのに先程より顔が蒼白で震えが大きくなっているのは何故だろうか?
何か間違った事言った?
まあいいか。
望の方を見ると、まだ蛇を捕まえていない。早く捕まえればいいのに。
紋華の蛇克服計画の準備にはその蛇が必要なのだ。
いつの間にそんな計画が建っていたのかは突っ込んではいけない。
あ、お前その木枝飛び出て…
「うぇ⁉︎」
木の枝に頭がぶつかり、望は短く悲鳴をあげた。その衝撃で蛇は幹から落ちて逃げて行ってしまう。
「あぁ…逃げられた」
これで計画が遠のいてしまったではないか。
3人揃って肩を落としたせいか、紋華が背後で喚いている気がするが生憎とイヤホンを付けているせいで何も聞こえない。
黙ってもう片方の耳にイヤホンを付けた。
「まあ良い、行こう」
「止めたのは君なんだけどねぇ…ってどうしたのさ、望!」
突然望がよろめいたかと思うと、そのまま倒れこんでしまった。硬直で足が止まる。ぎりぎりの所で心映が滑り込んで支え、ゆっくり寝かせた。
「望、だいじょ………」
「紋華?」
声が途中で途切れ、慌てて振り向くと紋華が糸の切れた人形のように崩れ落ちてくる。
今度こそ心臓が止まったように錯覚した。
顔を殴打されるよりはと木の幹で紋華の身体を押さえつけ、私よりも背の高い紋華を必死で支える。
視界の端で突如がくりと膝を着く友の姿が見えた。