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ペットとともに

作者: いさまた

ペットに関する物語ですが作者自身ペットを飼ったことがないため事実とは異なる部分が含まれています。それを頭に入れた上で読んでください。

「こっちおいで〜。」


そう言いながら僕は手を叩き同じ言葉を何度か繰り返した。しばらくその動きを繰り返すと、前足と後ろ足を元気いっぱいに動かし、僕の愛犬、みーが近づいてきた。僕は、近づいてきたみーを抱き上げ優しく撫でた。


「よくできたね〜」


僕は毎日このように公園でみーと過ごす時間がとても好きだ。みーが家に来てから1日も忘れたことがない。平日は散歩をし、土、日はボールなどを使い一緒に遊んでいる。おそらくこんな姿を知り合いに見られたらいじられるネタに間違いない。

そして、土曜日の今日もいつも通り公園でみーと一緒に遊んでいた。元気いっぱいに遊んでいるみーはとても愛らしかった。自然と僕も笑顔になっていた。


「とってもかわいいですねー。」


後ろから急に話しかけられ、びっくりした。後ろを振り向くと可愛らしいトイプードルを連れた僕と同じ高校生くらいの女子がいた。散歩ということでラフな格好だがオシャレにスカートとシャツを着こなし、彼女の可愛さを引き立たせていた。


「ありがとうございます、そちらのトイプードルもかわいいですね。」


お世辞だと思われるようなセリフだったため本心が伝わらなかったなと自分の語彙力に落ち込んだ。


「ありがとうございます、コロって言うんですよ。いつもここに来るんですか?」


「はい、毎日来ますよ。ちなみに僕はみーです。」


僕がそう答えると彼女は屈んでみーと呼んだ。するとみーは先ほどと同じく元気いっぱいに彼女の胸に飛び込んだ。彼女はその元気の良さに驚き、後ろに転びそうになった。その時、スカートが少し無防備になり僕はドキドキしてしまった。彼女は抱きついてきたみーを撫で、微笑み腕から下ろした。腕から下りたみーは今度はコロのところにいき、挨拶をした。相性が良かったのかすぐに仲良くなった。僕たちはその様子を見ながらいろいろ話をした。


「明日もこの時間に来ますか。コロも楽しそうなので。」


彼女の提案に僕は胸が踊り、口元が緩みそうになる。


「明日も来ますよ。」


彼女はそれを聞き、ホッとした表情をして帰っていった。僕の気持ちを代弁するかのようにぼくの愛犬、みーがついて行こうとしていた。



次の日、僕がみーを連れて公園にくるとすでに彼女は来ていてコロと遊んでいた。その姿はとても絵になっていてずっと見ていたいと思った。


「あ、こんにちは。」


彼女は僕に気づき近づいてきた。僕も挨拶をして近づいた。僕たちの愛犬も互いに近づいていった。


「すみません、遅れて。」


僕は彼女より遅くなってしまったことに対して申し訳ない気持ちを抱いていた。


「全然、大丈夫ですよ。」


彼女はそう言い微笑んだ。服装は昨日よりオシャレで少し化粧もしているように感じた。


「あ、ボール」


彼女が気づいたので僕はカバンから少し顔を出していたボールを取り出し、転がすとみーとコロが遊びだした。僕たちは近くのベンチに座り話をした。


「えーと、コロを飼い始めてどれくらいなんですか。」


「飼い始めて今、10年くらいです。」


「10年も飼っているんですか」


「幼い頃からずっと一緒なんです。」


なんて他愛のない会話を僕たちはした。そんな時間がとても幸せに感じ、ずっとこの時間が続けばいいと思った。しかしそうはいかない。1時間くらい話をしたところで彼女が帰らなければいけない時間となってしまった。


「今日はありがと。」


「僕も楽しかったよ。」


僕たちは自然とタメ口で話す仲になっていた。


「明日も来るの?」


「明日は学校があるから今度会うとしたら土曜日かな。」


「そっか、じゃあ、土曜日もこの時間で会わない?」


僕はこのチャンスを失ったらもうないと思い勇気を出してみた。


「いいよ。」


彼女は全く嫌な表情を見せず、むしろ喜んで誘いにのってくれた。僕は最高の気分で家に帰ることができた。彼女と会うまでの一週間は落ち着いて過ごすことができなくて、はやく彼女に会いたいと常に考えていた。僕は完全に恋に落ちていた。


そして土曜日、僕は一時間悩んだ服を着て早めに公園に向かった。早く来すぎたため彼女はまだ来ていなかった。僕は時間があったので飲み物を買い、みーと遊びながらのんびり待った。

しかし一時間経ち、待ち合わせの時間になっても彼女は姿を見せなかった。時間が経つごとに不安がこみ上げ、時計を見る頻度が徐々に増えていく。


「おそいな」


待ち合わせの時間から1時間が経っても彼女は現れない。飲み物は空になっていた。みーは疲れたのか大人しくベンチに座っている僕の足元に横になっていた。さらに時間が過ぎ夕方になり騒がしかった子どもたちが帰り、辺りは静かになった。そして完全に暗くなり点いたり消えたりする電灯の薄暗い光が僕のことを照らした。この時、僕は彼女のことを何も知らないことに気づいた。連絡先も住んでいる場所も名前さえも。プライバシーに関わることは訊いてはいけないと思い、訊けないでいたのだ。そう、ただのペット友達だったのだ。

結局その日、彼女と会うことはなかった。

僕は先週と全く違う意味で落ち着いて過ごすことがしばらくできなかった。

彼女と会えたのはそれから一週間経った土曜日のことだった。僕は日課であったみーと公園に来ていた。僕が公園でみーと散歩をしていると見覚えのある人を見かけた。みーもそれに気づいたようで元気いっぱいにその人のところに向かった。


「こんにちは。」


僕が彼女に話しかけると下を向いていた彼女が顔をあげた。その顔はとても寂しそうな表情をしていて無理に笑った顔を見るのが辛く感じた。僕はコロを連れてないことに気づき嫌な予感が全身を駆け巡った。僕はこの時、何を言えば良いのか、全くわからないでいた。彼女の悲しみの大きさは誰も何を使っても計り知れないものだろう。みーもそれを察したのか静かにしている。僕はこのままだと彼女が壊れてしまうのではないかと不安になり優しく僕の体で包んだ。彼女も僕の体に身を委ね悲しい涙を流し続けた。

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