第1話〜待ち合わせ〜
ではどうぞ。
翌日。まだ日が登っているかどうかも怪しい時間に、僕は起きていた。
何時もなら学校に間に合うぎりぎりの時間に起きるのだが、今日は土曜日。
それも珍しく学校がない土曜休日だ。
僕はその時間帯を有効活用すべく、今日に限っては4時には既に目を覚ましてからずっと廃人の如くパソコンと向かい合っていた。
先に言って置くが、断じて廃人ではない。
ちゃんと学生生活を謳歌しているし、四六時中光る板を見つめ続けているなんて疲れるじゃないか。
こんな事しているのには、普通に理由がある。
友達に、とあるPCゲームの入れ方が分からないとインストールを頼まれたからだ。
最初は五分もあれば余裕で終わると思っていた。
本当にPCゲームならば。
それがまさか導入が途轍もなく面倒臭い事で定評のある動画編集ソフトだったとは誰が思うだろうか。
……後で文句を言ってやろう。
とにかくこれで設定は終わりだ。
疲れた眼を擦りながら大きく伸びをして、時計を見る。
今は大体6時15分。そんなに時間はかかって無いように思ったんだけどな。
時間って集中していると早く感じるというのは本当の事のようだ。
…….今日は、7時に小学の頃からの親友と遊ぶ約束してたんだっけ?
まだ余裕があるけど、準備して置こう。
そう考えながら立ち上がった。
既に集まっている3人は時計を見て呆れていた。
今、7時10分。最後の一人は完全に遅刻している。
「紋華、何やってんだ……」
白く動きやすそうなTシャツにズボン、常に青いイヤホンを片耳につけているこの子は雪吹悠花だ。
さっきからため息ばかり吐いてるけど、仕方がない。
僕が溜息を吐きたい気分だ。
幸せが逃げたら全部あの子が悪いのだ。
…やっと来たのか。
小高い丘の上から走ってくる馬鹿な友人の姿が見える。
もう会わずに2ヶ月も経つのに何も変わらない友の姿に思わず溜息が出た。が、呆れだけを含まないそれに隣で佇む望が少し笑った気がした。
…ん?何か可笑しくないかあれ。
紋華は前のめりというか、何というか…物凄く変な走り方で坂を下ってくる。
あんな変な走り方で坂を駆け下りて大丈夫なのだろうか…?
足とか。
人間の構造的にあれはおかしい。
何か叫んでいた様だが、人の身体構造の神秘に気を取られて聞き損ねた。
紋華が案外必死そうだったので隣に佇む望に聞いてみる。
「紋華は何て叫んだのさ?」
「止めてって言ってた」
「止まれないのかよ!」
思わず呆れた。
それはもう本当心の底から。
とりあえず馬鹿は自分で止まってくれ。
そんな思いを込めて、巻き込まれない為に僕は馬鹿の射線上から撤退し、ついでに呆れ顔を通り越して真顔になりつつある悠花も一緒に退いた。望も一緒に付いて……
…望は?
「やぁーっ」
「わぎゃ!!」
振り向いた先で見たのは、気の抜けた声と共に望が足を突き出し、勢い余った紋華が少女らしからぬ断末魔を上げながら地べたに突っ込む混沌とした光景だった。
ここで、人物紹介
秋風 心映
電子機器の扱いとゲームが得意。
悠花と家が近く、仲も良い。
雪吹 悠花
心映と家が近く歩きで5分ほど。
音楽が好きでいつも聞いていて、絶対音感も持っている。
夏凪 紋華
心映の幼馴染。好奇心旺盛で一旦乗り気に成りだすと一人で突っ走って行ってしまう。
小桜 望
普段は大人しめな性格だが、極度な動物好きで少し目を離すと居なくなっていることが多々ある。
野良猫の溜まり場に良く混じっている。