プロローグ?
梅雨が明け、じきに蝉が五月蝿く鳴き始めるであろう7月のとある学校に、その少女はいた。
「はぁ…」
きらきらと光が射し込む窓際の席で頬杖をつきながら、今年中学に入ってきた1年生である秋風 心映はどうしようも無いくらいに退屈していた。
理由は簡単。
もう中学に入り3ヶ月になるにも関わらず、彼女はクラスの人達と馴染めていなかったのだ。
四月に皆が緊張感漂う面持ちで並んでいた事がとても懐かしい。
自分は行事に浮かれ、録に交友関係も持とうとせずに一人で飛び込んで行ったと言うのに。
いつもそうだ。
僕の思慮の欠片も無い行動には本当に本当に溜息を吐きたくなる……
自分で言ってて無性に悲しくなってきた。
そして至極全うな事を言うに、今は授業中なのでぶっちゃけ交友関係なぞあまり関係がない。
では何故そんな事に思考がトリップしていたのか。
……正直に言うと、暇なのだ。
先生が黒板にチョークで書いた文字をひたすらに写す作業は正直意味があるとも思えない。
常に頭の半分くらい使って関係ない事を考えていなければ眠ってしまいそうだ。
教室全体を見てみると、シャーペンを持ったまま半分寝ている生徒やノートの紙の切れ端を交換している生徒が何人か見える。
ちらりと見ただけでこれなのだ。僕は寝てないだけマシだと思う。…絶対先生は気が付いている筈なのにね。
心映はクラスメイト達から目を逸らし、未だ教室内と机を遥か彼方から照らす光を手の平に受ける。
日差しが差しこんでくる窓の席はくじ引きで引き当てた特等席。
睡魔に襲われる事が欠点だ。
良い事は特にないので早々に友人に譲ってあげよう。居たらね。
灰色一色に塗りつぶされた地面から無機質な立方体が乱立している。
微かに聞こえるのは駅のホームの音楽に掻き消されたバイクのエンジンの音。
これが数百年くらい前は日本中どこを歩き回ったって見る事も聴く事も出来なかったと言うのだから驚きだ。
ただ今も昔もこの地球を照らす光だけは絶対変わらない。きっと未来も変わらない。
夏も、冬も、地球は季節を繰り返し続けるのだろう。
これからもっと暑くなるのだろうなと思って少しげんなりした。
チョークの音、小さな談笑、教室だけ外の陽気と切り離された痛い静寂と、大分教室内に入り込んで来た夏の日差しが刺さり続ける。
…このままでも良いのだろうか?
唐突にそんな事を思う。
このまま中学を卒業して、高校を卒業して、大学を卒業して、働いて、死ぬ。
現代を生きる大部分の日本人に示された道筋、所謂王道という奴だ。
少なくとも僕はこんな道、それこそ死んでも嫌だと思うけど。周りは寄り道をさせようとはしない。道を逸れる時間が勿体無いってね。
しかしこのまま行くと立派に『一般的な』街道を歩む事になるだろう。
それで良いのだろうか?
一度きりの人生なのに、つまらない事に時間を割いて。
対して変わり映えのしない日常を過ごして。
そんなの決まっている……
死んでも嫌だと。
何時の日か、何時かの『非日常』に憧れた。