愛娘誕生
2人ぼっちに出てきた、タカとシュンが共演したドラマはどんな話だったか?を想像して書いた作品です。私の彼役がシュン、画家役がタカと明記してあります。
ソウルでの暮らしは想像してたより、よっぽど快適だった。
私の予想だと言葉は通じないし、買い物も気安く行けないし、昼間はシュンもいないわけだから時間を持て余して退屈だろう。昼寝と読書と漫画に浸るしかないか?と思っていた。
確かにぼんやりする時間もあった。しかし、日本から山のように持って来たハングル講座のCDを聞いたり、必要に応じてちょっとした買い物に行ったり、慣れない炊事、洗濯で、一日はあっという間に過ぎた。
私は昔から、人見知りではあるのだか、与えられた環境に馴染むのが早い。逆に知らない人ばかりに囲まれての生活は小気味よかった。新しい自分としての出発をしたのだという実感が湧いた。
それに....
私はそれまでは自分も気を付けていたのだが、シュンの元に飛び込んで、安心したのだろうか?すぐに妊娠したのだ。
最初はつわりだと思わなくて、なんか身体がダルかった。母に結婚したらいつ妊娠するか分からないからむやみに強い風邪薬を飲まないように、何回も言われていたので、母が持たせてくれた実母三を煎じて飲んだ。シュンが玄関を開けた時のあの匂いだけはダメだと言う^_^
しかし、妊娠だと分かった時の私とシュンは2人で抱き合って喜んだ。理屈抜きに嬉しかった。
母は日本に帰ってこいと大騒ぎだったが、私の意思でソウルの病院で産む事に決めた。
たとえ数ヶ月でもシュンから離れるのはもう二度と嫌だった。
両家の初孫になる事もあり、両家の親達がすでに大騒ぎで私は気が重かったが、無事女の子を出産した。韓国でも日本でもいや海外のどこにでも通じるようにと、シュンがユナと名付けた。
私もシュンも、ユナを溺愛した。
そんなある日、百合さんとリュウ君がソウルに遊びに来た。2人は結婚式をハワイであげ、日本で友人達とパーティをした。私達が子連れで出席を遠慮したので報告をしながら来てくれたのだ。
『なによー。全然帰って来なくて。そんなにこっちで2人で熱々してたいわけ?それにすっかりお母さんになっちゃって?』
と、百合さん。
私は以前、入籍の手続きの時一度帰ったのだが、その時も、とんぼ帰りだったから百合さん達に会えなかった。
『ユナたーん、リュウおじちゃんでちゅよぉ〜。パパより若いハンサムでちゅよぉ』
と言いながらリュウ君とユナはすっかり仲良しだ。
そんなリュウ君を愛おしそうに見る百合さん。
『貴女がこんなに早くお母さんになるとは思わなかったなぁ。もうちょっと2人で楽しむんだと思ってた。子供って可愛い?私ももう30だし早い方がいいよね?』
『で、その後のタカ先生と愛子の噂なんだけど....』
私は思わず緊張する。百合さんもリュウ君も絵画教室は続けてるらしいのだが、私達がいた頃のようなグループ的な雰囲気はもう無いと言う。
『愛子は、どっかのスナックで見たって人がいるらしいけど、よくわかんないわね』
『で、タカ先生が、タカ先生に瓜二つの美人と、歩いてた。美也子さんは最近みかけないから居なくなったんじゃ無いか?って話はよく耳にするわ』
そっか、タカ先生のお姉さんの話、私、百合さんに言って無いんだよね。美也子さんの話も。タカから聞いてすぐにソウルに来ちゃったし。愛子はあの街でやっぱり執念の炎消せずに生きてるんだろうな。
私はもう子持ちになったと言うのに、やはりまだタカと再会するのが怖かった。自分の築き上げた砂の城が一瞬で波にさらわれるような恐怖があった。
そう、あの日のように....
幸せに暮らしながらも、まだ昔の自分が出てきそうで怖い私。
次回 最終回です。